169 君をミカンと命名する
なんてノリと勢いで出てみたものの、オレ、アルイン都市のことなんも知らねーわ。
まあ、歩いてりゃどこかに通じてるだろう。なんて軽い気持ちでいたのだが、ここ、どこでっしゃろ? なんか倉庫がいっぱい並んでるんですけど?
「……スズ、前世で方向音痴だったりする……?」
まあ、方向感覚に優れていたか、と問われたら、あまり優れていなかったと答えざるを得ないな……。
元の世界ではスマホがあり、グーグルな先生が導いてくれたから困ることはなかった。たまに逆らいたくなって迷ったりはしたけどネ。
「……だからシルバーに跨がっての移動だったのね……」
そんな事実もあったりなかったり。シルバー、超絶に方向感覚に優れていたっけ。
「なんで置いて来たのよ!」
「影武者から離れたら変じゃない」
シルバーがいることで影武者が本物と思われるんじゃない。ジュアとミューツもシルバーのこと気に入ってたしな。
「それで迷子になってりゃ世話ないわよ」
うむ。おっしゃる通り。山にいって手頃な熊を捕まえるか? いや、なにも熊じゃなくてもいいよな。熊に跨がる魔法使いとか、なんか違う。魔法使いなら箒か? いや、箒に跨がるのは目立つな。なにがいい?
「自分で歩いて感覚を研きなさいよ」
それで方向感覚が研かれるなら世に方向音痴はいないよ。まあ、オレは方向音痴じゃなく感覚が鈍いだけだけど。
「それを認めないことになんの意味があるのよ? バカじゃない」
守護天使からの心ない云われよう。悲しいわ~。
まあ、我には万能偵察ポッドがあり、信者の魔力がある。都市を覆うくらい屁でもない。秒単位で十平方メートルを網羅していく。
「……市場は……これか。こういってああいってこうだな。よし、覚えた」
「それ、必ず迷う人のセリフ。素直にポッドに案内してもらいなさいよ」
あ、うん。そうですね。それが無難ですね。
見失わないように万能偵察ポッドをオレンジ色に変え、目線よりやや下にして一メートル先を進ませた。
「目立ってるわね」
まあ、そのうち慣れるさ。これからオレの指標となる万能偵察ポッドなんだからな。あ、なら、名前つけるか。
「うん。君をミカンと命名する」
人工知能をつけて音声ナビできるようにするか。チチンプイのホイ。まずは六歳くらいの知能からスタートや。
「スズちゃん。イビスちゃんが来るよ」
しゃべりも六歳かい。まあ、いいけどさぁ。
市場に向かってると、前方にイビスの姿が見えたので、おーい! と手を振ってみた。
オレに気がついたイビスが、手にしていたフランスパンっぽいものを地面に落としてしまった。
「こら。食べ物を落としちゃダメだよ」
落ちて三秒は過ぎたけど、オレの中では三十秒内はセーフである。地面に落ちたフランスパンっぽいのを拾いいただきます。まあまあの味だな。
「……ボ、ボス、なのか……?」
「スズだよ! 魔法使いで冒険者になるんだ!」
「ああ。ボスだわ」
え? どこにオレだと言う要素があった?
「ボスが碌でもないときの笑いだよ。つーか、そのしゃべり止めろ。イラッとするわ」
あら。イビスは無口な娘がタイプか? 元気なボクっ娘は嫌いか? オレは結構好きなタイプよ。
「いったいどう言うことだよ?」
「目立ってどこにもいけないからジュアに任せて別人になったの~」
「それは計画してたことか?」
「半分は計画してたかな? お忍びで町とか回りたかったし」
とは言え、それはもっと先のことだと思っていた。それが最初で躓くとは夢にも思わなかったけどな。
「はぁ~。ボスは計画性があるんだか行き当たりばったりなのかわからんよ」
オレだって計画的に事を進めたいよ。でも、神や邪神がそれをさせてくれないんだから選択肢を多く用意して臨機応変に対応してるんじゃないか。
「伝道巡回は計画的に進めるためにスズとジェスは行き当たりばったりの自由な冒険に旅立つのだ!」
「そう言いながらなにか目的があるんだろう?」
「あるかもしれないし、ないかもしれない。だって先は誰にも見通せないんだもん!」
選ばれた中に未来視とか願ったヤツがいたら全力で捕獲してやるぜ。
「……わかった。わたしもボスについていく。温い世界で勘が鈍るのも嫌だからな。それに、あの女に負けたくもないし」
「イビスはフェミニストかと思ってた」
こいつ、女性には気持ち悪いくらい優しいのだ。特に胸の大きい女性には、な。
「わたしは、ちゃんと敵味方ははっきりさせる主義だ。敵に靡いたりはしない」
本当かよ? と疑いたくなる。女風呂でパイオツをガン見してるクセによ。
「なんでもいいよ。なら、イビスも冒険者登録しないとね!」
まあ、ついて来るのは予想していた。なら、しっかりと戦力となってもらいましょう。来るべき日に向けて、な。




