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純白の少女と初戦闘

過激な表現が含まれています

すみません

「ハァ…ハァ…つ、疲れた…足の裏…痛~…」


慣れない事はするものじゃない。普段から運動といえば、授業以外全くと言っていい程しなかったオレは、結構ゆっくり走ったのにもかかわらず体力を使い果たしてしまった。

日々の運動不足で弱った自分を甘く見ていたか、1kmを甘く見ていたか…両方だろうなぁ。

それ+靴を履いていないため結構な頻度で痛い。

木などで見えないが、木々の隙間から空を見た感じ火の元はすぐそこだ。

ただ、騒ぎはもう収まっているようで結構静かだ。鎮火出来たのだろうか。


「ふぅ…優しい人たちだといいな、迎え入れてくれるといいな」


呼吸を整えて希望を口にし、木々の間を抜け開けた場所へと出る。

出来る事なら暫くお世話に、あわよくば定住。

そんなオレの甘い考えは一瞬で消し飛んだ。


「う、うわぁぁぁぁぁぁ!?し、死体!?な、なんで!?」


かつてないほどに驚き慌て、後ろの木まで後ずさりへたりこむ。

目の前には首を落とされた死体が転がっていた。

近くに転がる首は生気と言う言葉とは無縁な虚ろな目をこちらに向けている。そこまでグロテスクではないのが唯一の救いだ。

死体なぞ初めて見た。平和ボケしていると言われる程安全な日本で何の危険もなく15年間生きてきたのだから当然と言えば当然だろう。

深呼吸しようにもうるさい心臓が邪魔をする。

恐怖のために、目尻に涙が溜まり今にもこぼれ落ちそうだ。

それでも、1分丸々を要して何とか心を落ち着ける。

また死体を見る、いや、それどころか驚かされるだけで即座に決壊しそうな状態ではあるが、首を落とされた死体など現実離れしすぎていて実感がなかったのが唯一の救いだ。

そして、恐る恐る死体を観察する。

死体の腰のあたりには獣の尻尾のようなものがついており、もしたと頭に視線を向けるとそこには狼の耳が生えていた。


「じゅ、獣人…?だ、だから森の中にこんな集落が…い、いきてる人を助けないと」


オレはフラフラとした、今にも転けてしまいそうな姿勢で死体の後ろにあったインディアンを思わせる木の門を下をくぐり集落へと足を踏み入れる。


オレは混乱していたんだと思う。自分の身の安全を考えるならここを諦めて今来た道を引き返すなりすればよかったのだ。

でも、この時のオレはいるかもわからない生存者を助ける事しか考えてなかった。そんな力も知識も無いのに、


門をくぐった先は凄惨なものだった。

生きていた獣人だったと思われる死体が幾つも無造作に転がされ、建物は燃え体感した事もない高温を発していた。

オレはそんな風景を見た瞬間耐え切れずに戻した。

ラノベでこんな風景描写を何度も読んだ気がするが、実際に目にするのと描写を読むのではこうも違うのかと思い知った。

なぜあの主人公たちはああも勇敢に進めるのか。

オレの足は情けなく震え、時折嗚咽が漏れる。

助けてくれ、と初めて思った。

それでも、オレは死体の1つが握っていた小ぶりな片手剣を手にして進む。大きいのは重くてもてなかった。

誰か生きていてくれ、誰か生きているはずだ、オレはそう、楽観的に考えながら足を無理矢理前へと動かした。




<ユニークスキル『抵抗者』『救援者』『生存者」を手に入れた>


彼自身が気づかぬ間に、ステータスに通知欄という欄が一時的に追加され、そんな1文が追加された。





「ぁ…生きてる人だ…」


生存者を見つけたのは凄惨な現場を見て1分経ったぐらいだった。

身体的ダメージは0だというのにオレの体はフラフラで立っているのも辛かった。


その生存者は可憐な少女だった。

純白の美しい狼の耳と同じく純白で美しい尻尾。撫でられたらどれほど心地よいだろうか。後ろに流れた長髪も純白で、しつこいようだが美しい。体つきは華奢で身長はオレよりも随分と低い。

その純白の少女は「いやっ…!」と呟きながら何かに怯えるように後ずさっていた。目尻には怯えの涙が浮かび、足取りもおぼついていない。オレと言い勝負だ。


オレはすぐに駆け寄ろうとしたが足がすくむ。少女が怯えている何かが怖かった。

‘何か'はすぐに姿を表した。野蛮そうな男だった。腰を少し屈め少女を捕まえようと距離を詰めて行く。

その時、少女が何かにつまづいたのか、転けた。

男がその細い腕を乱暴に掴み、下卑た笑みを浮かべる。

それを見た瞬間、オレは走り出していた。

すくんでいた脚が動き、握った事もない片手剣を両手で振り上げる。


<スキル『片手剣』を手に入れた>


通知欄に新たな文が追加される。


オレはその剣を男へと振り下ろす。男は少女の腕を離してオレのよりも大きな剣を構え、オレの剣を受け止める。


<スキル『片手剣』のレベルが2になった>


また通知欄に文が追加される。


男はオレの剣を重そうに弾く。

オレはラノベで読んだように、弾かれるのに合わせる様に後ろへ1m程跳び、数歩フラフラと後退り距離をとる。


<スキル『跳躍』を手に入れた>


「襲撃だ!ただのガキだが1人手伝ってくれ!」


剣を構え直した男が叫ぶ。


仲間を呼ばれてしまった。来る前にこいつだけでも仕留めないと。

オレは走り、男を剣の当たる範囲に収めようとする。

男はそれを見て剣を上から下へと振り下ろす。

怖い。迫り来る刃が怖い。オレはそれを逃げるように躱す。ほおが少し切れてしまい鋭い痛みが脳天を貫く。


<スキル『疾走』『回避』を手に入れた>


頬の熱に意識を向けないようにし、男が剣を戻すのより先に男の手首を切りつける。

男の手首は意外にも簡単に切り落とされ、男が悲鳴をあげる。

だが、オレは男にとどめをさせない。


平和ボケした日本人筆頭に人を殺す度胸はなかった。

腕を抑えてこちらを睨む男ですら怖く、足がすくむ。

男が剣を持ち替えて叫びながら切りかかってくる。

初心者目でもさっきより拙いとわかるその剣筋をオレは躱し、その腕も切りつける。

今度は切り落とさないように浅く。

狙い通り手首をプラプラさせることに成功し、オレは男を蹴って倒す。

男は呻いているが起き上がっては来なかった。


<スキル『片手剣』のレベルが3になった>


倒した。そう認識した瞬間オレはしゃがみ込み、また戻した。

人に怪我をさせてしまった。死んではいないようだが、重傷を負わせてしまった。


「こいつは悪人悪人悪人…悪人だから…あ、悪人だ、だから…」


何度も相手が悪いと口にし気分を紛らわせようとするが、一行に吐き気は収まらない。

俺の顔は涙や鼻水でぐちょぐちょに汚れ、声も聞き取れないほど震えていた。

そんな中、槍を持つ男が現れ驚愕の表情を浮かべる。


「こ、このガキ!みんな来てくれ!1人やられちまってる!」


次の男がそう叫び、槍をオレへと突き出す。

躱さないと。そう思うが体が動かない。

殺られる。そう思った瞬間、拳大の石が男の頭に当たり男が横に倒れる。


石が飛んできた方向をみると、純白の少女が泣きながら怒りながら石を投げた姿勢で立っていた。


オレは少女のその姿に何かを感じた。

オレは立ち上がると起き上がりつつある男の両手首と足を順番に切りつけ、最後に槍を奪って関節に突き刺す。

我ながら良くこんなことができるものだ。女の子の涙は最強と誰かが言っていた気がする。


<スキル『槍』を手に入れた>


「こんなことをやるクソガキは初めて見たぜ…俺様直々に殺ってやる」


先程までの男達とは違った雰囲気を持つ男──リーダーだろうか──が怒りを露わに双剣を持って切りかかってくる。

オレは1人目の男の剣を拾って迎え撃つ。

さっき持てなかった剣よりも大きいが、何故か今なら持てるとおもった。


<スキル『双剣』を手に入れた>


今日初めて使う剣なのに何故か振るえる。

使い方が分かるのだ。

だが、相手の方が強い。

時に躱し、時にかすりながら打ち合う。


<スキル『回避』のレベルが3になった>


<スキル『双剣』のレベルが3になった>


やっと実力が拮抗した。

オレの刃も届かないし、相手の刃もオレに届かない。

だが、もう少しで届く。


「お、お前は何なんだよ!何でこんなにすぐにッ!」


男の苛立たしげで焦った声が聞こえるが知ったことではなかった。

オレはあの少女を助けるために剣を振るった。名も知らない少女を助けたい。理由なんてなかった。ただ、そうしなければならないと思ったのだ。


<スキル『双剣』のレベルが4になった>


オレの剣が男の隙をつくようになった。届かなかった刃が男の頬を切り裂き、男が少しずつ、少しずつオレに押されてゆく。

そのまま十数分打ち合った。

途中でまたオレと男の差が大きくなり男の疲労の色が濃くなる。


敗北を感じたのか、男は何度も逃げの為の一手を講じてくるが、逃がさない。

他のやつが手を出そうと隙を伺っているがそんな隙は見せない。

体力は不思議と尽きない。オレの体力ってこんなに多かったっけ──


<スキル『双剣』のレベルが6になった>


決着がついた。

オレの剣は男の首を跳ね飛ばす。

勝ったのに、殺したのに、何も感じない。

オレが男の首を跳ね飛ばしたのを見るや否や、戦いに混ざれずに見ていた他の男たちが何やら口々に叫びながら襲いかかってくる。

それは、とても、遅く見えた。




オレは握っていた赤く濡れた剣両方をその手から落とし、血溜まりに膝と手を付く。

息が荒い。気分が悪い。両手が、両足が、頭が、全身が重たい。

初めて握った剣で、初めて振るった剣で。10人以上と戦い、殺したというのに大怪我1つなく五体満足でいる。

殺した事に何も感じていない。

誰かがたどたどしい歩調で歩み寄って来る。オレは顔を上げて、こちらを心配そうに見下ろす少女に情けなく、しかしながら満足した笑顔を向けた。



そこからの記憶がない。


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