夏の日の夢~長い冒険のはじまり~
本編スタートです。
今まで、高熱で寝込んでうなされていたからか、頭がぼんやりしている。同時に自分とは違う別の人物の記憶がよみがえる。エルフの自分「リチャード」ではない。人間の記憶だ。幸せな家庭に生まれたようであったが、病気がちであったようだ。日本という国の中学校という学校で学生をしていたらしい。肝心な自分や家族、友人、学校の先生の名前などは思い出すことができなかった。熱を出していたせいだろうか。
「よかった!本当によかった。」
そう言って泣きながら抱きしめてくれる女性のエルフこそ現世の母さんだった。今まで母さんとしかよんでいなかったから名前は知らない。現世も幸せな家庭に生まれたと思っている。
「ありがとう。母さん」
「いいえ、リチャード。目を覚ましてくれてありがとう。このまま目を覚ましてくれなかったら私、私...」
母さんはそう言って僕の前で泣き崩れた。
「ここは私たちに任せて奥様はお休みください。ずっと坊ちゃんの看病をなさっていたでしょう。私たちに任せて奥様はお休みください。」
そう言って母さんに青みがかった肌のメイドが駆け寄る。そう言われも母さんは動こうとしない。
「奥様まで倒れられては、元も子もございません。お気持ちは分かりますが、どうかここは私たちにお任せ下さい。」
そう言われて他のメイドに支えられながら立ち上がり、「必ず、後で見に来ますからね」と言って母さんは部屋を出て行った。
「メイドさん、ありがとう。それと名前を教えてもらえないだろうか。」
「私はララ、ララ・マードックと申します。坊ちゃま。お体に触りますからまだ、安静にしていて下さい。スープをご用意しましたので召し上がって下さい。回復のためにも。」
「分かったよ、ララ。ところで僕はどれくらい寝ていたんだい?」
「2日と半日ほどになります。坊ちゃまはその間中、お熱をだして、目を覚まさなかったのです。ですからどうかスープをお召し上がりになったら、すぐにお休みになって下さい。わたくしはしばらくこの部屋にいますから何かありましたらすぐにお申し付け下さい。」
ララはそう言うとスープが乗ったお盆をもって来てくれた。燕麦と豆の入ったスープだ。僕がスープを食べ終わると、お盆を片付け、寝かしつけようとしてくれている。最初は寝たふりをしていたが、そのうち本当に寝てしまった。ララが子守歌のようなものを歌ってくれたからだろうか。
また、目を覚ますと朝日が部屋に差し込んでいた。着替えのようなものが机の上に置かれていたのでとりあえず着替える事にした。小さくノックの音がする。ララだ。
「どうぞ」
「もうお目覚めになられたのですか。坊ちゃま。」
「ああ、もう大分良くなったし、熱もない。時間になったら朝食を取りたいから用意しもらえるかな?それと後で、母さんのところにも行きたいけど、大丈夫そう?」
「ええ、もちろんでございます。朝食は簡単なものならすぐにご用意できますが、お召し上がりになりますか?」
「ああ、そうしてくれると助かるよ。心配かけてすまなかったね。」
「どういたしまして、坊ちゃま。でも、その言葉はぜひ奥様にも言ってあげて下さいね。」
「ああ、母さんが起きて落ち着いたら、ちゃんとお礼を言いに行くつもりだよ。ところでララ、朝食を食べ終わったら、いろいろ教えてもらいたい事があるんだけど、いいかな?」
「もちろんです。私は坊ちゃん付のメイドですので。何なりとお申し付け下さい。」
「ありがとう。」
「いえ、とんでもございません。ところで坊ちゃん、お目覚めになられてから急に大人びていらっしゃいませんか?」
「ああ、それについても朝食のあとで話す事にするよ。信じてもらえるか分からないけど。」
「信じますよ。他ならぬ坊ちゃんのお話ですから」