64 姉妹
意外、と言っていいのだろうか? 町の外では畑が広がり、農民が種蒔きをしていた。
……魔物が出ようが生きるためには種を蒔く。人は愚かだけど、強い生き物だよ……。
まあ、だからこそ発展し、他の種族よりこの世界に満ちているんだろう。
貿易で成り立っているだけあって道は良く、平地が多いので夜にはカイヘンベルクまでの道程の半分は消化した、らしい。
「食事の用意をする。皆は休んでて」
おっと。リリーちゃん。君も手伝うんだよ。一緒に楽した組なんだからさ。
「わたしに対する扱いが酷いって思うの」
なに言ってるの。君はオレの守護天使。有効に使ってるだけじゃないの。フフ。
「リリーは、結界杭を打って」
災害竜退治の遠征用に考えた結界杭は、一メートル間隔で地面に打ち込み、結界発生装置(ランタン型にしました)を起動すると杭と共鳴して魔力の壁ができるのだ。
物理的、と言っていいのかはわからんけど、外からの侵入を防げるものだ。強度もねーちゃんの攻撃を四度は防いだ優れものだ。
「……これがあれば旅は楽だったのに……」
すまんね、ジェスくん。君との出会いは偶然だったかもしれないが、あのときの君と出会ったことがオレには重要だったのよ。それに、昔を嘆くより未来に希望を持ちなさい。明るく幸せな明日がやって来るとな。
……まあ、苦労の多い明日しか見えないけどな……!
苦労が多くても過酷な明日よりマシ。と思って今日を生きましょう、だ。
「リンって無駄にポジティブよね」
無駄とか言うなや守護天使! 守護対象の心を抉んなや!
リリーの無駄な突っ込みに怒りを態度で示したいが、ねーちゃんとジェスがいるので堪えておく。
アイテムボックスからテーブルを出して作り置きの肉いっぱいシチュー鍋を出す。
神様のレベルアップの雑なところ其の二。レベルアップすると食べる量も増えること~。
身体能力を活かすにはカロリーが必要になる。当たり前のことだが、レベルアップに応じた力を出すには食うしかないのだ。
スポーツ選手だって食べなきゃ一流のパフォーマンスはできないでしょ。それと同じ。レベルに応じた能力を活かすには、おすもうさん顔負けに食わないといかんのよ。
レベル11になったねーちゃんとレベル8なジェス。レベル10相当のシルバー。そして、レベル12になっちゃったオレ&リリー。
うん。飢饉になったら真っ先に死ぬレベル。邪神の恐怖だけじゃなく空腹の恐怖からも戦わなければいけなくなったワケですよ。
そんなときこそ手のひらの創造魔法~! と人体改造しようとしたらレベルが下がっちゃいました~。クソがっ!
レベル10になってしまったが、お茶碗十杯分減ったくらい。大差ない……と言えてしまうくらい一日の量がハンパないワケですよ。
さすがにそれではイカンとカロリー一万の栄養丸をイモ一万分の魔力で創り、リリーちゃんにコピー(今、イモ四千個分で)させてます。ファイト!
リリーちゃんのジト目なんか気にしないでパンをお皿に山盛り。さあ、お食べ。
「「いただきます」」
「ガウ」
三匹の肉食獣が食べてる間に雪ウサギ──からタダのウサギになったウサギ肉のステーキを鉄板で焼く。
ウェルダンになったら特製のステーキソースをかけて三匹に出す。
栄養丸はあくまで補助。食事は腹を満たすだけではなく心を満たすためでもある。楽しい食事は明日を生きる糧なのだ。
なんて言ってはみたものの、動いてないオレなので三人前でお腹いっぱい。それと、神様の雑なレベルアップいいところ~。体を動かさないとカロリーが魔力にいくことでーす。
なぜや? と問うだけ無駄。神様やもん。軽く流しておけや。
三匹より遅く食べて、三匹より早くごちそうさまでした。
「皆は寝て。リンが見張る」
「いや、おれがやりますよ」
「いい。シルバーに乗ってるときに寝たから」
ハイ。がっつり寝させていただきました。
「でも……」
「ついたら即戦闘になるかもしれないからぐっすり寝て」
君には英雄になってもらわにゃイカンのだから体調は万全にしてもらわなくちゃならんのよ。
「眠くないのなら少しお酒でも飲むといい」
さっさと寝ろ。寝るのも仕事なんだからよ、とビールを創ってジェスに渡す。
「リン。お風呂入りたい」
今は野営中なんですけど。って言っても「だから?」と返って来そうだな。持ち運べる風呂が欲しいとねーちゃんにお願いされて三個ばかり創ったしな。
「わかった」
アイテムボックスから湯船を出し、ローブの右袖口からお湯を出す。
「って、ねーちゃん。まっぱにならないでよ」
もう十歳なんだから恥じらいを持ちなさい。ジェスがいるんだからさ。
結界に色をつけ、外から見えないようにして湯船の周りを魔法で遮蔽物を創った。
「まったくもー! ここは外なんだからね。油断しすぎ!」
「ごめんごめん。つい、うちにいる感覚でさ。ナハハ」
人になれたとしても女としての恥じらいと油断は捨てたらアカンよ。リンとの約束だからね!
「リンも入ったら? リリー、見張りお願いね」
「姉妹揃って人使い荒いんだから」
あなた人じゃないから。珍生物ですからね。願ったオレのセリフじゃないけど!
「コピーしなくていいから見張りお願い」
「はいはい。わかりましたよ」
ってことで、ローブと服を脱いで湯船に入った。
「二人で入るの久しぶりね」
ほわ~と湯に浸かっていると、ねーちゃんがしみじみと呟いた。
「そうだね」
そう答えると、後ろから抱きついて来た。なによ?
「ちょっと妹とスキンシップ」
スキンシップって教えたのオレです。
「そう」
なんの心情の変化か知らんが、まあ、姉とのスキンシップも悪くはない。兄弟だったらぶん殴ってるところだったけど。
これと言って話すこともなく、ねーちゃんと一緒の風呂をすごした。




