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15 ばーちゃん

 天高く馬肥える秋。


「去年は気にもしなかったが、この世界の秋も空が高いんだな~」


 余裕ができたからなのか、自然を眺めるようになった。


 とは言え、長い冬を乗り越えるためには食料と薪の確保に勤しまなければいけない。


 薪はねーちゃんに任せ、オレは女もんの下着をチクチク縫ってます。


 ──食料確保はどこいった?


 ちゃんとやってるよ。朝の一時に。リンゴを蜂蜜漬けにするのをな。


 ちなみにリンゴは隊商から買いました。かーちゃんに頼んで。


 みかんサイズの酸っぱいだけのリンゴだが、酒にすると美味しいらしく、どっかの町の主産業になってるらしい。なので、銀貨一枚で樽いっぱいのリンゴが買えるのだ。


「リンはいいお嫁さんになるね」


 一緒に縫い物をするかーちゃんができあがったパンツを見てオレを褒めている。


 それ、まったく嬉しくないよ、かーちゃんよ。


 前世の記憶があり、まだ幼女なので、男の意識が百パーセントある。そんな心は男、体は幼女が女もんの下着を作っている。つーか、女子力ばかりが上がってるよ! こん畜生め!


「リンは将来なにになるの? 針子?」


 母と娘の会話ってのもキツいもの。かーちゃんから見たらオレは女の子してるもんな、話題も女子トークになるわ。


「わかんない」


 幸せに暮らしたいというざっくりした夢はあるが、今を生きるに必死でなにになりたいなんて考えもつかない。とりあえず冒険者や娼婦、お嫁さんとかは却下だ。


 ねーちゃんの前以外、オレは無口な子なので聞き役に徹し、合間合間に答えるだけだ。いい親子関係でありたいからな。


「あのね、リン。ナナリを身請けしたいって人がいるんだよ」


 なんて唐突に言うお母様。それを四歳児に言うのはどうかと思うよ。


 まあ、中身はともかく見た目だけ言うならねーちゃんは美幼女だろう。オレが身奇麗にしてるから町の子でも通じる。将来を見れば早いうちから手に入れたいと思うだろう。


「いいところの人でね、ナナリの才能を育てたいって言ってるの」


 なんの才能かは問わないが、まず間違いなくねーちゃんはイヤがるだろう。


「ねーちゃん、売るの?」


 身請けとはすなわち売ると言うことだ。弱者に優しい世界じゃねーしな。


「売らないよ。あくまでもナナリの才能を育てたいって話なの」


 そう言うのを子ども騙しって言うんだよ、かーちゃん。


「イヤがる」


「……だよね。リンから言ってあげて。わたしじゃ聞いてくれないし……」


 親の心子知らず。なんてことは当たり前。親になって初めて親の心を知るものだ。いや、親になったことないけどね。


「わかった」


 聞くまでもないが、親の顔を立てるのも娘の役目、かどうかは知らんけど、聞くだけは聞いてみましょう。で、ねーちゃん。どうよ?


「イヤ!」


 とのことでしたお母様。


「……だよね……」


「ねーがいなくなったらダメ」


 ねーとはねーちゃんのことね。かーちゃんの前ではそう呼んでます。ちなみに一人称はリンって言ってます。


「そうだね。働き手がいなくなるものね」


 力仕事全般を請け負ってるので、かーちゃんとオレでは生きていけないよ。


「町で暮らせるといいんだけど」


 この家があるからかーちゃんの給金でも生きられてるのだ。町に住んだら今より酷い暮らしになるぜ。


「リン、ここがいい」


 町だと手のひらの創造魔法が使い難いし、育てるのもここがいい。せめて十歳まではここにいたいぜ。


「……そうだね……」


 かーちゃんとしては町がいいのだろうか? なんて考えるだけ無駄か。今はかーちゃんがいないと生きていけないのだからかーちゃんには頑張ってもらおう。その代わり老後はオレに任せな。ハッピーなままあの世に旅立たせてやるからよ。


「余った布、使っていい?」


「いいわよ。娼館のねえさんたちが余分にくれるからね」


 オレが作った下着が娼館で人気らしく、いろんな布をくれるのだ。もちろん、代金は下着だけど。


「なにするの?」


「温かい服作る」


 去年はウサギの毛を利用できなかったが、今年は布の切れ端がある。これで半纏はんてんを作り、ウサギの毛を綿毛にしたものを詰めるのだ。


「リンが作るのはねえさんたちも喜ぶよ」


 別に売るつもりはないんだが、まあ、金になるのならいっか。布団やクッションとかも創りたいしな。


 下着作りも一段落し、雪が降るのも時間の問題って頃、知らないばーちゃんが来た。


 格好からして町のもんだろう。なんかがめつそうな顔してんな。


「……お、お前がミレンの娘かい……?」


 シルバーにビビりながらも声をかけて来たばーちゃんを不躾に無遠慮に見る。


「別に取って食ったりはしないよ。だからその熊は押さえててくれよ」


 失敬な。シルバーは人を食ったりしないよ。いいもんばかり食わせてたらグルメな熊になっちゃったんでな。


「リュード酒があるそうじゃないか。少しわけてくれるかい?」


 かーちゃんか? 蜂蜜酒のことは内緒だって言ってたのに。


「銀貨二枚」


 まあ、バレたのならしょうがない。いずれバレるものが今日バレたってこと。ならば儲けに繋げろだ。


「高いね。もうちょっとまかんないのかい?」


「塩」


 ここは内陸部なのか、塩が高いのだ。手のひらの創造魔法で創れるとは言え、削減できるものは削減しないとな。


「ん? 塩と交換してくれるってことかい?」


 イエスと頷く。


「リュード酒はいくつあるんだい?」


 八つだと指で答える。


「じゃあ、全部で塩と交換しておくれ」


「塩は同じ甕で四つ。持って来たら渡す」


 渡して知りませんじゃ困るからな。


「わかってるよ。その熊に暴れられたらたまったもんじゃないからね」


 そんなことはしないよ。ただ、ちょっと娼館で食中毒が起こるだけさ。


「それじゃ、うちの男をよこすよ。用意してな。それと、その熊。ちゃんと組合に登録してないと殺されるよ」


 そこんとこ詳しく! と思ったけど、来年でいいや。まだ一人で町にいけないしな。


 さて。蜂蜜酒を出しますかね。


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― 新着の感想 ―
[一言] >天高く馬肥える秋。 外敵襲来かと思いきや、次の話で一安心。
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