202
(´・ω・`)コロナEXでコミック更新しております。
一歩踏み出し腕を伸ばすと俺の肩を蹴って飛び出したディエラを掌で受け止める。
衝撃を殺すように調整しつつ、胴体から着地したと同時に腕を引いた。
丁度二つのたわわな果実が俺の中指を挟むようにすっぽりと収まっており、思わずそちらに意識が行きかけたが……これで終わらせるほど俺は甘くない。
既に準備は完了している追撃――それは口を大きく開けた先から放たれる炎。
魔力の関係上一度しか使えない短時間の火炎放射を右腕をほぼ根元から失った貴族の男に吹きかけた。
声にならない悲鳴。
そこに更なる追撃を、と拳を振りかぶったところで一体のゴーレムが急速に距離を縮めてくる。
(もう乗り換えやがったのか!)
量産型と言っていたことから予想はしていたが、動かすゴーレムの替えは幾らでも利くようだ。
魔術師の力量に応じて性能が変化することから使い潰しが前提の兵器である可能性も出てきた。
知れば知るほど面倒なものを作ってくれたな、と心の中で舌打ちする。
敵ながら見事であると言わざるを得ない。
評価はさておき、この状況での追撃は掌のおっぱいさんには少々危うい。
なので追撃は潔く諦めて後方へと飛び退く。
着地場所は勿論レナの傍。
俺の火炎放射をまともに浴びた貴族の男に周囲の魔術師が駆け寄り火はあっさりと消された。
すぐさまポーションも使われたことで失った腕も再生を始めている。
しかし燃えた髪は戻らないのか、火傷を負った顔は元に戻ってもそちらはそのままだった。
これで仕切り直しとなるが……戦闘を継続するつもりはない。
「凡その性能は把握した」
そう言って地面に横たわるレナの胴体に伸ばした尻尾を巻き付けて持ち上げる。
それを見たおっぱいさんから文句が出るが過保護は後にしてほしい。
「想定される戦術から脅威度は低くはない」
淡々と評価しているが向こうは陣形を整えつつある。
「……が、私に挑むには不足である」
これだけ苦戦しておいて何言ってんだ、と思われるかもしれないが……一応挑発を兼ねている。
空いてる方の手にレナを乗せ、おっぱいさんを肩に乗せて後方へと飛んで川へと入る。
「勝てると思うなら追うがいい」と捨て台詞を吐いて二度目のジャンプ。
着地でおっぱいの顔面押し付けありがとうございます。
森に入るなり片手と両足を使い走り出す。
取り敢えず背中の怪我の状態次第ではポーションが必要だ。
だから急いでいるのだが、手で抱え込んでいるレナと違い、おっぱいさんは俺の首にしがみ付いているので少々不安定らしく柔らかいものがムニムニ押し付けてくる。
しばらく走っていると慣れてきたのか、俺の頭部に手を添えて肩に座るように揺られ始めた。
「もうちょっと、揺れないように、走れないの?」
視線だけそちらに向けるとゆっさゆっさと揺れるものに目が釘付けになる。
「あなたほど揺れていませんよ」との感想は口に出さず、文字通り目と鼻の先で荒ぶっておられるおっぱいさんのおっぱいを心の中で拝んで一つ頷く。
あまり激しく揺らして差し上げるのもよろしくないだろうと少し気を遣いながら進み続けた。
そして東部拠点へと到着したはよいのだが、未だにレナが目覚めない。
もしかして当たり所が悪かったのだろうか?
レナを地面に降ろし横たえ、その傍におっぱいさんもそっと配置。
瓦礫を退かして地下室の入り口を開放する。
「それ、あんたが隠してたわけ?」
おっぱいさんの質問に頷いて答え、下に降りて荷物を漁る。
そんなわけで取り出した青色の回復ポーション。
二人の怪我の具合を考えて二本とも持ち出す。
苦渋の決断だが、助けてしまった以上、中途半端はよくない。
地下から出た俺がポーション瓶をおっぱいさんに渡し、もう一本を飲もうとしたところで待ったがかかる。
「レナを起こしてからにした方がいい。薬に関しちゃこの子は優秀だ。一本で済ませることができるかもしれない」
そう言えば神官は衛生兵の役割だった。
なるほどと頷きもう一本は再び地下のリュックへと仕舞う。
そしていつまでも全裸で野外というのもよろしくないので地下へとご招待。
「余計に寒い」と肩を抱いたおっぱいさんに睨まれたので、取り敢えずリュックの中の出来損ないエプロンを手渡す。
手にした馬鹿でかいエプロンを横たわるレナにかけたおっぱいさんは余った布地の上に座って「他にないか?」と催促する。
できればもうちょっとそのご立派なものを堪能したいので、リュックを探すフリだけして明らかに隠すには使えないタオルを手渡す。
二枚ほど渡してみたが一枚は膝に、もう一枚は胸に巻こうと試すと同時に無理だと悟って首にかけるおっぱいさん。
「流石に服があったりはしないか……となると、ここを探すしかないねぇ」
地下を見渡しぼやくおっぱいさん。
その間にもレナを起こそうとペチペチ頬を叩いたりしている。
そんな彼女にはポリタンクを取り出してコップに水を注いで渡す。
おっぱいさんは「ありがと」と感謝の言葉を口にしてそれを一気に飲み干す。
普通にお礼を言われるくらいには信頼関係が築けたようだ。
それから少ししてようやくレナが目を覚ます。
状況を把握できずに困惑状態ではあったが、騒ぐようなことはなく、水を飲みながら静かに理解を進める姿にこの少女の評価を少し上げる。
「ちょっとアホの娘っぽい」という評価は消えたが、はてさて彼女の真価が発揮されるポーション関連はどうか?
真剣な表情でおっぱいさんの傷を見るレナ。
おっぱいさんも渡したタオルを口に咥える。
レナは俺が用意した水と奇麗な布で傷口を奇麗にしてからポーションを直接垂らす。
みるみる傷が治るがどうしてもおっぱいに目が行く。
俺は特に気にならなかったが、ポーションは基本ある程度の痛みが伴うものらしく、過剰に使用する場合はその限りではないが、本来は節約して使うもののようだ。
太腿の傷が治ったことで大きく息を吐くおっぱいさん。
その後、俺の背中の傷を見せたわけだが……まだ結構な量の破片が刺さったままだったらしく、それらを引っこ抜くことから始まった。
全部で十三個もの破片が摘出され、そこにポーションがかけられる。
尻尾で確認してみたが、恐らくほぼ元通りになっていると思われる。
僅かに残った分は念のためにレナが飲むこととなった。
逸れていたとは言え、頭部の負傷は何があるかわからないので必要な措置である。
「なるほど。優秀だ」
ポーションを一本節約できたことで素直に褒める。
それを翻訳してレナに伝えるおっぱいさん。
「任せて」とばかりにお隣に比べて慎ましい胸を張る。
取り敢えず落ち着いたということでことの経緯を俺は尋ねた。
「あの状況は私との取引が国家、人類への敵対行為として認定されたが故に起こったことか?」
「あー、あんたにはわからないかもしれないけど、うちは魔法国家とも呼ばれていてね。貴族の中には『貴族以外を魔術師と認めない』ような連中もいるのさ。そういった連中はことあるごとに難癖をつけて私らみたいな魔術師を排除しようとしている」
今回は主にそちらが理由であるとおっぱいさんが語る。
「あんたとの取引はただの理由付け。仮に何もなかったところで、何かしら理由を付けてあの状況になってたさ」
今のやり取りをレナに伝えつつ、コップの水を飲むディエラ。
折角なので詳細についても聞いてみる。
「私もハンターだからね。大人しく捕まったままでいるはずがない。服に隠した道具を使って一度は脱出できたんだけど、レナの救助でしくじった。結果は見ての通りこの様さ」
そう言って苦笑いしながら両手を左右に軽く広げる。
こちらをモンスターと認識しているのか隠す気が全くない。
二人が裸で吊るされていた理由を知ることができたが、おっぱいさんの話には続きがあった。
「どうやら集めた魔術師連中は思想よりも立場での繋がりが強かったみたいでね。半分くらいは私やレナに手を出そうとしていたんだけど、貴族側の連中が『穢れた血に手を出すとは貴様らはそれでも魔術師か!』って怒鳴り散らしてたよ。だから連中の士気は低い。恐らくだけど、追って来るとしたらあの二人の他に数人いればよい方だと思うよ」
俺はおっぱいさんの推測に頷く。
しかしその理由でレナが無事であるということは彼女も魔法が使えるのだろうか?
そう思っていたのだが、神官を犯すのは色々と問題があったらしい。
詳細は語ってはくれなかったが、どうやら他に犠牲者がいたような話しぶりだった。
話を聞き終えたところで盛大にレナの腹が鳴った。
「――……」
多分「お腹減った」と言ってるのだろう。
なので俺は「飯にするか」と立ち上がってリュックを背負う。
おっぱいさんが何か言いたそうに俺を引き留めようとしたが、それは戻ってから聞くとしよう。
地下を出た俺は獲物を探して森を駆けようとしたところで気が付いた。
(……振動だな。僅かだが声も確かに聞こえた)
どうやら連中は追ってきているようだ。
俺はリュックを背負ったまま川へと走る。
そして望遠能力でゴーレムの姿を確認すると同時に停止。
リュックを降ろし、サーベルを取り出して再び走り出す。
向こうもこちらに気づいたらしく、ゴーレムから飛び降りると臨戦態勢を取った。
ゴーレム二体に貴族の二人のお供は魔術師が三人だけ。
おっぱいさんの予想は大当たりである。
「ここまで虚仮にしてくれるとは思わなかったぞ。採算を考慮して使用を控えていたが……考えるのは止めだ。私を怒らせたことを後悔して死ね」
どうやらここからが本気らしいが、それをもっと早くやっていればチャンスはあっただろう。
真っ直ぐにこちらにゆっくりと向かってくるゴーレム二体を前に俺は悠々と歩を進める。
森というフィールドは巨体には不向きであることは俺が一番よくわかっている。
「まずは諸君らに詫びよう。勝機を残すような戦いは失敗だった」
俺はそう言いながら軽く頭を下げると距離を詰めるように走り出す。
こちらの動きに反応し、二体のゴーレムは左右に展開する。
俺を挟むように待ち構えていたので「正面突破」の文字が一瞬頭を過る。
しかし正面にいる貴族の二人が上着のポケットから取り出したものを確認して考えを改めた。
(あれは……宝石か?)
光の反射からそう判断したのだが、厄介なのはその数である。
二人が付き出した両手には宝石が指と指の間に幾つも挟まっており、俺の盾を溶かしてくれた老魔術師を基準とするならば、二体のゴーレムは俺の足止め、または拘束が目的であり、正面を開けているのは間違いなく誘いである。
これを瞬時に判断することができたのだから、これまでの戦闘経験は間違いなく俺を強くしている。
慎重を期すことも考えたが、俺にはこの陣形を食い破る策がある。
真っ直ぐに走り、最初の一撃はサーベルに配慮した手加減された突き。
予想通りこちらに掴みかかるゴーレムの片方をこれで止める。
帝国製の合金がそう簡単に折れるはずもなく、たわむサーベルを引いてゴーレムを動かす。
同時は面倒だがタイミングをずらしてやれば俺のやりたいことは簡単だ。
何を仕掛けてくるかはわからないが、射線が通らなければ問題はない。
一体ずつ正面に陣取る二人から身を隠すようにゴーレムの位置を調整し、姿が見えないように姿勢を低くしたところで手札を一枚切る。
ステルスモードによって姿を隠した俺に二人は驚きの声を上げる。
しかしその場に残り、ゴーレムを斬りつけるサーベルが二人には見えていた。
「所詮モンスターか! サーベルが見えて――」
言い終える前にぐしゃりという音が森に響く。
片方のゴーレムが動きを止め、宙に浮かぶサーベルが種を明かす。
サーベルを握っていたのは俺の尻尾。
本体はゴーレムを飛び越し華麗な着地と同時に拳を振り下ろしている。
もっと距離を取って戦っていればこんな終わり方はしなかっただろうが……向こうにも色々と都合があったのだろう。
咄嗟にこちらへと向けた宝石を挟んだ手を振り上げた腕で砕く。
宙を舞った宝石が森に差し込む僅かな光を反射してキラキラと輝いて地面へと落ちた。
同時に俺の手にはサーベルが戻って来る。
未だ戦意を失わず、距離を取ろうとゴーレムの方向へと飛んだ彼の足を伸ばした尻尾で打ち払う。
小さな呻き声が聞こえ、宙で回転している人体の中心へとサーベルを突き入れる。
「ごふっ」という声とも音ともわからぬものが大量の血液とともに溢れ、無事な手で己の体を貫くサーベルから逃れようともがいていたが、俺が得物を傾けると重力に従いずるりと地面に落ちて貴族の男は間もなく絶命した。
残った連中が我先にと逃げ出したが、生かして帰す理由がなかった俺はまとまって逃げる三人へと追いつくなり始末する。
「バラバラに逃げていれば……いや、あの速度では川にも辿り着かなかったな」
魔術師故に体はそこまで鍛えていなかっただろうし、この結果を避けることはできなかっただろう。
戦闘が終わったのでこの新兵器について改めて考える。
総評としては護衛対象がおらず、数が少ないなら魔術師付きでも問題はない。
あとはこいつらがどれほどの練度かわかればより正確なデータとなるだろう。
さて、敵を倒したのであれば戦利品獲得のお時間である。
貴族が二人もいるのだから良い物が手に入ることを期待する。




