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 ああああは夜になるのを持っていた。


 昼間のうちに周囲への偵察は済ませてある。野営をするならば水場から近く、比較的平らな地面があるこの場所で、夜を明かすに違いがなかった。

 予想は的中して、両頬が酷く腫れた女とともに、オツベルと呼ばれた大男とその配下のものらが集まってくる。戦士や騎士などが7人と回復職が3人、合計で10人程度の団体だ。

 軍馬も2匹ほど引き連れている。


 男たちは女を犬のようにロープで木に繋ぎとめている。炊事やトイレの合間に、女の前を通り過ぎるときは、唾をかけたり蹴りつけたりしている。


 軍用の飯盒で彼らが炊事をして、こちらの方まで美味しそうな匂いが漂う。彼らの今晩の飯は芋が入ったシチューと山菜のサラダ。寝床も用意してるがタープすら張らずに、地面の上に寝転び、毛布だけ被って寝るようすだ。この森は異様に虫が少ないので、それでも大丈夫なのかも知れない。


 元がゲームの世界なので、森の生態系などを再現しきれてないのだろう。

 今後それが、この世界にとって、凶と出るか吉と出るか。


 やがて森の中心付近にある沙羅樹の木の方から、怒りに打ち震えるような動物の鳴き声が聞こえてくる。

 森に木霊するそれは慟哭に近いものであるように感じられた。


 ステータスウィンドウを開いて職業タニシのスキルを再確認する。

 親切なことに日本の御伽噺である田螺長者の話が記載されていた。簡単に説明すると老夫婦の間に何故かタニシが産まれたが、そのタニシは馬を巧みに操るスキルを持ってたので大活躍。

 最終的にはタニシは人間にもなれてハッピーエンド。


 その田螺長者の話に裏付けされたスキルを、職業としてのタニシは行使することが出来るようだ。

 要するにタニシは馬を始め各種の動物を自在に操れるテイマー。


 動物を操れるかどうかのテストも既に行っていて、レベルが若干上の野生動物や魔獣ならば問題なく操れることが判明している。ああああは自我が創発した段階でレベルは1に過ぎなかったが、今は魔獣などを誘き寄せて、スキルで同士討ちさせることで、レベル15まで成長。

 タニシのスキルは武器がなくても、レベリングには便利だった。


 オツベルの元へ偵察に送っていた鳥たちが帰ってきた。

 タニシは操っている動物なら、会話をすることさえ可能なようだ。言語的には鳥の鳴き声が、頭の中で日本語に変換される仕組み。鳥たちはチュンチュンと一通り説明すると餌をおねだりする。

 現実なら理不尽な話なのだろうけど、ここはゲームだから問題ないのだろう。


 「ふむ、なるほどね。あのマリアとか言う女の子は、また余計なことを言って殴られてんのか。我が強すぎる女は好みじゃないし、そもそも俺は男の方が好きなんだけどなぁ……」

 「チュンチュン、あの人間の若いメスは凄く頬が腫れていた。リスみたいに」


 ミミズをお礼として鳥に与えると、貪るようにそれをつつき出す。ちなみにミミズは小さいものでも、モンスターとして表示されている。正式名称はアースワームと言うらしい。


 「チュンチュンwwwアースワームうめぇwwwww噛むと土臭い肉汁がドプっと口の中に広がり、飲み込むと胃の中でも暴れるから、捕食したという満足感が半端ねぇwwww」

 「チュンwwww泥臭さと土臭さのハーモニーがうめぇwww」


 鳥は何というか、もっとロマンチックな会話をしてると、俺のメインプレイヤーだったパトリ緒は、小学生のときから夢想していたそうな。ただその幻想は脆くも打ち砕かれている。

 これはパトリ緒には黙っていた方がいいだろうなぁ。

 現実はいつだって俺たちを困惑させる。


 そんなことをしてると次の偵察に行った鳥が返ってきた。

 鳥は軍馬が繋がれている位置、敵が所有してる武器、細かい地形やマリアと敵の位置関係、などを調べてきてくれた。お礼にミミズを多めに与えておく。

 

 田螺長者の御伽噺では、観音様のご利益をタニシは受けたという描写があるせいか、タニシは聖女と同じく神聖魔法の一部が使えるようだ。

 なので作戦としては、まず神聖魔法で敵の注意を逸らしてから、馬を奪ってマリアをと一緒に逃げるという腹積もり。

 ただ俺は対プレイヤー戦は初めてなので、結局は出たとこ勝負なのは否めない。


 現状で分かってる不安要素は、相手がチートツールを持っていること、なぜか俺の位置がかなりの精度でバレていること、そのため長く停止すると追跡者に追いつかれること、テイマースキルを追跡を振り切るのに使うのでSPの消費が早いこと、などが上げられる。


 「死亡したら俺みたいなAIでもプレイヤーみたいに、ホームポイントに帰還して死を回避できるだろうか……。ゲームのヘルプを読んだけど、自我を持ったAIについては何も書いてなかった。でもこのまま女の子を見過ごしたりしたら、ドロシーやパトリ緒に恰好つかねぇしなぁ」


 気合を入れるために自らの両頬に平手打ち。

 もうすぐ夜が来る。

 

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