イケメンな庭師のアニキ①
「オムライス美味かったなぁ…… 共食いだったけど」
私とベルンは昼食を食べ終え、屋敷の廊下を歩いていたら庭から枝切り鋏を使う音がした。
「ジャックが仕事してるのかな?」
そういえばベルンはジャックに会った事があるんだろうか?
「ああ、あの兄ちゃんジャックっていうのか」
どうやら会ったことはあるみたいだ。
やっぱりジャックの印象は兄ちゃん系だよね、金髪とか右耳のピアスのあたりが。
「あの兄ちゃんは良い奴だ。 さっき煮干もらったけど、すごく美味かった」
煮干……? 何に使うんだ?
いや、それ以上にあのアニキ気質の人が煮干しか……
ギャップ萌えだな、うん。
「庭に行ってみようか、暇だし」
庭への扉を開けると、花の匂いが広がった。
チューリップやバラなどよく目にする花もあれば、見たこともない花が庭一面に咲いている。
「綺麗……」
こんな庭は1度も見たことがないし、あるとも思っていなかった。
「おお、お嬢ちゃんと狼くん」
庭の中央にある噴水の向こうから右耳のピアスを光らせながらジャックが手を振っている。
……アニキだ。
「ジャックの兄ちゃん、食べられる花ってあるか?」
ジャックの所まで来て第一声がそれかよ、さっきオムライス食べたじゃん……
それに流石に食べられる花なんて物は--
「これ食べるか?」
あるの!?
この庭は非常食を作ってたの!?
「やった! 煮干し!」
煮干しかい! 食べられる花とかじゃなくて魚かよ!
しかもベルンは狼の耳と尻尾が出てしまっていて、尻尾は振る勢いが強すぎてブンブン鳴っている。
「どうして煮干しを持っているの?」
まさか煮干しを食べながら仕事をしているなんて事は無いよね……?
「ああ、肥料に使っているんだよ。 お嬢ちゃんも食うかい?」
へぇ、煮干しって肥料になるんだ……
ごめんなさいジャック、その肥料をベルンがたった今食べきりました……
「狼くんはよく食べるなぁ、もっと身体が大きくなるな!」
仕事に使う煮干しを平らげられたのにニコニコとしている…… 神か、神なのか!?
「どれ、もう少し持ってきてやるよ。 ちと待っててな」
ジャックは庭の奥の方にある倉庫まで煮干しを取りに行った。
--神だ。
「この煮干し美味いぞ、カナデも食ってみろよ」
ベルンは口元に煮干しのカスを付けて満面の笑みを浮かべている。
--耳と尻尾はまだ出ている。
「悪いな狼くん、それが最後の1袋だったみたいだ」
何!? ベルンめ、よくもアニキの仕事道具を……!
待てよ? これはチャンスじゃないか?
「じゃあ一緒に街に買いに行こうよ!」
ワンピースを着た時にデートしたいと言っていたし、ぶっちゃけアニキと出かけたい!
「何だお嬢ちゃん、デートの話覚えてたのか」
ジャックはニコニコとしている。
いや、彼が笑顔を絶やしたことを見たことがない。 でもこういう人は怒ると怖そうなんだよなぁ……
「お嬢ちゃんが俺が良いってんなら行ってやるけど、どうだい?」
そんなの決まってるじゃないですかアニキ!
「うん、ジャックが良い! だから街に行こう?」
そう言ったらジャックの笑顔が少し引きつった。 何かいけない事を言っただろうか?
「街って…… 1番近い街かい? あそこは治安が悪いからやめておいた方がいいぜ?」
……?
ジャックと街に行けるならどこでも良いのだけれど…
「ジャックと一緒に行けるならどこの街でも良いよ?」
はい来た。 これぞ模範解答。
こう言われたらジャックも断れまい!
「嬉しい事を言ってくれるねお嬢ちゃん。 じゃあここら辺で1番大きな港町に行くか」
港町!? 行ったことがないからすごく楽しみだ!
じゃあショタ君に何か買う物がないか聞いてこなければ!
「うん、じゃあ10分後にここで集合ね!」
「おう」
ジャックは自室に、私はショタ君に買ってきて欲しい物を聞くためにダイニングへ向かった。
「港町に行くんだけど、何か買ってきて欲しい物ってある?」
ショタ君はオムライスを乗せていたお皿を洗い終えたところだったようで、丁度キッチンから出てきた。
「うーん、じゃあカレイを買ってきて欲しいです。 あとムール貝もありましたら嬉しいです」
オシャレな素材しか言わないなこの子は……
カレイは煮付けかな? ムール貝は食べた事がないから分からない。
「買ってきて欲しい物をまとめたメモです、これを見て買ってきていただけると助かります!」
メモには歯磨き粉や洗濯用洗剤なども書かれていて、ショタ君の優しさが溢れるメモだった。
「ダンテさんとカノンさんが足りないと仰っていたので!」
ああ、アイツらか……
でもショタ君の頼みなら仕方ない、買ってきてあげよう……
「分かった、買ってくるね!」
そう言いダイニングから出るとショタ君は手を振ってくれた。 可愛さが溢れている……
そんなこんなで集合の約束をしてから10分が経過し、ベルンは満腹になったのか犬小屋で眠っていた。
「悪いなお嬢ちゃん、待ったかい?」
噴水の前で待っているとジャックの声がしたので、声のした方を向くと--
「まっ、待ってないよ!」
普段の短い前髪をほぼオールバックにしていて、赤いパーカーの上にデニムジャケット。 下は黒いダメージジーンズを履いている。
元からイケメンだったけれど、作業着から着替えるとさらにイケメンだ……!
「お嬢ちゃん、顔が赤いけど大丈夫かい?」
ジャック、私に今の貴方のお顔を近づけないで下さい!
「だ、大丈夫! カッコイイなと思っただけ……」
思わず本心を口にしてしまった。
しかしそれほどカッコイイんだ、仕方ない!
「ハハッ、お嬢ちゃんに言われると照れちまうな。 さ、車に乗ろうか」
車……? 運転出来るのだろうか
--はい!?
「俺の愛車、カッコイイだろ?」
待ってください、それ高級外車ですよね!?
車に疎い私ですら知ってますよ!?
「さぁ、行こうか」
ジャックは助手席のドアを開け、私を座らせた後に運転席に乗り込み、車を運転し始めた。
何なのこのアニキ……