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優秀なオオカミ男③

 オオカミ男のベルンが家に来たは良いものの、彼に対しての問題が山積みだった。


「なぁ、俺は人間で飯を食べるのか? それとも狼で、外で1人で食べるのか?」


 --確かにどうするんだろう。 でも今までは狼で食事を取っていたんだろうから、外?

 ショタ君はドッグフードを作れるんだろうか。 いや、ドッグフード?


 私の脳内は1匹のオオカミ男の食事について考えているだけなのに爆発しそうだった。


「えっと、ドッグフード食べられる?」


 ベルンは何を言ってるんだと言いたげな顔をした。

 そうだよね、狼なんだからウルフフードだよね! いやいや、そんな物聞いたことないし!


「肉食いたい」


 あっ、ああ、肉ね! そうだよね!

 肉って生で良いのかな…?


「カナデが食べるのと同じ肉を、同じ場所で食べたい」


 おっと、私を落とそうとしているのかな?

 私はそういうセリフは恋愛ゲームで慣れているんだよ! 残念だったなぁ!


「分かった、料理長に聞いてくるね!」


 何ともないふうに私はダイニングへと向かう。

 待ってろショタ君、今行くよ!




「ねぇ、生肉って余ってない?」


 ショタはダイニングに隣接しているキッチンにいて、食材を眺めて唸っていた。

 メニューを決めかねているんだろう、とても可愛らしかった。


「生肉ですか? 人間が食べるにはお勧めしませんが……」


 私の体調を気遣ってくれるなんて…… 天使か!


「えっと、今日から飼うオオカミ男が食べたいって言ってて、あるかなと思って」


 無いと言われたら狩りに行かせればいい、ベルンは狼だからそれくらい出来るはずだ。


「今日は魚がメインなので…… 申し訳ないです」


 よしベルン、狩りに行ってこい。 ショタ君の手を煩わせるな!


「魚で良ければご用意出来ますが、どうしましょうか。 聞いてきて頂けませんか?」


 ショタ君にそう言われたら聞きに行くしかないでしょ、行きます。 行かせていただきます!


「聞いてくるね!」


 私がキッチンからダイニングへ行き、廊下に繋がっている扉を開けると何かにぶつかった。


「痛っ!」

「おっと、大丈夫かカナデ?」


 ベルン! しかも人間バージョン!

 勝手に入って来たのはアレだけど、キチンと約束は守っているみたいだ。


「うん。 あのね、今日は魚がメインらしいんだけど、魚でも良い?」


 私はベルンに鼻をぶつけたので、鼻を右手で抑えながらそう聞いた。


「お前が魚を食べるなら俺も魚を食べる」


 狼って魚食べられるんだ……

 いや、食べないと思っていたのは私の偏見か。


「かしこまりました!」


 キッチンからショタ君が顔を出していた。 可愛い……

 まあ彼の手を煩わせなくて良かった。


「カナデ、お前の部屋はどこにある?」


 突然だな……

 それにベルンよ、そんな事を聞いてどうすると言うんだい? まあ教えておいて損は無い…… かな?


「あっちよ、行きましょう?」


 無いと思うけれど誰かが私を誘拐しに来た時とかにすぐに助けに来てくれそうだし、特別に教えてやろう!




「綺麗だな、家の中」


 ベルンは生まれてから人に飼われたことが無いんだろうか……?

 まあオオカミ男なんて普通なら飼わないか。


「そうだよね、絵本の中に出てきそう」


 お金持ちの人が持つ別荘…… よりはかなり豪華な屋敷だと思う。

  それに辺りは森ばかりだけど立地もかなり良いはずだ。




「ここが私の部屋、入る?」


 そう聞くとベルンは目をキラキラさせた。

 部屋-- いや、誰かが住む屋敷に入るのが初めてなんだろう。


「入ってもいいのか?」


 狼の姿だったらすごい勢いで尻尾を振っている気がする。 そう想像したらベルンが可愛く見えた。


「うん、どうぞ」


 私が部屋の扉を開けた途端、ベルンが扉を抑えた。


「どうしたの…?」


 ベルンは私と位置を無理やり交換するとニコリと笑いかけた。


「レディファースト」


 このオオカミ男、なかなかやるな……!

 ダメ男に見えるけれどやれば出来るタイプの男だ!


「ありがとうベルン」


 私はベルンの言葉に甘えて先に部屋に入った。

 しかし、ベルンがその後に入ると部屋の鍵を何の躊躇もなく閉めた!


「な、何で鍵を閉めたの……?」


 嫌な予感がする、助けてダンテ……!

 お前がやった事をコイツもやろうとしてるぞ……!


「カナデ、今オオカミ男の数が減ってきているんだ。 俺を含めて、世界中でざっと30匹くらいでさ……」


 ベルンは悲しげな表情を浮かべ、私をベッドに押し倒した。

 私はその表情を見たら抵抗しようにも出来なかった……


「だから、な?」


 ベルンは私の頬に小さくキスをした。


「俺達、狼の種族の繁栄の為に協力して欲しい……」


 ベルンの顔を見ると、彼は泣きかけていた。

 世界で自分の仲間が30匹しかいないなんて、そんな悲しい状況下の中にこの子はいたんだ--


「泣かないで?」


 私は私に覆いかぶさるベルンの頭を撫でた。

 今の私に出来る最善のことは、ベルンを泣かさないようにする事だ。


「カナデ……」


 ベルンの目から涙がこぼれ、私の顔に落ちる。

 自身の種族が絶滅危惧種になっている状況に置かれ、きっと彼は自分の仲間が殺される所を沢山見てきたんだろう……


 人間の勝手なエゴのせいで、狼だからというりゅうで仲間が殺されていく。

 そんな環境、私なら耐えられない。


「泣き止むまでここにいるから、大丈夫」


 私は上半身を起こし、泣き続けるベルンを抱き締めた。




 しばらくベルンは泣き続け、泣き止むと同時に泣き疲れて私のベッドの上で眠ってしまった。


 私にはもう夕食の事なんて頭に無かった。

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