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16 冒険者

 冬がやって来た。


 この世界に生まれて五度目の冬だ。なので五歳とします。おめでと~。


 誕生日なんてないので自画祝辞(自画自賛の発展系です)。世界はオレを愛してるよ~。


 オレは世界を憎んでるけどな!


「リン! 雪ウサギが出たぞ!」


 子どもは風の子元気な子とばかりにはしゃぐお姉様。その生命力をオレにもわけてくれ、だよ。寒~!


 熱石を発熱石に変えたものをウサギのコートに詰めて外に出た。


 雪が降るとともにやって来る雪ウサギ。お前はなんのために生まれて来たんだろうな?


「肉だぁ~!」


「ガウゥ~!」


 二匹の肉食獣が雪ウサギの存在を証明してます。うん。雪ウサギよ。君たちの血肉はオレたちが引き継いだ!


 んじゃ、雪ウサギさんを解体しましょうね~。


 もう慣れたもので一匹に費やす時間は一時間もかからない。が、毎日三~四匹は疲れるわ。誰か解体してくんね~かな~。


 そんな願いが天に通じたのか、冒険者っぽいにーちゃんたちが現れた。


 まだ少年と呼べる四人のにーちゃんたちは、そんな格好で動けんのかい? って尋ねたくなるくらい厚着していた。


「なんだ、あいつら?」


 無力な幼女は出番ではないのでそそくさ~とシルバーの背中に隠れ、強力な幼女に任せます。


「止まりな!」


 蜂を生み出す邪神の揺り籠を潰したことにより、さらにレベルアップしたねーちゃんは、火の矢を放てるようになれた。


 ぶっ殺すだけなら火の矢は有効だが、狩りをするには不向きなんだよね。オレ、雪ウサギの狩りで気がつきました。


 ……命は有効な資源。丁寧に殺しましょう……。


「待て! おれたちは冒険者だ! 雪ウサギを狩りに来ただけだ! 危害は加えない!」


 それを素直に信じられないこの暗黒時代。悲しいわ~。


「あんたらのことは娼館のばーさんから言われている。下手なことはするなってな! あのばーさんに逆らえるもんは町にはいない。だから、あんたらになにもしないと誓う。おれたちは雪ウサギを狩りたいだけだ」


 あのばーちゃん、結構有力者だったのね。だったらもっと媚びてればよかったぜ。


「リン、知ってるか?」


 うん。ねーちゃんにも話したよね。もうちょっと記憶力を鍛えようか。


「知ってる。蜂蜜酒買ってくれた」


「あ、ああ。そんなこと言ってたな」


 完全に忘れてないだけよしとしよう。


「ここで、狩らせるのか? あたしらの取り分が減るぞ」


「構わない」


 確かにオレらの稼ぎが減るが、狩るのが早くて解体が追いついてない。肉のいいところだけ切って残りは野望の穴に放り込んでいる状況だ。


 このまま続けるより丁寧に一匹を解体して、他の部位を解体するほうが食卓は豊かになる。


 それに、他のヤツの狩りを見るのも今後の糧となるはずだ。オレたちはまだ世界を知らないんだからな。 


「好きにしな。ただし、妹になんかしたらぶっ殺すからな!」


 ヤダ。ねーちゃんがカッコイイ。


 なんてトキメキもないが、姉らしいところはあったことには感動したよ。ってことにしておこう。真実はときとして人を傷つけるからな。


「助かる!」


 そう言うと雪を掻き分けて山へと向かっていった。


 ……ありゃ死ぬな……。


「リン。本当によかったのか?」


「大丈夫だよ。あのにーちゃんらすぐに死ぬよ」


 出生はわからないが、たぶん、農家の三男とか四男の類いだろう。山のことや狩りのことをまったくわかってない感じだ。


「死ぬ? なんでだ?」


 って、ねーちゃんにもわかってないんかい! 本当にいいタイミングで来てくれたぜ。


「まず山に入ろうって装備じゃないでしょ。ただ厚着して動きが鈍い。あれじゃ雪ウサギに翻弄されて顔を囓られるよ」


「あ、確かに。雪ウサギの速さについていけないな」


 ねーちゃんは薄着をしてるが、発熱石を仕込んであり、下着はヒートテ──じゃなくて吸湿発熱仕様になっている。マイナス気温になろうとも動くことに支障はないはずだ。


「カンジキもつけてないしね」


 ねーちゃんは魔法で狩っているので機動力はいらない。必要なら雪を固めて雪ウサギの脚を文字通り止めたらいいだけだ。


「なにより剣で狩りってバカでしょ」


 接近戦が得意ならいいが、雪上戦に特化した雪ウサギに勝てるほど得意とも思えない。どっからどう見ても素人だよ。


「ねーちゃん。あいつらについてって助けてやりなよ」


「なんでだよ? 死ぬんだからほっとけばいいだろう」


「あいつらがどれだけ無様かを学ぶためだよ」


 ねーちゃんはオレが導き、道具を用意し、段階を踏んで狩りをさせて来た。レベルアップする体にもした。だから、雪ウサギ如きに遅れを取ることはないだろう。


 それ故に失敗を知らない。準備がどれだけ大切かも知らない。狩りをナメてるところがあるのだ。


 だからねーちゃんには失敗例を見て学んで欲しいのだ。下には下がいて、上には上がいることをな。


「それに、人に慣れておきな。冒険者になったらイヤでも人の中に入らなくちゃならないんだから」


 剣や魔法がどれだけ上達しようとコミュニケーション能力がなければ人の中では生きていけない。ないやつは淘汰される。それが摂理ってもんだ。


「わかったよ」


「無理に助けなくてもいいからね。あいつらがどう死ぬかを見るのも勉強なんだから」


 人生、命大事にが長生きのコツだ。


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