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ネヴィル・マードック

 母さんから安静を言いつけられてから、2日経ってすっかり元気になった僕はララと屋敷(というより城といった方が良さそうだ)の中や庭を見て回っていた。

 屋敷の塔にのぼりあたりが一望できるところまで来ると城壁で囲まれた小さな城下町が見えた。

「あの町はなんて名前なの?ララ」

「あの町はログフィールといいます。ですから、この城もログフィール城と呼ばれています。」

「ログフィール城は元々、今からおよそ800年前にスウェール公国の隣の領邦ワルシア王国で内乱が起き、ワルシア王国の一部の者がこのスウェールに攻め込んだ事をきっかけに作られた城です。城壁で囲まれたログフィールの街よりも少し山側、ワルシア側にあるのは敵から街を守るためです。もっとも今は城塞としての役割はよりワルシアに近いミッドマウント城に譲り、ログフィール城は伯爵家の居城としてつかわれております。」

「ミッドマウント城はどんなところなのかな」

「ミッドマウント城はアスクード山脈唯一の平地であるミッドマウント高原に築かれた城塞都市です。7つの砦を城壁で囲みその中に街ができました。この砦には今も兵が詰めています。ワルシアも平和になり攻めてくる事はないでしょうが。この町は元は兵士の休養施設と宿舎が中心でしたが、現在では宿場街としても栄えています。ワルシア王国側の街センダーガムまでは半月ほどかかかります。そのちょうど中間がミッドマウント城です。ミッドマウント城を除いては旅人達はみな山宿を転々としながら、旅を続けるのでミッドマウントで休むのです。」

「大人になったらミッドマウント城を通ってセンダーガムに行ってみるのもいいかもしれないね。」

「ええ、センダーガムは大きな街ですから、1度行ってみるのもいいと思いますよ。」

「ところで街や城の周りには山が見えない程、背の高い大きな木があるけどなんで、あんな大きな木があるの?」

「それは『広場の木』といいます。なぜあの不思議な木があるのかは誰にも分かりません。ただ、私たちエルフは広場の木から恩恵を受けてきました。あの大きな木があると木から出る魔力によって周りの空間が広くなるのです。広場の木の周りに街や城を作ればより大きい街や城を作ることができます。また、広場の木の森、『広場の森』の中は、普通の木の森が広がっています。私たちエルフは広場の木の下の森を切り開いて畑や村を作って生活してきました。ログフィールドのような砦のある街や港街以外は街も広場の森の中にある街が多いですよ。広場の木はお城の周りにあるトウヒの木だけでなく、たくさんの種類の広場の木がありますよ。カエデの広場の森に秋に行くと大変きれいです。さあ、日が暮れる前に塔を降りて、お部屋に戻りましょう」

 自分の部屋に戻ると食事にはまだ早いので少し寝ることにした。



 夫に変わり領地の経営をしているエミリーの仕事を邪魔しないよう、ララは、エミリーが手が空いている時を見計らって執務室のドアをたたいた。

「奥様、ララでございます。」

「どうぞ、入ってちょうだい。」

「今日はリチャードはどんな様子だった?」

「リチャード様はログフィール城のいろんなところに興味がおありのようで、図書室、南のメインの談話室、塔、そしてお庭などを見て回られました。」

「そう、ずいぶん元気になったのね。そしたら、あの話もいい話かもしれないわね」

「ええ、今までずっとお一人でしたから、友達ができて良いと思います。」

「先生役がいるわね。ララの旦那さんならやってくれるかしら。」

「もちろん、夫は喜んで引き受けるでしょう。ですが旦那様のお許しを受けなくてもよろしいのですか」

「許しも何も、この手紙を読んでみて」

ララはエミリー宛のケヴィンの手紙を受け取る。そこには貴族の子弟を何人かログフィール城で預かる話とともに、ララの夫ネヴィルを子どもたちの先生としてストックウィン家が雇う事が書かれていた。

「あとはネヴィル次第よ。どうしても嫌なら他の人を探すしかないけど」

「それは大丈夫です。7年も私を待たせた罰として、しっかり私が働かせますから。あと、奥様も良かったですね。」

「ええ、結婚してからずっと待っていたのだから、少しはサービスしてもらうわよ。」

手紙の最後には「待たせてすまなかった。セドリックに公都の仕事と館はすべて任せて領地に戻る事にしたよ。今まで待ってくれてありがとう。」と書かれていた。

「ララ、ネヴィルは大丈夫なの?カレドニアに命を狙われているのでしょう。」

「カレドニア王国もワルシア王国までは手が出せません。それにもうすぐセンダーガムにつくから安心してくれと手紙にも書いてありましたから大丈夫だと思います。」

「そうさ、無事到着したよ。」

懐かしい声にララが振り返ると、背が高いどこか飄々としたダークエルフの男性が立っていた。その男こそ7年も待ち焦がれたララの夫、ネヴィルであった。

「ネヴィル」

立ち尽くすララに向かってネヴィルが口を開く。

「やあ、ララ。待たせて本当にすまなかった。エミリー夫人、これからお世話になります、ネヴィルマードックと申します。」

「ネヴィル、今更挨拶なんていいわ。あなたを雇う事も主人からの手紙で知っているしね。それよりララの部屋に行って荷物を下ろしてきたら?ララは仕事はもういいから今日はネヴィルの荷ほどきを手伝ってあげて。」

「かしこまりました。奥様。」

そう言うと二人はララの居室に向かった。居室に入って荷物をおろすなり、ネヴィルがララを抱きしめるた。ララから大粒の涙が流れ落ちる。7年もの間、カレドニアの政変で引き裂かれた二人は心から再会を喜び合った。


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