『純白』とこれから
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「ミリア、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
建物の2階から集落の外を眺めているミリアに背後から声をかける。
ミリアはオレが服を縫い始めるぐらいからここで外を眺めていた。つい一昨日あのようなことがあったのだ。無気力にでもなってしまっているのだろうか、やっぱり触れない方がいい、と聞かない派のオレに後ろ髪を引かれる。
「なあに?」
ミリアが笑顔で振り向く。何で気づけなかったのだろうか。これ程に無理をした笑顔は初めて見た。それ程悲しい笑顔だった。今にも決壊しそうで、今にも泣き出しそうなのを隠して──
「その…聞きにくいんだけど…一昨日何があっ」
「私を見捨てないで下さい!置いていかないでください!奴隷でも何でもいいから!私を1人にしないでっ!置いて行か…行かないで…うぅ…ヒグッ…見捨て…ないでぇ…」
オレは何も言えずに固まった。そりゃそうだ、ついさっきまで、笑顔だった少女が意図しない一言で突然泣き叫びながら縋り付いて来たのだから。驚かない方がおかしいだろう。
「…よくわからないけど、見捨てないよ。オレがいるから、落ち着いて」
思いつく限りの言葉、それを聞かせた。…変な気分だな。
腹部にしがみつき、オレの胸に顔をうずめて嗚咽するミリアの頭を優しく撫でる。何故突然泣きつかれたのかは全くわからないが、こういう時は安心させてあげた方がいいはずだ。
ミリアはそのまま嗚咽しながら十数分動かなかった。オレはその間ただ、優しくその頭を撫で続けた。
「…突然慌ててごめんなさい」
「うん、気にしないで。…それで、何があったか聞かせてくれる?」
ミリアが落ち着いて、その上で数分。オレたちはテーブルに向かい合い、ミリアはその狼耳をへたらせ体勢も前屈みになり、泣いていた事が一目でわかるような表情で少しずつ語り出した。
「見たらわかると思うけど…私『純白』なの…村のみんなは優しかったから私を隠して育ててくれて…でも、見つかっちゃって、あの人たちが私を攫いに来て…それで…」
「ごめん。純白って何?」
「え?」
ミリアがあり得ないといった表情でこちらを見つめている。やめて、痛い。
異世界から来たと言おうか、遠くから来たと言おうか。
今は遠くからでいいか。
「えっと、オレ凄く遠くのど田舎から来てて、常識とかあんま知らないんだ。だから、その純白っていうのも知らなくてね…」
「そ、そうなんだ…『純白』っていうのはね…」
ミリアの話を要約するとこうだった。
この世界には『純白』と呼ばれる、特性をもつ子供が産まれる事があるらしい。
人型の生き物だけでなく、どんな動物にもいるらしく、特徴として髪や肌、瞳に体毛、耳や尻尾など全てが美しい白色であり、必ず1つ以上ユニークスキルを持っている。後は優れた容姿をもつ事が多いのだそうだ。
産まれる事は稀であり、希少価値が高い。
そしてミリアは『純白』であった。
当然その価値は高く、外部に見つかれば攫われたりする可能性が高い。
そのためこの村の人達は頑張ってミリアを隠したのだが──
どこからかミリアのことが漏れており、人攫いの奇襲を受け、皆殺しに会った。
そしてそこにオレが来て攫われる直前のところを助けた。
先程ミリアがオレに泣きついて来たのは自分のせいで村のみんなは死んだ、そしてオレにそれを知られればオレはミリアを置いて行くかもしれない、そう考えたのだろう。
ずっと笑顔だったのも、密着して来たりしたのもそれが理由だろう。
「…成る程…」
やはり異世界というのは無情なものなのだろうか。こちらの世界でもアルビノは一部地域では似たような境遇だと何処かで聞いたことがある。
異世界の治安はその一部地域、もしくはそれよりも悪いのだろうか。
そんな風にしてまだ見ぬ異世界の事情を考えていると、暗い顔をしていたのだろうか。
「わ、私も連れて行って下さい!荷物持ちでも奴隷でも何でもしますから!捨てないで下さい!」
ミリアが悲痛な叫びと共にテーブルから乗り出す。
「さっきも言ったけど、置いて行く訳ないし荷物持ちですらさせられるわけないよ。これからどうするかはまだ考えて無いけど、オレはミリアと一緒にいるよ」
オレはミリアと共に生きると心に決めていた。オレが異世界で初めて出会って、初めて助けた人で、オレしかいないからでもオレを頼ってくれているのだ。ついでに言うと凄く可愛い。『純白』は優れた容姿をもつって多分本当だろうな。
だから、オレがミリアを置いて行くなど、考えられなかった。
決して口にはしないが、オレと出会えたのはミリアにとって幸運だっただろう。違う誰かなら置いて行くかもしれないし先ず助けなかった可能性が高い。
最もオレがあの時冷静だったら村にはいる前に引き返していたと思うが──
「ありがとうございます…早とちりしてごめんなさい」
ミリアが少し顔を赤くして椅子に座り直す。狼耳がピクピクしている。
にしても、オレはここまで冷静を貫ける人間だっただろうか。INTが高いと云々と何かで読んだ気もするがレベル65相当程度のINTでそこまで効果があるのかと言われれば微妙なところだしまず世界が違う。
もしかするとだが、一昨日の戦いでオレは想像以上に成長していたのかもしれない。だとすれば自分の事として嬉しいが、何かを失った気がしてどうにも受け入れ難い。
…いや、こんなことで悩んでいるのは確かにオレだ。それに今はもっと有意義なことを考えよう。
「それじゃぁ…これからの事を考えよう」
オレは肘を置き両の掌を組み、ミリアに微笑みかけた。