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17 雪ウサギ

 雪ウサギ。


 邪神の揺り籠から生まれた生命体だからか、肉にまったくの臭みがなく、とても柔らかいと来てやがる。


 胃を裂くと、なにかの草が出て来ただけで、ほとんど空と言っていいだろう。あ、だから飢えたように襲ってくんのか。


「成体で生まれて来るのも不思議だよな」


 まあ、邪神とか言っちゃってんだから進化論うんぬん言うだけ無駄だか。そんなもんだと受け流せだ。


「寄生虫もなしか」


 鑑定で調べるが、どこからも出て来ない。真っさらと言ってもいいくらいだ。


 胃と腸を切り出し、よく洗ってまた鑑定。食っても問題はないようだ。


 一口サイズに切って火で炙る。


 鑑定をしながら具合を見て、よさげになったらパクッとな。モグモグ。幼女の舌にはちょっと早い味である。


 今度は塩を振ってモグモグ。まあまあかな?


「ガウ」


 オレにも食わせろとばかりに頭をこすりつけて来るシルバー。お前、腿肉食ってただろうが。


「ったく、食いしん坊が」


 生のまま胃と腸を皿に盛ってやる。


「胃や腸は酒飲み向けだな」


 グルメじーちゃんに出してやろう。


「モツ鍋、ホルモン焼き、あとなんだ?」


 他にモツ料理ってあったっけ? その二つしか思い出せねーや。


 まあ、そのうち作ってればなんかアイデア出んだろう。出なきゃ出ないでモツ鍋とホルモン焼きを極めたらいいんだからな。


 一日一匹なので隅々まで解体し、骨からどんな旨味が出るか煮込んでみる。


 鶏ガラならぬ兎ガラか。どんなもんになるのやら。美味くなるといいんだがな。


 弱火で煮込んでる間に毛皮の処理だ。


 毛皮の使い道はそれほどなくて野望の穴に放り込んでいたが、にーちゃんたちの話では雪ウサギの毛皮は高級品なんだと。


 詳しくは聞いてないからどう高級品なのかは知らんが、金になるのは確か。娼館のばーちゃんに売りつけてやろう。


 手のひらの創造魔法で簡単鞣し。でも、魔力はイモ十三個分は持っていかれたぜ……。


「これでなに作ろ?」


 毛は半纏はんてんに使うとして革は使い道に困るんだよな~。


 狼の革より弱く、薄いので、服にはあまり適してない。いい点は柔軟性があるってところだな。


「サイフか? いや、入れるほどないか」


 貯金はしてるが、今のところ銀貨四枚に銅貨八枚。小袋一つで充分間に合う。


「まあ、枚数重ねればそれなりのもんはできんだろう」


 冬の夜は長い。いろいろ作ってればなにに適してるかわかるだろう。裁縫もやってみれば楽しいしな。


 兎ガラは臭みはないものの味が薄かった。野菜と塩を追加すればあっさりスープのできあがり。パン食に合うな。うんうん。


 日々、女子力がアップしていくのを感じていると、ねーちゃんがプンスカしながら帰って来た。どったの?


「なんだいあいつら! ムカつく!」


 にーちゃんたちがなんかしたのか? 観察し、危険になったら助けるだけの簡単な修行なんだがな。


「あいつら、自分たちといたいなら仲間にしてやるとか言いやがったんだ! バカじゃねーの!」


 あー。ついて回ってるから自分たちに好意があると受け取っちゃったのね。男の子だわ~。


「男はバカなんだから気にしないの」


 そこで手玉に取るようなら立派だが、ねーちゃんにそれを求めるほうが間違っている。そんなこと死んでもしないだろうよ。


「なら、もう見捨てていいよ。にーちゃんたちがどう殺されるか学びな」


「うん。そうする」


 そして、オレの読み通り、にーちゃんたちは雪ウサギに殺され……はしなかったものの大怪我を負ったようだ。


 ねーちゃんが助けてたとは言え、七回もやってれば学びもするか。読みがハズレたぜ。


「いい様だ」


「ダメ出しだよ、ねーちゃん。自分の糧になったものを悪く言っちゃ。感謝の心だよ」


 オレたちの糧となってくれた命には敬意と感謝を忘れちゃいけない。人として大事なことなんだから。


「……ごめん。感謝する……」


 ちゃんと説明すればわかってくれるねーちゃん。いい子いい子と頭を撫でてあげた。


 かーちゃんに甘えることをしないねーちゃんだが、オレには結構甘えてくる。よしよし。


 またねーちゃんによる雪ウサギ殺戮が始まるかと思いきや、猟師風のおっちゃんがやって来た。今度はなんだい?


「春まで雪ウサギを狩らしてもらうよ」


 どうやら娼館のばーちゃんが雇った隣町の猟師なんだってよ。


 ちなみにうちの町の猟師でかーちゃんのお得意さんは去年から帰って来ません。死んだかな?


 昔の男など風と共に去りました。新しいカモに集中しましょうね~。


 と、思いきや、もう娼館のばーちゃんに握られてました。


 雪ウサギの代金から娼館利用費をさっ引かれているようで、かーちゃんの新しい客とはなりませんでした。クソ。


「あいつ、腕はいいよ」


 あとをつけて学んでいたねーちゃんに猟師の腕前を尋ねると、そんな答えが返って来た。


 ねーちゃんが悔しそうに言ってることは相当腕がよいのだろう。娼館のばーちゃんめ、師匠と呼ぶぞ。


「上には上がいて、下には下がいるもんだよ」


「うん」


 それがわかればねーちゃんはもっと強くなるよ。


 オレを抱くねーちゃんを今日はいっぱいよしよししてやった。


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