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20 セガール

 ねーちゃんが遊びに出かけるようになってからオレの生活は少し変わった。


 朝はいつものように一番に起きて甕から水を汲んで顔を洗ったり歯を磨いたりしてサッパリさせる。


 時計がないので正確な時刻はわからんが、初夏のこの時期は陽が山から昇ったら五時と決めている。早く起きるのは寝るのが早いから。五歳児は八時頃には寝ちゃうんです。


 竈三つに火を熾し、一つは水を張った鍋を。一つは米を炊く。残りで畑で作った葉物と雪ウサギのベーコンを焼いて玉子で綴じたものを作る。味付けは醤油だ。


 皿に盛ったら沸いた鍋でシチューを作る。


 料理をする人なら順番逆じゃね? と思うでしょう。だが、我が家の鍋は鍋でも圧力鍋なのよね。


 まあ、圧力鍋と言っても我が家のは魔法式圧力鍋。性能はそんなに変わらないはずだ。前世で使ったことないんで憶測でしかありませんがね。


 ニンジン、タマネギ、イモ、豆、雪ウサギの肉をぶち込んで煮る。十分ほどしたら圧力解放。創造魔法で創り出したシチューの素を入れてかき混ぜ、いい感じになったらボルドと言う家畜の乳を入れてまたかき混ぜる。


 その頃になるとかーちゃんが起きて来る。


「おはよう、リン」


 この地域は目覚めのキスをする習慣があるのか、いつも起きるとかーちゃんはオレの頬にキスをする。ねーちゃんはイヤがるのでしてません。


 郷に入っては郷に従え。と言うワケじゃないが、親子のコミュニケーションとして受け入れ、かーちゃんの頬にキスをする。


 かーちゃんが顔を洗ってる間にシチューと買い置きのパン、炒めものを皿に盛って食卓(囲炉裏に板を乗せただけね。夏は使わないから)に並べる。


 宿屋の仕事は朝早くから始まるので先に食べてもらうのだ。


「リンの作る料理は美味しいね」


 そう言ってもらえると励みにもなるし、嬉しくもある。世の夫よ、妻には感謝の言葉を常に述べるのだぞ。


「ごちそうさま。じゃあ、いって来るわね」


 昼は賄いが出るので手ブラでもよいのだが、宿屋の仕事はハードだ。小腹が空いたときのためにクッキーと飴、そして、ハンドクリームにハンカチ、回復薬を入れた手提げ篭を渡して見送る。


 かーちゃんが出かけてすぐにねーちゃんが起きて来る。


「……おはよう……」


「はい、おはよう。そのまま顔を洗う」


 女子力が乏しいねーちゃんは、すぐ朝の身嗜みをサボろうとするのだ。


 でも、友達のところに遊び(あと手伝い)にいくようになってからか、言葉遣いが柔らかくなり、女言葉が出るようになった。


 その調子で男嫌いも治ってくれたらよいのだが、まあ、高望みは止めておこう。己の人生を決めるのは己なんだからな。


 食卓に並べたシチューとご飯をかっ食らい、山刀にナイフを装備し、背負い鞄を背負って家を飛び出す。


「いって来る!」


 それは家の中にいるときに言いましょうね。


「帰りに乳と卵を忘れないでね!」


 その背中に向かって叫ぶ。


 手伝いの報酬は乳と卵。チーズも欲しいところだが、チーズは高価なので銅貨一枚で三百グラムを買います。


「わかってるよ!」


 牧場の朝も早いらしいが、厩舎の掃除くらいで家族で間に合うらしい。搾乳も決まってなく、乳の張ったのから順にやり、チーズ作りも家族で大丈夫なそうだ。


 じゃあ、なにを手伝っているかと言うと、牧場と名ばかりの草原に放った家畜を狼から守ることらしい。


 なんでも今年になってから魔狼(牧場の人らは狼を魔狼と呼ぶらしい)が出たらしく、見張りの手伝いをしてるそーだ。


 あと、殺した魔狼は毛皮を剥いで商人に売り、肉は騎獣と言うもののエサになるらしい。もったいないオバケには住み難い世界である。

 

 ねーちゃんが出かけたらシルバーの朝飯を用意。今日は雪ウサギの四肢落としだ。


「ガウ~」


「手抜きじゃない。雪ウサギの素材を一番感じられる料理だ」


 異論は認めぬ。黙って食えや。このグルメ熊が。


 シルバーの朝飯を出せばオレの番。ご飯にシチューをかけていただきます。うん、美味しい。


 五歳児なせいか、オレの食べるスピードは遅い。なので誰にも邪魔されないほうが美味しく食べられるのだ。


 かーちゃんが町で買って来たササと言う葉で作った紅茶風味のお茶で朝飯をシメる。


 はふぅ~とまったり時間を終えたら食器を川で洗い、片付けたら家の掃除だ。


 ローブを纏い、フードを口を覆うように被る。


 左の袖口は吸引! と家の中のホコリを吸い取る。


 手が汚れね? なんて心配めさるな。袖に腕は通してません。ローブの中にあります。


 オレの最大の武器は手のひらの創造魔法だ。だが、見方を変えればそれは弱点だ。両手を奪われたらオレは死んだも同然。この厳しい世界では生きていけないだろう。


 だから両手は一番に守らなければならない場所なのだ。


 今はまだ魔力が乏しく自由には動かせないが、日々努力でやっていくしかない。細かい作業は料理くらいだしな。


 隅々までホコリを吸ったら外に出て右の袖口は排気。とホコリを捨てる。


 なんか目指す方向間違ってね? とか言っちゃイヤン。調理器具や掃除用具も使い方次第で武器にも防具にもなるもの。セガールの親父が言ってたぜ。


 あ、この世界で冒険者をしているセガールって親父だからね。勘違いしないでよね!


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