289 呪われろ
さて。めでたしめでたしにするために最後まで油断はできぬ。
城壁はまだ残り、能力無効化域は生きている。とにもかくにもあの壁をどうにかしなといかんぜよ。
「ボス。どうするんだ?」
「あまりやりたくなかったけど、水攻めをする」
魔力を大量に使うから最終手段として残しておいたのだ。
「水攻め? 液体窒素、溶けたりしないか? またアレと戦うとかごめんだぞ」
「そのときはまた違う方法で倒す」
能力無効化域から出てくれるならオレが吸い取って、華麗に素敵に改造して我が下僕としてやるよ。
「ねー。待機だからね」
「わたしの出番は?」
「ないのならそれに越したことはない」
奥の手を使わずに済むならそれがなにより。オレの奥の手は使っちゃうんだけど!
一旦、皆を下がらせ、準備を整える。
油断させるためのものだが、城壁内に動きはなし。砕けたスライムも復活する兆しもなかった。
邪神の使徒は、まだ奥の手を持っているのか?
用意周到な相手だ。まだなにか持っていると見ていいだろうが、行動が遅すぎる。こちらが動いてから動くとかふざけんな、だぜ。
一日待つが、ちっとも動きやがらねー。後手の達人かよ!
万全の用意をして先手必勝をするのは好きだが、万全の用意をして迎え撃たれるのはイライラしてしょうがないぜ。
一日で液体窒素はなくなり、砕けたスライムは砕けたまま。我慢比べでもしているかのようだ。
「イビス。動くから対応して」
クソ。我慢比べはオレの負けだ。いつまでも邪神の使徒に構っていられない。次は聖王国と雌雄を決めなくちゃならない戦いがあるんだからよ!
「了解。気をつけろよ」
注意喚起よりなにに気をつけていいか教えて欲しいよ。
「ねー。よく見てて」
次回、災害竜系の怪獣と戦うときのためにね。
ローブを飛行モードにし、上空へと飛翔。城壁内を見渡せるくらいまで上空し、右の袖口を城壁に向ける。
湖にいる万能偵察ポッド群とアイテムボックスを連結。水を吸い、ローブのアイテムボックスへと溜め込む。
「我が右手は咆哮の口なり。切り刻め、ウォータージェット!」
水の糸が右の袖口から放たれ、城壁を切り裂いた。
そのまま城壁に沿うように動かして切り刻む。
六十メートルくらい城壁を切り刻み、能力無効化域の一角を崩した。
……今のでイモ三億個分が消えたぜ……。
おそらく指輪三つ分か? 本当に魔力を大量に消費する攻撃だぜ。
>っと鑑定。ノイズが走るような感覚はあるが、能力無効化域が崩壊させられた。
さらにウォータージェットを放って城壁を切り刻んでやる。
怪獣Xの熱線一回分で能力無効化域は完全に崩壊させられた。
「ほんと、リンは盤上をひっくり返すのが得意よね」
それだけの魔力を使いましたからね。ひっくり返らなけりゃブチ切れるわ。
配置している万能偵察ポッドを動員して城壁内のゴミを排除させる。
「ボス。少し前進するぞ」
「なにかあった?」
「わからん。ただ、嫌な予感がする」
戦争屋の勘ですか。気のせいと言えないのが悲しいぜ。
「少しだけなら。無理と判断したらすぐに退避して」
警戒しつつ万能偵察ポッドにゴミ掃除をさせ、二時間ほど過ぎたら一人の男が現れた。
闇色のローブを纏った中年男。ベルホンに現れた雑魚と同じだな。
>っと鑑定──できなかった。
……能力無効化できる邪神の使徒だ……。
使徒がこちらを見る。いや、睨んだ、か。
目に憎悪の炎が宿っている。さすがに雑魚とは言えないな。
「ボス。他にも現れた」
見れば闇色のローブを纏ったヤツらが地下からぞろぞろと地上に上がってきた。
「……マジか……」
マジですとばかりに闇色のローブを纏ったヤツらがナイフを出して、自分の胸に突き刺した。
流れた血が大地を染め、蠢き、やがて球体となる。
赤から黒に、黒から白に、次々と色を変え、やがて透明となり、ダイヤモンドダストのようなキラキラしたものを吹き出した。
ベルホンのときとまったく同じか。
邪神の揺り籠から生まれたのはゴブリン。いや、ゴブリンの軍勢であった。
闇色のローブがフードを取り、まっすぐオレを見た
──呪われろ。
そう聞こえた気がした。
だが、オレは可愛らしく微笑んでやった。
「残念ながらそれは祝福となる。なぜならお前がオレの糧となるから。お前を利用するから。お前の価値をオレが決めるからだ。ありがとう。オレのために生まれて来てくれて」
あのときの言葉を返してやった。
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