229 救世の乙女ミモリ
ローズに寄りかかりながらうとうとしてたら一際大きい音と振動が轟いた。
「な、なんだ!?」
両手のひらを頭に当てて眠気を吹き飛ばしてやる。
「……目は覚めるけど、気分は最悪だな……」
アイテムボックスから濡れタオルを出して顔を拭う。
さっぱりして廃屋から出ると、ワイバーンが横たわっていた。なんなのっ!?
「スズ。上を」
ミカンに言われて上に目を向けた。
「あらら~。ワイバーンがいっぱいだこと~」
軽く見積もっても三十騎はいるんじゃね?
一国でワイバーンを三十騎用意できるのは多いのか少ないのかはわからんが、本気で攻めて来てるのはよくわかった。
「──ボス! 手を出すなよ!」
鬱陶しいハエを撃ち落としてやろうかとしたら、イビスに止められてしまった。
「はいはい、しませんよ」
ワイバーンの死体をアイテムボックスに入れながら答えた。
「スズ、どうしたの?」
寝坊助なミモリが起きて来た。
……この子も結構神経が図太いよな……。
「総攻撃を仕掛けて来たってところだね」
大陽も上がり、天気もまあまあ。総攻撃するにはいい日和だろうよ。
「ミモリ。朝食の用意をするよ」
デミニオも起きて来て、昨日の角猪の骨を砕いて豚骨スープを作った。
「朝から豚骨? 胃に来るわね」
「あっさり仕立てにするから大丈夫だよ」
これから長い戦いになるのだから胃に優しいものを作らないとな。
「……ねぇ。空になにか変なもの飛んでるのだけれど……」
「ワイバーンって言うものだよ。イビスの射程距離から逃れたから襲って来ることはないから大丈夫」
何百か撃ち落とされて学んだのだろう。バカじゃなくて残念だよ。
「静かね。本当に襲って来るの?」
「戦いの前の腹ごしらえ、ってことじゃない。よし、いい匂い」
あっさり豚骨スープができたので、濾した豚骨を別の鍋に入れて炊いた米を投入。一煮立ちしたら完成です。
「豚骨雑炊のできあがり~! ドヤ!」
ミモリとデミニオに味見してもらい、イビスに報告。交代で食べてもらう。
「うん。腹は膨れた。ご馳走さん」
朝から大食漢なイビスちゃん。生まれ変わって女の子になったのにとっても胃が丈夫だこと。
他の獣人っ娘たちもそんなに寝てないだろうによく食べる。獣人の胃も丈夫なこった。
「少佐! 動きました!」
「お、ついにか。まったく、寝坊助どもだ」
やる気満々なイビスちゃん。小銃をつかんだ。
「アルファ、ブラボー、チャーリー。やるぞ!」
獣人っ娘どもが手に持った小銃を掲げ、銃弾を空に向けて放った。なんの気合い入れだ?
「さて。ボクらも準備しようか」
「「準備?」」
ミモリとデミニオが声を揃えて首を傾げた。君ら気が合うね。
万能偵察ポッドをトランスフォーム。浮遊指揮台になった。
「ミモリ。ジャンヌモードって言ってみ」
「ジャンヌモード?」
と、ミモリのローブが白いドレスに変わった。
「なっ!?」
「戦闘装束ジャンヌだよ」
我ながらよくできてると思う。
「……ねぇ。ミモリが成長してるのだけれど……?」
「正確には魔法でそう見せてるだけだよ。成長させるには魔力がいっぱいかかるからね」
戦闘装束ジャンヌに変わる度に大量の魔力を使ってらんないよ。ミモリは旗なんだからな。
「あとこれね」
儀仗槍を出してミモリに持たせる。
「靡け、自由の旗よ、と言ってみ」
「……な、靡け、自由の旗よ──」
儀仗槍から赤地に金糸で女神の横顔が描かれた旧ザイフルグ王国の旗が出現する。
「ミモリ。今からあなたは救世の乙女。非道な聖王国から旧ザイフルグ王国に住む民を救う役目を神より授かりましたのであしからず」
「拒否権はないのね」
「神は強制を望むのです」
拒否は死、だから強制である。
「ミモリ。旗は汚してはならぬ。地につけてはならぬ。戦う者に見せつけねばならぬ。敵に触れさせてはいかぬ。旗は高らかと靡いてなければならぬ。敵味方構わず、我、ここにありと示すのだ」
浮遊指揮台にミモリを乗せ、敵が見える位置まで上昇させる。
「イビス。戦いの狼煙は上げられた。救世の乙女の初陣を華やかにしてちょうだいな」
万能偵察ポッドを通してイビスに告げた。
「ああ、万事わたしに任せろ。この一帯を赤く染め上げてやるよ」
張り切るのはいいけど、ミモリの存在を広めるくらいに生き残りを出してね。
「戦士たちよ、撃て!」
イビスの引き金により、戦いの火蓋は切られた。




