「ストックウィン手記:現代版」
初めての作品なので、どうか皆様、お手柔らかにお願いいたします。
またこの章は導入部のため読み飛ばしても問題ありません。
ある魔導師が現れるまで、魔導陣は子どもの遊びか、貴婦人向けのからくりにしか使われてこなかった。そのため当時の魔導師の多くは女性だったのだ。だからこそ、現代でも魔導陣と呼ばれているのである。もっとも魔導が普及してからは「クラフトサークル」、「サークル」と言っても魔導陣のことを指すようになるので、現代ではこの事はあまり意識されない。
余談だが、魔導陣の普及による女性魔導師の活躍を切欠に、社会に出る女性が増えたことも、アルフヘイム史における、中世から近世への扉を開く要因の一つになるのである。
現代魔導技術の基礎となった近世魔導をつくりだしたのは、後に天才魔導師と呼ばれる、リチャード・ストックウィンである。魔術師の家系に生まれながら、魔法ではなく、魔導陣を使う魔導の研究を行い、様々な魔導陣、魔導具を世に送り出した。「子どもの遊び」や「貴婦人の気晴らし」でしかなかった魔導の重要性を見抜き、社会になくてはならない技術に洗練させた彼の功績は、アルフヘイムの近世史を語る上において欠かすことはできない。
そんな彼も一人で近世魔導を作り出したわけではない。特に彼の妻、キャサリン・ストックウィンは良き助手として、妻として彼を支え続けた。また、彼の魔法と魔導の師であるネヴィル・マードックも欠かしてはならない。マードックが魔法だけではなく魔導も基礎として彼に教えたからこそ、彼が魔導に心血を注ぐ切欠ができたのである。また彼がカレドニア人だった事も彼に良い影響を与えている。今でこそ、広く普及している闇魔導、闇魔法だが、当時はカレドニアでしか使われておらず、その他の地域では迷信により禁忌とされていた。その闇魔法を必ず役に立つからと彼に伝授したのである。もしマードックが闇魔法を彼に伝授しなければ、現代は数段不便な時代になっているに違いない。生涯の盟友であるスウェール大公アーノルド・ルウェリンをはじめとするルウェリン大公家の協力、そして多くの魔導師、魔術師、技術者の努力があって初めて近世魔導が彼の手により完成したのである。
彼の死後に公開されたストックウィン手記はリチャード・ストックウィン自身が当時彼の周辺で起こった事を詳細に書き記した手記である。彼と彼の仲間がどこを旅し、どのように研究し、努力したかが本当に良く記されている。
貴重な資料であるにもかかわらず、今まで注目されていなかったストックウィン手記を手に取ることで、彼とともに当時の世界を旅してみてはいかがだろうか。
―「ストックウィン手記:現代版」のある書店の書評より
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