19 ローブ
「いって来る!」
牧場にいってからと言うもの、毎日のように出かけている。
──男か!?
女の直感を見せてみるが、心が男だと働かないようで、四丸の報告ではどうやら友達ができたようだ。
あのねーちゃんがよくもまあ変わるもんだと呆れるくらい、毎日のように遊びに出かけている。
四丸の報告では、ねーちゃんと同じ歳の女の子らしく、その牧場の子どものようだ。
仲良くおしゃべりしたり牧場の仕事を手伝ったりと、あのコミュ症が変われば変わるもんである。
まあ、ねーちゃんのコミュニケーション能力が育つならありがたい。社会不適合者に優しい世界じゃないからな。
「……それはいいんだが、ゴブリン退治はちゃんとやって欲しいわ……」
ゴブリン除けの石があるから家まで来ることはないのだが、汗水垂らして耕した畑を荒らされるのはマジ許せねー。万死に値する
……あ、死以外許したことなかったわ。こりゃ失礼……。
「シルバー。ヤっちゃって~」
「ウガァァ!」
ねーちゃんが山に入ったときはシルバーが我が家の守護神。鉄壁シルバーと二つ名を与えよう。
「武装は木の棒か。シケてやがんな」
前に仕入れた金属はフライパン二つとハサミ、ノコギリに変わった。
まだまだ欲しいものがあるって言うのに、木の棒を持ったフル〇ンしが現れない。
「邪神もちゃんと武器を持たせて生み出せよな」
なんて愚痴っても無駄か。神様はアフターケアとかしてくんないからよ。
フル〇ンどもを一撃で倒していくシルバー。圧倒的ではないか、我が熊は!
でも、殺したあとは川で水浴びしような。返り血で家ん中に入ったら山に捨てて来るからな。
「そう言えば今年、狼の姿見てないな?」
去年はそれなりに現れてくれたんだが、今年は一回も見てない。誰かに邪神の揺り籠をぶっ壊されたか?
「まあ、ゴブリンと同様、また出てくんだろう」
「バウ!」
「うおっ!」
シルバーの声に意識を戻したら、目の前にフル〇ンがあった。セクハラか!
「ガウガウ」
「ん? フル〇ンがどうしたって?」
シルバーが他のフル〇ンと違うと言っている。
咥えていたフル〇ンを地面に落とし、なにが違うかを確かめる……までもなく、こいつデカいな。なんだこれ?
「鑑定!」
わからないときは鑑定。魔物は熟知しておかないと命にかかわるからほったらかしにはしてらんないのだ。
「ホブゴブリン? ゴブリンの進化系? マジかよ」
ゲームじゃ進化もあるが、邪神の揺り籠から生まれたものも進化するのかよ。反則やん。ほったらかしにしてたらどんどん凶悪になるってことじゃねーか!
「……今さらながらにしてこの世界のヤバさを知った思いだぜ……」
いかんな。オレもある程度レベルアップして、なにか対抗手段を持ってないと早死にしそうだわ。
「剣か? 銃か? 魔法か?」
どれを選んでも勝てる気がしない。こちとら手のひらの創造魔法が使えるだけの五歳児だぞ、犬にも勝てねーわ! ナメてんじゃねーぞ!
なんて叫んでもしかたがない。この世界からドロップアウトできないんだ。ってか、そりゃ死ぬのと同じだわ。ダメじゃん! 考えろや、オレ!
だが、どう考えても勝てる未来が想像できない。
剣を持っても銃を持ってもダメだ。剣を振るう体力も技術もない。銃を出したところで弾も出さなくちゃならん。弾一つでイモ八個分(一応やってみた。そして、魔力に戻しました)とか、先にオレの命が尽きるわ。
「……となると魔法か……」
やろうと思えばやれるとは思うが、オレは防御こそ最大の攻撃と思うタイプで戦略的撤退を是とするタイプだ。
チキンとかは言わないように。臆病者こそ最後まで生き残る強者なのだ。
「そうだ。まずは生き残ること。ってことは守りを固めることだ」
殺気! そこか! とかできないんだから不意の攻撃に耐えられる手段が必要だ。
「鎧か? バトルスーツか? オレも進化しちゃうか?」
まず日常では不自由でしかない。魔物から体は守れても世間の目から心は守れねーよ!
普通に着てる服の防御力を上げるがもっとも早い手ではあるが、こんな貫頭衣としか呼べないものの防御力を上げるなどオレの美意識が許さない。
「そうだ。雪ウサギの革がたくさんあるんだからローブでも作るか」
防刃とか防炎とか徐々に付与していけば鉄壁となる。
足首まで隠れるくらいまで長くしてフードは顔が隠れるくらいにする。茶色は趣味じゃないし、世間の目に優しい白としよう。
「……ちと味気ないな……」
ここは女の子らしく花柄でもつけるか。どや!
「ガウ?」
熊に聞いても無駄か。ねーちゃんは……いないか。かーちゃんは……まだ帰って来てないか。五歳児を放置とか犯罪だぞ!
「……寂しくなんかないもん……」
やることはいっぱいある。そう、オレはこれからソーイングマスターになり、お洒落改革を起こすのじゃー!