土の魔法師 邂逅編2
事の発端は2日前。
昼間から夕方にかけて演習場に篭っていたその帰り道、事の引き金を引く事件が発生した。
帰り道にて野犬複数に出会ってしまった際、幸か不幸か魔法行使用の触媒を所持していたために、それを用いて魔法を行使することとなる。
使用した魔法は土属性の魔法師御用達、ゴーレムの生成であった。
もちろん使用後は完全に破壊したため、そこまでであれば何も問題ないはずである。
しかし、翌朝望まぬ知らせが届くこととなる。
ゴーレムの未処理が原因で咎められることになったのである。
通常、触媒を用いて魔法を行使すれば、その残滓が発生し一定期間残っている状態となる。
そして、主に防犯上の目的で触媒の販売者は国の規定により触媒自体に細工を入れている為、魔法の行使に影響がなくても残滓にはそれぞれ微妙な差が生じる。
その残滓が分析された結果辿り着いたのがロシュであった訳だ。
何であれゴーレムの放置は、弾丸の入った拳銃を道の真ん中に放置しているようなものである為、それなりに重い罰が科せられる訳である。
ただ、今回に限っては残滓だけでは説明のつかない不可解な点があるために「花の楽園」へと流されたのだ。
その不可解な点というのは、その時ロシュが持ち合わせていた触媒ではゴーレムを二体分生成するには足りなかったことだった。
触媒の管理は魔法師にとって最も重要な仕事であり危機管理であると言っても過言ではなく、その為の記帳が幾らか役に立った訳である。
この状況になった経緯を話し終わると、ロシュは静かに口を閉じて改めて向かい側に座るスイレンへと目をやった。
その時目に写った、スイレンのやや不満げな顔にやや怖気付いてしまったロシュによって気を引き戻されたスイレンが口を開いた。
スイレンがやや不満そうであるのには訳がある。
「花の楽園」は本来は道を外れてしまった魔法師の為の救済の場であった、というよりはそうあるべきであった。
ただ、平和になったことに加え、かつての戦争への反省から魔法に関する規制の強化の甲斐もあってスイレンへと流れてくる仕事というのも以前のような仕事は減り、今のような仕事が増えたのだ。
スイレンとて平和に越したことは無いと考えているであろうが、
自分は占い師でない以上に探偵や便利屋ではない、というスイレンの心の声が聞こえて来そうなくらいではある。
事実、今回の相手は、救済の判断のために送り込まれたというよりは、今回引き金となった事件の詳細に関する調査のために送り込まれたと言った方が正確であった。
「それで、本当に使用したゴーレムは一体で完全に破壊したのですね?」というスイレンの問いに対して、
「間違いなく一体で完全に破壊もしました」と迷うことなくロシュが返答した。
「何より二体作るには触媒が足りなかったので」
そのロシュの弁明に関しては上からの報告書によってほぼ真実であろうというのがスイレンの考えであった。
ただ、証拠があるといえどもロシュが焦っていたのは事実であった。
今回の調査に与えられた期間は1週間であり、その期間である程度無実を証明できなければその後の魔法師生命に関わるからである。
現状は触媒の没収だけで済んでいるが、確実に白であることを示せなければ今後触媒を購入できなくなる、すなわち魔法師としての終わりが待っている可能性が高いのだ。
触媒を生成しようとしたとしても「鍵」となる材料は国によって管理、販売されているため触媒を買えなくなった時点で魔法との繋がりが絶たれる訳だ。
「これだけは聞いておきたいんですが、もし無実が証明されれば魔法を使い続けますか?」
スイレンの少し意外な問いに戸惑いつつも、
「はい」
と迷いなく答えたロシュを見て更に発せられた、
「魔法の代償でいつまで使い続けられるか分からないとしても?」
という問いに考え込んでしまったロシュを見て、
「少し質問が意地悪でしたね。」
そう言うと、スイレンは椅子から立ち上がった。
「ひとまず現場を一度二人で見なければ何とも言えませんね」
と言いながら出かける支度を始めたスイレンに対して、
「この状況で出歩いて大丈夫なんですか」とロシュの最もな指摘があったが、
「あくまでグレーなだけで黒とは決まっていませんから、それに…」
「それに?」
「自分で言うのも何ですが、それなりに人望と信頼はあるので」
やや誇らしげなスイレンの発言を受けロシュも現場へ同行することになったのである。
(続)
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