170 市場
市場は結構賑わっていた。
世界は魔物に脅かされているのに、並べられた商品は豊富だった。
野菜も豊富で、肉を売る屋台も多い。特に食べれる屋台が多いような気がするな。おいおい、クレープ屋まであるのかよ。って、中身は肉かい!
「イビス、ここに来たことあるの?」
なんか落ち着いた感じ。楽しくないの?
「毎日来てるよ。朝と昼はここで食べてるからな」
いないと思ってたらここで食べてんだ。美味いのか?
まあ、食べてみればわかると、肉の串焼きを買って食ってみる。う~ん。不味くはないが、毎日来てまで食いたい味ではないな……。
「イビスは美味しいと思うの?」
味覚音痴か? オレが作ったのは美味しいと言って食ってたのに。
「いや、ボスの作るものよりは美味しくはないな。ただ、贅沢になれるとサバイバルしなくちゃならないとき苦しいからな、不味いものにも慣れておくんだよ」
さすが戦争の人。考えることは一般人とは違うわ~。
オレはもう貧乏には戻りたくはないし、不味いものはなるべく食べたくはない。まあ、なにがあるかわからないから備えはするが、イビスのように不味いものを食べて慣れておくなんてはしないけどな。
「地面に落ちたパンを平気で食べた人とは思えない主張よね」
元はもったいないオバケが住む国に生まれた者。落ちたくらいで食べ物を粗末にはできません。
それから市場を回るが、これと言って買いたいものはなし。手のひらの創造魔法を選んだあのときの自分を褒めてやりたいぜ。
……あのときの恨みも忘れてないがな……!
「この世界にもリンゴがあるんだ」
まだ春なのにリンゴが生るんだ。元の世界のリンゴより二回りも小さいけど。
「見た目はリンゴだが、味は酸っぱいパパイヤだな。聞いた話では、薄切りにして蜂蜜に漬けるそうだな」
興味があったので、リンゴ──ではなく、パルミを小銀貨一枚で買えるだけ買った。
「おばちゃん。蜂蜜は高いの?」
「まあ、小銀貨三枚出せば小樽一つは買えるよ」
大量買いしたからか、おばちゃんの口は軽い。蜂蜜は結構な流通があり、養蜂は何百年も前からやってることを話してくれたよ。
「……普通の蜂、普通にいたんだ……」
魔物の蜂を飼うなんてなんの冗談かと思ったが、いないと思っていたオレは神や邪神に染められていたんだな~。
世間知らずとは自覚してたが、ここまでなにも知らないとは思わなかったぜ。
「知らないことばかりだ」
「まあ、ボスは外に出ないしな」
出なかったのではない。出る暇がなかっただけだ。
「いろんな場所を巡らないと」
弱かったから守りに徹していた。だが、攻めるだけの力は手に入れた。これからはガンガン攻めていくぜ!
気持ちを新たに市場をよく見て回り、蜂蜜を売っている屋台へとやって来た。
「おじちゃん! 蜂蜜くださいな~!」
「へい、らっしゃい! どれくらい欲しいんだい?」
ノリが魚屋のおっちゃんやな。職種間違ってね?
「これで買えるだけくださいな!」
小銀貨二枚を見せる。
「アハハ! 魔法教義会の子は本当に蜂蜜が好きだな!」
え? そうなの? まあ、砂糖は蜂蜜より高いと聞いたし、クッキーですら娼館では大人気だったっけ。
「パルミ漬けを作るんです!」
「自作かい。それは気合いが入ってることだ」
ん? ってことはパルミ漬けを売ってるところもあるんだ。そっちを買えばよかったやん! とは思いません。オレならもっと美味しく作れるからな。
「魔法教義会にはよくしてもらってるからな、小樽三つにオマケしてやるよ」
「おじさん、ありがとー!」
稼げるようになっても根っからの貧乏性にはオマケは神の啓示よりありがたい言葉である。おっちゃんに祝福を!
「あ、おじさんのところで配達とかやってる? 魔法教義会に運んで欲しいんだ」
金貨を一枚出しておじさんに見せる。
「……お、おう。金貨まで出してくれるなら喜んで配達するよ……」
金貨はよく見るが、どれだけの価値があるかは知らなかったりする。支払いとかはマルレインおねーさんに任せ切りだったからな。
……イモさえ買えればわかるんだけどな……。
「手間賃を抜いた分で買える量をお願いね!」
一応、オレからってことを一筆書いておく。突然、蜂蜜を送られて来てもバンダルさんも困るだろうからな。
「おじさん、ありがとねー!」
「あ、ああ。また来ておくれ」
余裕があればまた来るよ。蜂蜜はいくらあっても困らないからな。
「フフ。買い物って楽しいね!」
前世では買い物なんて面倒臭いと思っていた質だったのに、なぜか買い物が楽しいと感じてしまう。これも女になった弊害か?
まあ、楽しいなんて気持ち、この世界に生まれて初めて。なら、楽しもうじゃないか。それが生きてる証なんだからな!




