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主人公のお嬢様④

「舞踏会はどうだった?」


 踊り終わり、屋敷へ帰ろうとしたところにアイルお嬢様がやって来た。


「ええ、とっても楽しかったわ。 誘ってくれてありがとう」


 色々とあったけれど、来て良かったとは思う。

 --この女にそれほど会わなかったのも良かった。


「あらそう。 私が勧めた方々と踊れたかしら?」


 勧めた方々か、記憶がそんなに無いんだけどなぁ……

 そんな事よりも格段に楽しい出来事があったし。


「いいえ、同行者と踊ったのよ」


 後ろを振り返り、皆の顔を見る。

 種族はバラバラなのに、曇った表情をしている人なんていない。


「そ、でもこれだけは覚えておきなさい」


 アイルお嬢様はそう呟いて、そっと私に耳打ちをした--


「この物語の主人公は私よ」


「そして貴方は悪役令嬢。 つまり貴方にハッピーエンドなんて訪れないのよ」


「貴方は最後は同行者達に裏切られ、一人で死んでいく運命なのよ」


 アイルお嬢様が淡々と耳元で語る。

 同行者達に聞かれていないといいけれど……


「さて、私は帰るわね! さようならダンテ様、ジャック様、ベルン様!」


 アイルお嬢様が乗った車が遠のいていく。

 --あのゲス女は本当に主人公なの? 性格悪過ぎるでしょ!


「お嬢様、私達も帰りましょう」


 ダンテがポンと私の左肩に手を置いた。

 言われなくても帰りますって。


「さて、まずはお風呂の支度を致しますかね」


 カノンが私の肩に置かれたダンテの手を涼し気な顔をして振り払った。

 ……いいぞ、もっとやれ。


「じゃあ車を取ってくるから待っててねお嬢ちゃん」


 ジャックが小さく手を振り駐車場に向かった。

 車? ジャックの愛車は外国産ですよ?


「あ、僕も行きます!」


 ハータムがジャックの後に続く。

 ……可愛い。


「お嬢様、ここに毛糸が……」


 マンドラゴラが背中に着いていた毛糸を取ってくれた。

 水は大丈夫なんだろうか?


「カナデ、腹減った」


 ベルンは何故かそう言うと狼の姿になった。

 理由は分からん!


「カナデ、今日も泊まっていっていい?」


 リーフは私のドレスを小さく引き始めた。

 こんな可愛い子にお願いされて、断れるわけ無いでしょ!


「ワシもそろそろ森に帰るよ。 楽しかったよカナデさん、またね」


 涼佳さんがお面を懐から取り出し、額に乗せて翼を生やした。

 色が空と同化してて見づらい……


「俺様も帰るぜ。 キツネ、俺様を送れ」


 慎平が隣にいた紅さんを小突く。

 この流れは……


「何言ってるのよ鬼、そんな事する訳ないでしょう?」


 紅さんは慎平に向かってふっと息を吐くと彼の服が少し燃えた。

 私は何も見てません。


「おっ、喧嘩か? 俺も混ぜろ!」


 たまたま屋敷から出てきたアッシュが慎平と紅さんの喧嘩に加わった。

 ……もう知らん! 勝手にやってて!


「カ、カナデさん…… と、止めなくて平気!?」


 マティスさんは半泣きで私にしがみついた。

 まぁ、これは慣れたわ。


 --今この状況で言えることは一つ。


 アイルお嬢様がここにいなくて良かった!




「お嬢様、ハール王子にはお会いになられましたか?」


 ジャックの運転する彼の外車の中で、ダンテが突然私に質問をした。

 ハール王子って…… 推しキャラに似てる人か。


「ううん。 えっ、いたの?」


 凄く失礼な質問をしているのは分かってる。

 でもそんな質問をしてしまうほど気配すら感じなかったのだ。


「はい、目撃情報はございましたが……」


 別に傷ついてはいない。

 だって一回フラれてるからね!


「そう。 ま、大丈夫でしょ。 あんな人の数の中でピンポイントに人を見つけるなんて人間には不可能よ?」


 そう、人間には無理よ。

 烏天狗やドラゴンなら楽だろうけど。


「まぁ、お嬢ちゃんが楽しそうだったから良いじゃねぇか!」


 バックミラー越しにジャックの笑顔が見えた。

 ……惚れるわ。


「そうですね。 それが一番でございます」


 カノンは狼の姿のベルンを膝枕しながら頭を撫でている。

 ベルンのペット感が否めない……


「今晩はぐっすり眠れそうです!」


 ハータムは車の床に足がつかず、パタパタさせている。

 ホントに可愛いなこの子……


「冷房を消して頂けませんか?」


 マンドラゴラがジャックに謎の要求をし、冷房が止まる。

 ……乾燥するからか。


「ごめん、ちょっと眠くなってきちゃった……」


 賑わい始める車内とは裏腹に、私の左肩に頭を乗せて寝ているリーフを見たら段々と眠たくなってきた。


「家に着くまでごゆっくりなさって下さいませ」


 カノンの言葉と共に、私は深い眠りについた。




 家に着いた後はあまり覚えてない。

 疲労と眠気で、きちんと歯を磨いたかさえも記憶が曖昧だ。


「おはようございます。 本日は遅いお目覚めでしたね」


 今朝はカノンの声を朝一番に聞き、いつもの普通じゃない一日が始まる。

 普通じゃない理由? 知ってるでしょ?


「カナデ、ハータムが朝食はシリアルって言ってたぞ」


 オオカミ男や、


「おはようございますお嬢様。 昨晩は依頼が入りましたので、モーニングコールはカノンにお願いしました」


「そうだったんだ、お疲れ様」


「あの…… 血なまぐさければ申して下さい」


 暗殺者を副業にしている執事。


「あら、この虫…… 偵察機かしら?」


 クノイチのメイド。


「皆さん、朝食の準備が出来ましたよ!」


 ドワーフの料理長。


「おお、丁度だったね! マンドラゴラもご飯にしようか」


 元ヤクザの庭師。


「はい。 光合成を手伝って頂き、ありがとうございました」


 無感情のマンドラゴラ。


「あ、私もご飯食べたい!」


 6歳くらいのエルフ。


 他にも烏天狗や鬼、九尾。 ミイラ男からドラゴン達と仲のいい悪役令嬢なんて普通じゃないでしょ?


「じゃあ、皆で食べよう!?」


 そもそも異種族に囲まれて生活してる人なんている訳ないじゃない!


「やぁカナデさん、森でいい匂いがしたから来てしまったんだ。 ワシもご一緒していいかい?」


「おい嫁、旦那様が来てやったぞ?」


「何がだんな様よ。 カナデちゃんは鬼よりも九尾の方を愛してくれているわよ?」


「おいカナデ、新しいパフォーマンス見てくれ!」


「カナデさん、客引きの仕事怖いよぉ……!」


 大橋(おおはし) (かなで)、高校生だった私は--


 悪役令嬢に転生したら異種族にモテ始めた。

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