13 蜂
ねーちゃんの夢はねーちゃんが叶えるとして、オレはオレの夢を叶えるとしましょうかね。
「シルバー。匂うか?」
「ガウ。ガウガウ」
匂うことは匂うらしいが、匂いが薄くてよくわからないらしい。
「リン。なにを探してんだ?」
「蜂だよ。ブンブン飛んでる蜂の巣を探してるの」
家の近くで蜂が飛んでるのは見ている。なら、そう遠くない場所に巣があるはずだ。前世の蜂と同じならな。
「蜂の巣? そんなもんどうするんだ?」
「巣に集めた花の蜜を使ってお酒を創ろうと思ってね。前に来たじーちゃんに高値で売るの」
あのじーちゃんなら銀貨二枚で買ってくれそうだ。二回目に来たとき酒は好きだって言ってたからな。
「あーあのじーちゃんな。護衛のヤツ、強そうだったよな」
ねーちゃんはじーちゃんより護衛(今回来たの女だった)が気になるらしい。どう言った意味で気になったかは知らんけど。
「あと、蜂蜜は甘い」
ねーちゃんのやる気スイッチがオ~ン! フルスロットル。甘味センサーが全開で放たれた。ガンバレ~。
妹そっちのけで駆け出すねーちゃんのあとを追うと、蜂が徐々に現れ……たと言うか、死骸が落ちていた。
「……姉がドンドン脳筋になっていく……」
どこかで修正させないと早死にしそうだが、こう言うのは躓くまで止まらないもの。今は準備を整えておくしかないな。
「さすが特殊能力、ソードロードを持ってるだけはある」
何百匹もいる蜂を木刀で打ち落としている。
……そこは魔法で一網打尽、って発想がないのが残念だよな……。
まあ、練習にはなるから口にはしないけどさ。
「しかし、蜂は前世と同じサイズなのに巣はやたらとデカいな。五倍くらいあんじゃね?」
蜂の巣を生で見たことはないが、玉転がしくらいのが樹齢うん百年の樹の横にへばりついていた。
「鑑定!」
人差し指と中指で>を作り右目に当て、蜂を鑑定する。
「この蜂、魔物かよ。しかも、殺人蜂じゃん。よく襲われなかったな、オレたち」
家から四百メートルくらいで、蜂の行動範囲は約五百メートルだった。
さらに細かく鑑定すると、巣分かれして間もないようで、活発期は秋のようだ。
「その間に蜜を溜めて秋に女王を生むのか。ってことは巣は他にもあり、邪神の揺り籠があるってことか」
ムフフ。大量にして大漁の予感がする。こりゃ、容器をたくさん用意しなくちゃならんな。
「リン! 蜂をぶっ殺したぞ!」
ハイハイ。んじゃ、ねーちゃんは蜂の残骸を集めてね。野望の糧とするからさ。
「グチャグチャなんだけど」
うん知ってる。見てたから。風の魔法で集めれば触らなくていいんだからやっちゃって。
「って、シルバー! なに食ってんだお前は!?」
グチャグチャになった蜂をペロペロしているシルバー。腹壊すぞ!
「ガウガウ」
「え? 甘くて美味しいって? マジか?」
もう一度蜂を鑑定すると可食と出た。マジかぁ~~~!
前世で蜂の子は食ったし、イナゴもご飯に乗せて食ってたから食える虫にそれほど抵抗はないが、さすがにグチャグチャの蜂を食うには抵抗があるわ~。
「ねーちゃん、食う?」
「食うワケないだろう! あたしをなんだと思ってんだ!」
食い意地が汚いとは思ってた。オレのまで取っちゃうし。
「まあ、シルバーが食うならシルバーのエサにするか」
シルバーの暴食でウサギ肉が冬まで持ちそうにない。蜂が食えるなら捕まえよう。いっぱいいそうだし。
「ねーちゃん。蜂は捕まえる方向でよろしくね」
「捕まえるって、どうすんだよ?」
「風を出すんじゃなくて吸う感じで。こんな感じ」
ねーちゃんは脳筋だが、マギロードがあるだけに手本を見せるとすぐにマスターするのだ。
「なるほど。リンが掃除に使ってる吸引か」
「そう。それを強力にして魔力膜に溜める。それを応用すれば空だって飛べるよ」
さすがに練習しないとならんけど。
「空か~。うん! 練習してみる!」
そのやる気やよし。でも、その前に巣から出て来た兵隊蜂を捕まえてね。シルバーのエサになるからさ。
「任せておきな! 一網打尽だ!」
キャー! ねーちゃんステキ!
と声援を送りながらティータイム。あー茶が美味しい。