表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

はわわー

 「ちくわうめぇ!!」


 パトリ緒さんがテーブルに出された、ちくわカレーを頬張りながら叫ぶ。

 俺はそれを見ながら非常に残念な気分になっていた。

 せっかく顔は可愛いのに言動が痛すぎる。


 「ちくわは俺が仕込んどいた自家製なんだ。街の魚屋さんにタラっぽい生物が売っていたから、家に持ち帰って身を磨り潰してオーブンで焼いといたんだ」

 「私もご主人さまの横に立って、ちくわの調理に貢献しました!」


 なぜかドヤ顔でメイドのリサがふんぞり返っている。

 ちなみに俺とパトリ緒さんとリサの3人で話し合った結果、リサはメイドだけど家来ではなくて、家族扱いにすることになった。こんなところでご主人さまごっこして喜ぶ趣味はなかったからだ。

 なのでリサも俺らと同じテーブルに座ってカレーをモグモグしてる。

 もちろん本格店ではないので素手でなくスプーンで食べてる。


 「えぇ……、リサがキッチンで俺の横に立ってたのは事実だけど、その間は、はわわー、とか、はううー、とかを独り言のように言ってただけじゃないか」

 「はわわー、だってあのときの私は自我が創発してなかったのです……」

 「ちくわうめぇ!!」


 しかし考えれば考えるほどに今の状況は謎だ。

 リサが買い物がてらに情報収集したところによると、他にも自我が創発したAIのキャラクターが数え切れないほど出現しているそうだ。さらに俺らみたいにログアウト出来ないプレイヤーも街に溢れていて、帰宅難民化した人々が路頭に迷っている。

 プレイヤーたちも何とか運営に連絡を試みてるが返事はない。


 また俺らが活動している街であるニューエムデンでは、帰還できない有志のプレイヤーが中心となって情報共有用の電子掲示板が立ち上げられた。

 掲示板ではゲーム内に持ち家がなく、宿賃も持ち合わせてないプレイヤーのために、ルームシェアやテントの譲渡などのやり取りが活発に行われている。

 ただゲームの仕様のせいなのかニューエムデンの外では掲示板は使えないようで、比較的集まっている情報は限られてる印象がある。


 現実世界のニュースの情報なども寄せられてるが、首都圏に巨大地震というものから、北米のイエローストーンが破局噴火、地球衛星軌道上に秘密裏に打上げられたソーンのタイムマシンが暴走、巨大隕石が落下中に分解する、などなどの眉唾な情報ばかり。

 俺らもパトリ緒さんが保存していた、地震や隕石のニュースのスクショを掲示板にアップロードしたのだが、混乱に拍車をかけただけの気がする。


 「ちくわうめぇ!!」

 「機械ではなくて切り身をすり鉢を使って、適度に解してから調理してからな。市販のちくわは機械でその辺を一気に処理してるから、ここまでの味を出すことは不可能」


 料理もここまで素材の美味しさを引き出せるのも異状だった。

 今までは五五ティーなど大味なものしか再現できなかったのが、ここ数日で誰にも告知されることなく格段のアップグレードが行われている。

 魔トリは日本では大ヒットしてるものの、世界市場では苦戦していて予算も限られてる。

 それで果たしてここまでのクオリティを引き出せるものなのか……。


 「ウヒョォォォ!! このちくわ表面はパリパリに焦げ目がついてて、噛むと中から魚肉エキスが滲み出てきて堪らないでゴザルよ!! 正直、最初見たときは市販ちくわと比べて、カタチが歪だったかので期待してなかったけど、非常に美味でゴザルよ!!拙者、感激でゴザル!」


 パトリ緒さんはどうも興奮すると武士っぽい喋り方になるようだ。

 ふつうの女の子っぽく振舞おうと努力してる節があるけど、疲れるなら止めればいいのにと思う。

 フッと以前、高尾山登山オフ会で会ったことがある女の子を思い出した。

 その女の子もこんな風に不器用だったっけ……。


 「はわわー、そう言えば、お嬢さまもサブアカを持ってましたよね。以前、ああああという方をこの拠点に入れるように登録した覚えがあります」

 「ああああは確か宝玉を手に入れるために使ったサブアカだったな。もしかして廃課金パーティーの近くに放置したせいで戦闘になってたりしてな」


 俺とリサでパトリ緒さんに視線を向ける。

 パトリ緒さんは、ちくわを咥えたまま、俺らからカレーを隠すような仕草をする。

 いや、奪って食べたりしないから。


 宝玉を出してみる。

 アイテムウィンドウの表示によると正式名称はミスナーの宝玉、そしてこの宝玉で慣れる上級職はジョブポイントが2000も必要だった。一般的な下位職や中位職に必要なジョブポイントが、10~50なことを考えると破格の数値と言えた。

 ちなみにジョブポイントとは、転職や職業固有のスキルなどを覚えるために、必要なポイントのことで、職業固有のスキルや魔法を使うことで溜まっていく仕組み。

 とうぜん転職や職業固有スキルを覚えたら減っていく。

 今の俺はジョブポイント80しかない。


ミスナーの宝玉は他にも備考欄が????と表示されていたり、転職アイテム以外の使い道を匂わせる雰囲気があるが、今のところ情報不足すぎて何とも言えない。

 俺がテーブルの上で宝玉を転がしてると流石に気になったのか、パトリ緒さんはサブアカの管理ウィンドウを出してくれた。そこには移動するマーカーが一つあった。


 「あれ?ああああが森の中で移動しているでゴザ……いるわ」


 カレーを食べ終わって、オタクモードから女の子モードに移行したのか、パトリ緒さんは武士的な喋り方を終えて普通の口調にしてくる。

 サブアカの座標画面の中心部にある、ああああを表すマーカーは確かに移動していた。

 

 「リサ、プレイヤーがログアウトした後の、サブアカキャラが自我を持って勝手に動き出したケースって、聞いたことある?」


 念の為に俺はリサに聞いてみた。

 答えはイエスだった。


 救助に行った方がいいのではと俺が急いでテーブルから立つと、街の中心部の方から連続した爆発音が聞こえてくる。ニューエムデンはPvP(プレイヤー同士の戦闘)は禁止されてるし、モンスターが入り込まない設定になっている。

 乱暴に拠点のドアが開かれたとはそのときだった。


 「失礼します。吾輩は大手武士団ギルドの蝸牛角上の者であります。現在、ニューエムデン中心街は、多数のモンスター及びそれを操るプレイヤーが暴れています。もし戦える者がいましたら応援に駆けつけて欲しいのであります」


 ずかずかと鎧武者に扮した者たちが家に入って来てイラっとしたが、ことがことだけに仕方ないという気がした。ログアウトできないバグが発生してる状態で死亡したら、どんなエラーが起きるか知れたものではない。

 なので可能な限り戦闘参加者のダメージを抑えつつ、騒ぎを起こしてる連中に数の暴力でもってご退場を願うというのがギルド蝸牛角上の方針とのことだった。


 「戦闘職ではなくてもカーペンターやブラックスミスでも歓迎するのであります。現在、蝸牛角上の工房では棒火矢や火車などの戦国時代に使われたロケット兵器、攻城用大盾の木慢などを製作中なので、工作系スキルをお持ちでしたらそちらの方へのお手伝いでも歓迎します」


 うーん、こいつら危機意識を感じてると思いきや、意外とこの状況を楽しんでる様にも見える。

 ただ俺はログアウト出来ない状態になってから職業ニートのままだから役立つかどうか。

 そう言えば、パトリ緒さんの現在の職はどうなってるんだ?

 聞こうとして振り返るとパトリ緒さんが倒れていた。


 「え、リサ、パトリ緒さんはどうして倒れてるの?」

 「わかりませんご主人さま、状態異常の気絶になってしまったようで……」

 「おお、それは一大事。さっそく蝸牛角上の野戦病院に連れて行きましょうぞ!」


 ステータスを確認すると確かに気絶と表示されていた。ついでにパトリ緒さんの職業欄を確認しようとするが????と表示されて職業不明な状態になっている。

 いくつも疑問に思うことがあるが、まずはパトリ緒さんの手当てが先決だろう。

 俺は彼女を背負うとリサと蝸牛角上のメンバーと一緒に野戦病院へと急ぐ。


 「そう言えば、紹介がまだでしたな。吾輩はニューエムデンに拠点を置く大手武士団ギルドの蝸牛角上のサブリーダーの、蝸牛電之介と言うのであります。以後、お見知りおきを」

 

 リサと一緒に俺は彼に軽く頭を下げると、中心街で戦闘が起きてるニューエムデンを駆ける。

 棒火矢や魔法などの爆発音の響きが、戦場が遠くないことを告げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ