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8:とある冒険者の視点1

誤字脱字の修正を少ししましま。

 貧乏クジを引かされた。

 隣にいる男にもわかるように溜息を吐き、濃紺のウィッチハットで表情を隠すように指で角度を調整する。

 元々うちのチームは討伐専門で探索なんて面倒なことは専門外だ。

 何を探すのかさえはっきりとしていないなら尚更で、自然と不満が口から出ようというものだ。

 そこにいるやつを潰す――ただただシンプルで面倒事のない仕事だからこそ、私らは何の憂いもなく命のやり取りができる。

 だというのにこんな話が来るということは、余程「フルレトス大森林」の探索が難航しているということになる。

 恐らく、退治屋家業の連中をまとめて「冒険者」として組合に所属させたは良いものの、成果が思い通りにいかず、腕の良い連中を片っ端から探索とやらに出しているのだろう。

 そして帰還した数が明らかに少ない、というのはつまりそういうことなのだ。


「まったく、こっちは探索なんてガラじゃないんだけどねぇ」


「そう言うなよ。組合からの評価が上がれば今後の活動で旨い仕事が回ってくるんだ。一度のハズレくらいは引き受けようぜ」


 隣を歩く赤髪の男――リゼルが宥めてくるが「殺してなんぼ」の業界から強引に移されて面倒事が増えているのに、そこに畳み掛けるようにまた増やしてきたのだから恨み言の一つは言わせてもらう。

 私はもう一度「まったく」と腕を胸の下で組み不満を顕にする。

 すると自慢の胸が持ち上がり、その谷間に彼の視線が吸い込まれる。


(もうちょっといい男になったら、抱かせてやってもいいんだけどねぇ)


 長く組んでいるとそういう感情もないわけではない。

 だが生憎と好みからは外れてしまっており、それを少し残念に思う気持ちはあれど「そうで良かった」と安堵もしている。

 通り慣れたギルドの開かれた扉を抜けると、何人かの視線を感じる。

 碌でもない男に声をかけられることが多いため、今ではリゼルと一緒に行動するのが当たり前になってしまった。

 隣を歩かせるにはほど良い相手ではあるので、適当に話をしながら組合から大通りへと出ると待ち構えていた男女の女性から声がかけられる。


「兄さん! 森林の探索を引き受けるって本当ですか!?」


 白い法衣をまとった少女が駆け寄りリゼルに詰め寄ろうとするが、手にしたスタッフで軌道を修正させると抵抗することなく私の胸に飛び込んでくる。

 濃紺のドレスローブと白のローブが重なると長く美しい金髪を梳かすように撫でる。

 それを抵抗することなく受け入れるとレナは満面の笑みをこちらに向ける。


「ああ、本当さレナ。お前の兄貴は私らに『大森林を歩き回ること』がご所望らしい」


 レナの髪を撫でながら愚痴っぽく言うと、その兄であるリゼルが慌てて言い訳がましい言葉を吐く。


「勘弁してくれディエラ……今後の活動を考えたら引き受けないわけにはいかなかったんだよ」


「まあ、大森林って言ってもそんな奥には行かねぇんだろ? 旧帝国領のちょい先辺りなら精々出てもフォレストタイガーくらいだろうし、それくらいなら問題ねぇさ。そもそも『何を見つければ良いか』を提示されてねぇのなら、適当なもんを『見つけた』ことにすればいいんだよ」


 レナの隣にいた黒髪で色黒の優男が「その程度は問題にもならない」とばかりに口を挟む。

 確かに一理はあるが、問題はその「適当なもの」の範囲である。

 それなりに名の通ったチームであるからこそ、誰でも見つけることができるようなものではギルドも納得しない。


「はあー、エルフ共が領有宣言なんぞしなきゃ、こんな面倒なことにはならなかったのに……何考えてんだろうねぇ、あの耳長連中は」


 それもこれも、5年前に突然共和国が旧帝国領ほぼ全域に及ぶ大森林の領有を宣言したからだ。


「うーん……『汚染で危ない』って最初に警鐘鳴らして不可侵領域にしておいて、それを最初に破るってのもおかしな話だよねぇ」


「いんや、俺は最初からそのつもりで実はこれまでの『汚染被害』はエルフの謀略だった可能性を推すね」


「ジスタってほんとエルフ嫌いだよね」


「ああ、まだこっ酷くフラれたことを根に持っているのさ」


「ちげーって!」と声高に否定するジスタとからかうように疑いの目を向けるレナ。

 そこにリゼルが加わって賑やかな大通りの中に私達は溶け込んでいく。

 このいつもの風景がずっと続くと思っていた。

 そう、願っていた。




 最悪と言って良い状況だ。

 旧帝国基地跡という取り敢えず定めた目的地がドンピシャだった。

 オーガに大量のゴブリン……こいつらがこれまでの失敗の原因だとすぐにわかった。

 警戒はしていたはずだったのに完全に包囲されていたのだから、帝国の施設というやつは本当に碌でもない。

 科学とやらを厭う連中の気持ちが少しだけわかった気がする。

 近づいてきたゴブリンをスタッフで払いながらも小技を多用し手数で攻める――集団に囲まれて相手をするならば大技を狙わず前衛が敵の数を減らすまでじっと耐える。

 うちの前衛ならそれくらいはできるはずなのだが、相手はオーガ……しかもゴブリンの妨害があることもあってリゼルが押し切ることができずにいた。

 おまけにこのオーガは相当戦闘経験が豊富らしく、状況を有利と見るや現状を維持するかのような立ち回りへと変化させた。


(ゴブリンは消耗品、ね!)


 スタッフで飛びかかるゴブリンを殴り飛ばし心の中で吐き捨てる。

 オーガはゴブリンの損耗を全く気にも留めておらず、リゼルの相手をしながらこちらに綻びができるのをじっと待っている。

 状況は悪くなる一方――しかも最悪なことに魔術師がどれだけ厄介かをこいつらは知っている。

 だからこそ、ゴブリンには不釣り合いな盾を持った奴が常に私の前に陣取っている。


(対魔法の騎士盾なんて、どこの馬鹿が奪われたのよ!)


 これのおかげで魔術師という盤面をひっくり返すことができる駒が完全に封じられてしまっている。

 手持ちの術ではゴブリンを減らすには至らず、ダメージの蓄積こそあれ倒すには遠い。

 隙を見て援護こそできてはいるものの、背中を守るレナとの分断を常に狙われている状況では無理もできない。

 投石と矢を防ぐために魔術を使い、オーガを相手取るリゼルにちょっかいを出そうとするゴブリンを牽制し、正面の相手をしながら自分の身とレナの背中を守る。

 ジスタが遊撃枠となりゴブリンの数を減らしてはいるものの数が多すぎる。


(クソ、ジスタがゴブリンを減らす前にこっちが先に瓦解するって読みかい!)


「舐められたものだ」と奮起こそすれ、体力と集中力は確実に削り取られていく。

 そして、破綻の時は予想外の形で訪れた。

 柱の陰から身の丈ほどもある杖を持ったゴブリンが現れ、その杖の先をリゼルに向ける。

 閃光と雷鳴――それがライトニングスピアーの魔法を宿したものであることを察した時には遅かった。


「がっ、あぁ!」


 警告を発する時間などなかった。

 直撃を受けたリゼルの硬直をオーガが見逃すはずもなく、手にした巨大な棍棒による一撃を真正面から受けた。 

 オーガが棍棒を持ち上げると、潰れた頭部に折れ曲がった体……リゼルだったものがそこにはあった。


「リゼル!」


 叫んだジスタが代わりを務めるべくオーガの前に出ようとした。

 直後、転身したジスタの足にゴブリンが飛びかかるとしがみつく。

 それを蹴り飛ばすように振り払った直後に軸足にも飛びかかられ、体勢を崩し膝と片手を地面につける。

 ジスタのショートソードがゴブリンの喉を引き裂く――しかし、後ろにいた一匹から後頭部に棍棒の一撃を受け、得物が手から滑り落ちる。

 それを見るやゴブリンは一斉にジスタに群がり袋叩きにされた。


「グォオオオオオオオッ!」


 オーガの咆哮が合図だったかのようにゴブリンが一斉に襲いかかってくる。

 詠唱もなしに咄嗟に放つ魔法などたかが知れている。

 上手く急所に当てない限り、ゴブリンですら怯ませることが精々。


「舐めるなっ!」


 飛びかかるゴブリンの鼻っ面に小さな爆発を叩き込み視界を奪い、同時にスタッフで顔面を殴るとそのまま薙ぎ払うように別の標的の横っ腹に打ち込み吹き飛ばす。

 足を取ろうと姿勢を低くして突っ込んできたやつの顔面を蹴り飛ばし、再びスタッフを横薙ぎにして正面から向かってきたゴブリンを弾き飛ばす。

 その直後、背後からの衝撃を受けた。


(盾を、投げつけやがったな!)


 所詮ゴブリンの力で投げられたものなので多少よろめく程度だったが、この状況ではそんな小さなものでも命取りになる。

 好機と見たゴブリンが飛びかかってくる。

 スタッフを使い無理矢理姿勢を戻し、振りかぶるゴブリンの手を避けたはずだった。

 胸が大きいことを恨んだのは恐らくこれが初めてだろう。

 伸ばしたゴブリンの手を避けたかと思いきや、その指が私の服に引っかかったのだ。

 体重をかけられ、ずり降ろされた服から二つの豊かな膨らみが飛び出すとゴブリンどもがこちらに向かって殺到する。

 服に引っ張られるように体が前のめりになるが、服を掴むゴブリンを蹴り飛ばし、飛びかかってきた奴をスタッフで叩き落とす。

 だが叩き落とせたのは、最初の一匹だけだった。

 スカートの端を掴まれ、引っ張られて体勢を崩されたところで腕にしがみつかれた。

 振り払おうとしたが、3匹のゴブリンに押し倒されると同時にスタッフを持つ手首を踏みつけられるが、それでも手放さないと見るや両手で持った石を叩きつけスタッフを叩き折られた。

 邪魔だと言わんばかりに錆びたナイフが服を切り、力任せに引き裂かれ抵抗も虚しく肌を隠す布がなくなっていく。

 両手を押さえつけられ、衣服を切り裂かれても下着を掴むゴブリンを蹴り飛ばし抵抗するが、そいつは下着を手放すことなく一緒に後ろに倒れたため破れた白い布が持っていかれる。

 足が伸びた瞬間、その足首を掴んだ盾持ちだったゴブリンが、倒れた仲間を踏みつけ私の股の間に入り込むと太ももを両脇に抱え込んだ。

 押さえつけられた腕をどうにか振りほどこうともがくも、胸を揺らすだけでゴブリン共を喜ばせるだけだった。

 盾持ちの顔が迫りその舌が頬を這う。

 勝ち誇った顔――「今から陵辱してやる」と言わんばかりの顔に頭突きをくれてやる。

 片手で鼻を押さえる盾持ちを鼻で笑ってやると周囲のゴブリンから嘲るような笑い声が上がる。

 周囲の声に怒りの声を上げると一斉にゴブリン達が黙った。

 こいつがリーダー格であることはわかったが、今更知ったところでどうしようもない。

 私の頭突きが余程お気に召したのか、こちらを睨みつけながら胸を掴もうとするがゴブリンには余る大きさなので、手が埋まり爪が食い込む。

 それでも不敵な笑みを止めない私に苛立ったのか頬を殴ってくる。

 視線だけは逸らすまいと目だけはそちらに向けるが、それが視界に映ってしまった。

 その綺麗な長い髪を力任せに引っ張られ、最早原型を留めていない法衣を引き裂き、まさに今下着を剥ぎ取られているレナの姿。

 手を伸ばした先にあるメイスをゴブリンが蹴り飛ばした。

 

――全滅――


 その単語が脳裏に浮かぶ。


(守れなくてごめん)


 本当の妹のように思っていた。

 叶うなら命を賭してでも助けたかった。

 そのレナと視線が合うとコクリと頷いた。


(ゴブリン共の玩具になるくらいなら……!)


 残された道は自害しかない。

 この状況では躊躇すれば最悪が待っている。

 レナもそれがわかっているから頷いた。

 覚悟を決め、舌を噛みちぎろうとしたその瞬間――そいつは現れた。

 オーガにも勝るとも劣らない図体に加え、甲殻のような灰色の肌。

 ゴブリンの背丈程もある長い尻尾を持つ人とトカゲを合わせたかのような新種のモンスター。

 そいつはオーガの前に降り立つと挑発するかのように笑った。



魔術師の服装のイメージはドラクエ3の魔法使い。色は濃紺。

神官の法衣はファンタジーでよくあるタイプ。色は定番の白。

男性陣はどちらもハードレザーアーマー。金属防具はなし。

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