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冒険者ああああ

 超古代文明の遺跡の攻略は至極簡単だった。


 少数精鋭で編成されたパーティーはチートを行っており、全員のレベルがMAXだったからだ。

 とは言っても魔トリの世界は、装備やスキル、或いはプレイヤースキルなどでも、強さが変化していくので、単純なレベルだけでは分からない部分もあるが。


 リーダー格の赤毛の大男は、手に宝玉を掴むと満足げにそれを眺める。

 それは魔トリの世界において究極の職業に転職できるアイテム、正式名称はミスナーの宝玉。

 チャールズ・ミスナーという科学者が発見した極小の世界のモデル「ミスナー空間」が名前の由来になっているそうだ。


 ミスナー空間では一つの小さな部屋が宇宙全体となる。

 前の壁に手を入れれば後ろの壁から手が出てくるし、床に足を入れれば天井から足が出てくる。

 そこに閉じ込められた人はどんなに動いても部屋から出れない。

 何故ならその部屋こそが宇宙全体であるからだ。


 「現実宇宙はすでに崩壊しつつあり、この魔法学園トリスティア・アカデミーの小さな世界こそが、人類にとっての全てだということを、上手く表しているネーミングだな」


 大男は言葉の端々に激情を感じさせながら静かに皆にそれを伝える。

 否定することは許さない、もし否定すれば直ちにお前に制裁を下す。男はそういう雰囲気をまとっており実際に過去に逆らった人々に厳しい制裁を下してきた。

 日本を含む現実宇宙の崩壊がすでにカウントダウンに入っている今、現実の刑法など何の役に立つのだろうか。魔トリを支配する者こそが、全ての支配者になると言うのに。


 「……崩壊する訳ではないですよ、オツベル。ただ現実宇宙が可能性という海の中に没するだけ。ただミスナーの宝玉を増幅器として使えば、想いによって世界或いはその一部を、抽出できる余地があるだけ」


 そのパーティーで一番貧相な女が喋る。

 身にまとうものは汚物の臭いが染み付いたボロ切れ一枚だけ、スキルも初期状態にあるものしかなく、おまけにレベルも1で最弱のモンスターに勝てるかも怪しい。

 ただ女の目だけは燃えるような怒りが湛えられていた。


 オツベルと呼ばれた大男は無造作に女を蹴り上げた。

 女は数メートルは吹き飛び近くの巨木に衝突する。内臓を痛めつけられたようで呼吸困難に陥ったらしく、喉を押さえながら地面の上で悶えている。


 「そのクソ女に回復魔法でもカマしといてやれ。死なれてホームポイントに戻られても面倒くさいしな。しかし呼吸困難のような苦痛も再現されるとは、魔トリが現実そのものに成りつつある良い証拠だ」


 ただちに女のもとに数人のヒーラーが来て回復魔法を唱える。

 そしてそれがオツベルにとって仇となった。次の刹那、男の手からミスナーの宝玉がなくなっていたからだ。

  危機に気づいた何人かのオツベルの手下が騒ぎ出す。


 「知ってたですかオツベル?わたしもプログラマーの端くれでチートコードくらいは打てるのですよ。大盗賊スキルの強盗をレベル100まで上げて使わわせて貰いました」

 「まずい!ヒーラーどもそのクソ女から離れろ!」

 「もう遅いです……」


 ミスナーの宝玉によって増幅された強烈な電撃が、女の周囲にいたヒーラーを死亡されていく。

 ヒーラーが全滅したオツベルのパーティーは仇討ちとばかりに女に突撃する。


 「くぅ、やはりまだ宝玉のコントロールが危ういです。でももうちょっとだけ耐えて……」


 女は宝玉で増幅した電撃魔法でつぎつぎと敵を倒していく、しかし制御しきれない一部の電撃によって身を焼かれてヒットポイントが急激に低下する。もうあと10秒も持たない。

 だがオツベルはレベルだけでなく、プレイヤースキルも高かった。電光石火の電撃を見切り避けて、女の元へと特攻機のように肉薄してくる。


 オツベルの斬撃と女の電撃がお互いに致命傷を与えたのは同時だった。

 対人戦闘の結果を表す「Draw!」が戦闘参加者全員に表示された。

 動くものがいなくなった場に宝玉が取り残される。


 そして木陰から明らかにいい加減なキャラメイクしたプレイヤーが出ていた。

 IDこそ普通だったが、名前が「ああああ」など明らかにサブアカウントみたいなそれだった。

 顔こそキャラ設定でデフォルトの美少女だが、何を血迷ったのか身体は三等身の男の子。

 しかも「コポォ!」「カポォ!」など妙な鳴き声をする。


 「ああああさん!ちょっとそれ大事なアイテムだから話を聞いてくれるですか!」

 「てめぇ、ああああとか言うやつ!それを盗んだら追い詰めて殺すぞ!」

 「ぬほカプゥ!上位職になれるアイテムですな!プレゼントに最適!」


 ああああさんはそうして森の中に小動物のように素早く消えていった。

 残された誰もが面倒くさい状態になったと感じていた。

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