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(´・ω・`)暑さでやられております。また今週ワクチン接種の予定ですので来週はお休みするかもしれません。
既に五日経過している。
フロン評議国を離れ、未探索の旧帝国領南東を探索しているが、未だ何も発見できていない。
簡単に見つかるとは思っていないが、収穫そのものが何もないというのは予想外だ。
物資一つ補給できないというのは些か厳しいものがある。
できればそろそろ生活必需品の交換と消耗した分の補充を行いたかったのだが……余分な手間が増えるのは時間制限が存在する以上好ましい事態ではない。
そしてもう一つの予想外が問題だ。
以前発見したセイゼリアがこちら側に作った前線拠点に砲台が運び込まれていた。
防壁の上に並んだ砲台を望遠能力で確認し、俺は身を隠すと立ち止まって考える。
恐らくアレがおっぱいさんに聞いたものであるのだろうが、遠目から見てもその口径と砲の長さから警戒が必要であると判断。
十中八九、俺が前に倒した量産型も存在していることだろう。
(アレを複数に支援砲撃あり……流石に無理か?)
砲台の性能が未知数というのもあって手出しが難しい。
安全を第一に考えるならあの周辺は切り捨ててもよい。
しかしあの場所に拠点を作った理由が帝国の遺産であった場合は話が変わる。
ただの可能性の話なので真剣に考える必要はないし、地図を見る限りあの場所には何もない。
「まあ、最後の最後、か……」
あまり近づきすぎても警戒網に引っかかる恐れがある。
俺は効率良く探索を進めるためにこの場から離れた。
更に三日が経過。
近くに水源がないために水の確保に時間を少々取られるが、肉ばかり食べ続けるのも辛いので悪いことばかりではない。
しかし何も発見できずにいるのはよろしくない。
ただ塗り潰されて行く地図の修正に追われながら焦燥感に駆られる。
地形が舗装されているわけではないため、僅かにズレが発生することはわかっていたことだ。
何かを見つける度に地図との差異を気にし始めると最悪の状況が頭を過り、思わず後ろを振り返ってしまう。
(落ち着け。一度冷静になれ)
思考がネガティブな方向へ傾きすぎている。
一度リセットする必要があると考え、これまでの幸せだった出来事を思い出す。
そして愕然とした。
(……この姿になってからだと全部女性関連だ)
ああ、肌色が恋しい。
どうやら同行者たちは思いの外精神安定剤として機能していたようだ。
僅かに感じた寂しさはきっと、人と接することで少しばかり自分の認識が人間側に戻っていただけだろう。
人の姿に戻ることはない。
よって人の営みの中に戻ることもない。
理解していたことだし、納得もしたはずのことだ。
「冷静になれたか……」
深く息を吐いて呟く。
感情抑制機能は今日も働き者である。
今は黙って探索を続ける時だ。
この未探索地区がいずれセイゼリアの勢力圏内となるのであれば、迅速にこの領域を探し終えるのが正解だろう。
(しかし中央といい南東といい……ちょっと緑化が進み過ぎじゃないか?)
今更ながら旧帝国領土のほぼ全域が森林となっていることに疑問を抱く。
少なくとも俺が知る帝国は幾ら二百年人の手が入らなかったとは言え、ここまで緑溢れる姿になる要素がなかった気がするのだ。
特にこの南東方面は帝国でも貴重な海へと繋がるポイントである。
万一に備えての防衛拠点とそのための交通網があったはずなので、こうも木々が生い茂っている光景はどうにも腑に落ちないものがある。
「まあ、考えていても仕方ない」と探索を続行。
未探索区域の北東は諦めても、他に残された土地はまだまだある。
俺は気合を入れ直して走り続けた。
その翌日、俺の意識は途切れることとなる。
気が付けば変わらず森の中。
現在地がわからなくなったことで探索のやり直しを迫られる――とでも言うと思ったか?
こんなこともあろうかと、地図のマス目を表す番号と同じものを該当地区の木に刻んでいたのだ。
これにより探索中に理性を失っても復帰できるというわけである。
問題はその番号を刻んだ木が見つからないことだ。
「畜生!」と叫ぶ俺だが、問題はそれだけでは終わらなかった。
なんとリュックに取り付けていた鉄板がなくなっていたのだ。
荷物そのものを失うという悲劇こそ避けられたものの、初期から俺の食を支え続けた相棒の喪失は決して軽いものではなかった。
これでは直火焼きの生活に逆戻りである。
可及的速やかに第二の鉄板を求める声が脳内で上がる。
食は生命を支える柱。
これを疎かにするなどあり得ない。
(しかし現在地がわからない……どうすれば!?)
頭を悩ませ続けることしばし、思い付いたのは「南に移動すれば森を出るか海に出るかするんじゃね?」である。
ベストな選択とは言えないだろうが、現在位置が不明となった以上、これは止むを得ない選択だ。
俺は一つ溜息を吐くと、空を見上げて方角を確認。
南へと向かって走り出した。
そんなこんなで夕暮れ時、森から勢いよく飛び出すと同時に視界に入った縦長の人工物。
「監視塔かな?」と首を傾げたところで鳴り出すサイレンの音を耳が拾う。
見張りの仕事ご苦労である。
直立して見渡せば小さいながらも砦のような建物。
多分エンペラーとの戦闘で北を警戒するようになって急遽建造したものだろう。
規模の小ささから発見と報告が主任務であり、戦闘は恐らく想定されていたとしても備えは少ないだろう。
奪われる危険性を考慮すれば、この推測は結構近いところまで来ているのではなかろうか?
監視塔にいる兵士を望遠能力で何気なく見る。
「あー、新兵臭いな」
訓練兵だった俺が言うのもなんだが、わたわたしている姿が何だか微笑ましい。
取り敢えず向こうが落ち着くまではゆっくりしようか、と徐にリュックを下ろしてコップに水を注いで飲み干すなり大きく息を吐く。
サイレンの音が消え、望遠能力で見る新兵が困惑の表情で下に向かって何か叫んでいる。
さて、ここからどうしたものかと思っていたら、監視塔のある小さな砦から馬が飛び出したと思ったら全速力で南へと走って行った。
伝令兵だろうかと思ったが、それなら今の時代には通信がないことになり、元帝国の凋落っぷりを目の当たりにして肩を落とす。
ともあれ、折角人がいるのだからここは一つ交渉と行こう。
上手くいけば位置情報と鉄板か、またはそれに代わる物が手に入るかもしれない。
そんなわけでのっしのっしとゆっくり監視塔へと歩き出す。
必死に監視塔の新兵が指示を求めている姿が見えるが、まずはその肩に背負った銃を手に取るべきだ。
「ちゃんと訓練課程を終えたのか?」と訓練課程を終えることなく実験兵として前線送り予定だった俺が自分を棚に上げて呆れ返る。
すると最初の馬に続くように馬車が三台ほど砦から飛び出し南へと走っていく。
「……え、もしかして逃げ出したの?」
しばし棒立ちで馬車を見送った俺は顔を上げて監視塔を見る。
そこには置いて行かれた可哀想な新兵君の姿があった。
人がいなくなるというのなら、勝手に中を漁らせてもらうとしよう。
なので「新兵君も逃げ出すだろう」とのっしのっしと速度を上げて移動を再開。
ところが新兵君は逃げ出さない。
それどころかしばらくするとようやく自分の肩にあるものが何なのかを思い出したのか、慣れない手つきでライフルを構えてこちらに向ける。
「動くな!」
思わず立ち止まってしまう俺。
モンスターに「動くな」と言ってどうするのよ、と思わなくもないが……そんなことより新事実。
新兵は彼、ではなく彼女だった。
首から上くらいしか見えてない上にヘルメットを被っていたので性別がわからなかった。
こうして距離が縮まると整った顔立ちであることがよくわかる。
ヘルメットを外すと多分美少女顔が拝めそうである。
そこで発生するふとした思い付き。
立ち止まっている現状を利用して、彼女の警戒を緩めることから始めよう。
その手始めにこの止まった状態をライフルを向ける彼女を見ながらしばらく維持。
そして徐に口を開く。
「次は?」
声が聞こえたであろう彼女は「え?」という顔をする。
いつもなら「喋ったー!」とか言われるのだが、モンスターが喋るよりも次はどうすればよいのかわからず困惑している。
何か新鮮だったので悪ノリすることに決定。
「止まったままではラチが明かない。折角だし踊ろうか?」
そう言って俺は体操を始めると「う、動くなぁ!」と慌てふためく彼女がライフルで威嚇。
見えているライフルの形状からボルトアクション式っぽいのだが、俺が見る限り弾薬の装填を行っていないはずである。
指の動きを注視しながら屈伸運動をしていると、塔の上では引き金にかけた指を引けずにいる新兵が泣きそうになっている。
「あー、弾の装填はしたか?」
俺の言葉で慌ててライフルの装填を行う彼女だが、視界が思いっきりこちらから外れている。
彼女がもたついている間に塔の下へと移動。
「何処行ったの!?」と可愛い悲鳴が聞こえてくる。
こっちだ、とばかりに塔をガリガリと音を立ててひっかくとまたも悲鳴が聞こえてくる。
「何なんだ、お前は!?」
監視塔から聞こえてきた叫びで彼女がもう限界であることを悟った俺は、潔く己の正体を明かすことにした。
「迷子です」
しばし沈黙が流れた。
それから聞き返すように「迷子?」と塔から恐る恐る顔を覗かせた彼女が尋ねる。
「現在位置がわからんのだ。ちょっとこの地図でここが何処なのか教えてくれないか?」
そう言って地図を持った手を伸ばしてみるが、監視塔の高さは五メートルほどなので微妙に届かない。
そして言われるがままに塔から身を乗り出して地図を見ようとする新兵ちゃん。
次の瞬間、手に持ったライフルの後部が何かに当たったらしく、彼女の手から離れると物理法則に従い落ちてきた。
それに手を伸ばした新兵が銃と一緒に俺に向かって落ちてきた。
「あっ」という小さな声と絶望に歪んだ顔。
仕方なく空いた手で掬うように衝撃を殺しつつ掌に乗せる。
頭から落ちてきたので胸から着地するように調整したが、中々良いものをお持ちである。
ちなみにライフルは尻尾でキャッチ。
取り敢えず無事を確かめるために掌に乗せた新兵の姿を見る。
その感想は「ちっちゃ……」である。
どう見ても身長が低い。
新兵ということはこれで十八歳以上である。
合法ロリかと思いきや、顔立ちは普通に成人女性に近づいており、幼さは大分抜けている。
(つまりこれはあれだ。トランジスタグラマー、というやつか)
掌の上では姿勢を正そうとするも立ち上がれずにいる新兵の姿。
状況はともあれ、用件を済ませようと地図を見せて再度現在位置の確認を迫る。
「……この辺、だと思います」
指差した場所は旧帝国領の南東の端。
「海が近いな」
俺が呟くとここから東に一時間も歩けば見えるとのことである。
現在地が判明したので次の目的だが……他が逃げ出しているのであれば、できることは色々ある。
さて、そこの新兵さんや、ちょっとお話をしませんか?
評議国の技術について
帝国時代に中枢である首都と近辺が吹っ飛び、重要な技術者や研究者の大半が消えたため、評議国に残った技術や思想はかなり歪なものとなっている。




