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黒金記 - Revenge of the Sunset  作者: 富士見永人
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「あっ」

 宮美が恐怖に顔を歪め短く声を()らしたが、叫んだりすることはなく、身を低くし、侵入者の男に肩を貸し、きょろきょろと周囲を見回していた。

 村正は確信した。やはりこの女、白金機関のスパイとつながってやがったな。これで堂々とヘリオスに背いた裏切り者を〈処分〉できる。

「だ、大丈夫ですか」

「かすり(きず)さ」

 男は宮美の手前強がっているようだが、撃たれた脚を引きずっている。村正は口角を大きく吊りあげた。あれでは村正はおろか、ヤクザたちの追跡を逃れることも難しいだろう。

『村正。屋敷の外を巡回する不審な車を発見した。これより追跡する』無線機からクローディアの声が聞こえてきた。

「了解。こっちは宮美嬢ごと侵入者に追いこみをかけるとこだ」

 村正はAKMSカービンを構えつつ、敵に接近した。

「見いつけたあ」

「友達かい。……ああ、そういえばいたね。そんな人」ヒデルは耳に手をあて、おそらくは無線機の向こう側の仲間と通話していた。村正の顔と名前は白金機関のブラックリストに載っていることだろう。何せあの白金ヒヅルに傷を負わせた危険分子だ。「今となってはヤクザの用心棒、か。それとも」

「あー。勘違いすんな。俺は今回助っ人としてここに派遣されただけだ。ここの破落戸(ごろつき)どもとは何の関係もねえ」村正は(かぶり)を振り、ヒデルの台詞を遮って言った。そして品定めするような眼つきでヒデルを()め回し、裂けたように大きく口を開けてげらげらと哄笑(こうしょう)した。「てめえ。あのババアに似てやがるな。白金のクソババアに。もやしのようにまっ白ちろくて細っけえ。……〈人工全能〉か。だがせいぜい頭がよくて体力があるだけの、人間にすぎねえ。こうやって銃で撃てばぶっ壊れるのは、俺たち人間とおんなじだ。ああ、言っとくが、今のはわざと足を狙ってやったんだぜ。一発であっさり死なれちゃ俺としてもつまんねえからなア」

 ぶううん。

 突如屋敷内から蜂やゴキブリが隊列を組み、まるでひとつの生命体のごとく完璧に統制のとれた動きで、村正に襲いかかってきた。白金機関のドローン兵器だ。

 村正はすかさずポケットの中に仕込んでおいた、ある装置のリモコンを操作した。

 ばたばたばた。かちゃかちゃかちゃ。

 白金機関の虫ドローンが、あっけなく、ひとつ残らず、地上に落下した。

「ぎゃははは。こいつはすげえ。〈姉御〉の言ったとおりの超兵器だぜ。ゴキジェットなんざ眼じゃねえ。もし効かなかったら今ごろ俺様死んでたぜえ。笑いが止まんねえー。ぶひゃひゃひゃ」

「どうしたアルマ。何が起きた」ヒデルが幾分鋭い声で言った。先ほどまでの澄まし顔とはうってかわって焦りの色が見え始めている。

 そして先ほどの銃声と村正の笑い声のせいで屋敷内の組員たちが眼醒め、トカレフマカロフAKと物々しい装備で庭へと躍り出てきた。

「ドローンガンって知ってるかあ? ドローン用の電波を打ち消す妨害電波を飛ばして操縦不能にする新兵器だ。今使ったのは屋敷全体のドローンを無力化できるちと特殊なやつでな。俺が造らせた」

 村正は得意げにそう語ると、ヒデルの頭にAKMSの銃口を向けた。

「このままてめえをぶっ殺してやってもいい。が、俺も鬼じゃねえ。俺の雇い主は、てめえの腕を買ってる。ヘリオスに忠誠を誓うなら、生かしてやってもいいとよ」

 そう。村正の雇い主――秘密結社ヘリオスの〈姉御〉こと高神麗那(たかがみれいな)の表の顔は、国家保安委員会情報総局局長。彼女は白金機関に入る前のヒデルを捕らえ、ヘリオスに招き入れようとしたことがある。〈人工全能〉はヘリオスに牙を剥く危険因子と見做され、見つけ次第捕獲し、拷問した挙げ句抹殺されるのが通例だが、かつてヒヅルを育てあげた高神は〈人工全能〉の驚異的な能力を利用したいと考えており、自分には〈彼ら〉を管理しきれると自負しているようだった。結局白金ヒヅルの差金によって白金機関に渡ってしまったが、高神はまだ彼を諦めていないようだった。村正にはなぜ彼女が白金ヒデルもとい〈人工全能〉に執着するのかが、いまひとつわからなかった。そして思った。俺の方が優秀だ。現に俺は今こうしてこのもやし野郎の生殺与奪を握っている。

(いや)だと言ったら?」ヒデルは村正を上眼で睨み、低い声で言った。

「聞くまでもねえだろ」村正はAKMSの引金に指をかけた。

「やめてください。私が戻ればいいんでしょう」宮美が叫んだ。

 だが、村正はそんな宮美の主張を一笑、そして一蹴した。

「馬鹿かてめえは。戦場で敵に銃を向けた以上、生殺与奪の決定権は勝者にある。つまりここでは俺が法律だ」

 村正はヒデルに視線を戻し、最後通牒(さいごつうちょう)を言い渡した。

「三つ数える。その間に選べ。俺と来るか、それとも死ぬか」

 勝ち誇ったような笑みとともに開始される、死へのカウントダウン。

「いーち、にーい……」


 ぞわり。


 身の毛がよだつ尋常でない殺気を感じた村正は、本能的にすばやく身を伏せた。

 直後ヒデルたちを取り囲むように棒立ちになっていたヤクザたち六、七人の胸や腹、背中などが突如大きく引き裂かれ、血や臓物が辺りに飛散、一瞬で地獄絵図と化した。

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