優秀なオオカミ男②
私とマンドラゴラは約束していた湖への沐浴をしに行った。 すると銀色の毛をした狼が現れて、何やかんやあって私は狼を殴ってしまった!
「痛ぇなぁオイ!」
狼だった男は半歩下がって赤くなった頬を抑えている。 これ殺されちゃうかもしれない!
「お嬢様、良いパンチでした」
マンドラゴラに褒められたけれど今はそれどころじゃない! 下手したら食べられちゃうのに!
「おい飼い主、お前……!」
やっぱり怒ってるよね!?
ああ、推しキャラの水着……
イベントのバーナーをもっと見てからトラックに引かれたかった……
「お前、良い体つきしてるな」
--はい? 身体付き?
この男、今私の身体の事を言ったの?
どうして--
「あっ、ああ、あのっ、これは……!」
私は男を殴ろうと湖から無意識に出ていたようで、気づいたら湖の外に服も着ないで立っていた!
「美味そうだな……」
男はヨダレを垂らしそうにしながら私にゆっくりと近づいてくる!
美味しそうってどっちの意味ですか!?
「お嬢様、もう1回重いパンチを!」
そんな事言うなら貴方がやりなさいよ!
何で世話をしてもらってる人がピンチなのに湖から出ないのよ!
「この異種族どもが!」
私は男にもう1発、強いパンチをお見舞した。
正直今のはマンドラゴラへの怒りを乗せた物だったけれど、男は伸びているようなので結果オーライだ。
「まったくもう、沐浴しに来たのに汗かいちゃった」
マンドラゴラは隣でクスクスと笑っている
普通に可愛い…… タイプだ……
この子が恋愛ゲームの攻略対象なら全部のエンディングを見ようと頑張れる気がする。
「ではもう少し沐浴を続けましょうか」
首を傾けてそう提案してきた。 可愛い。
下手したら人間よりも可愛いかもしれない……!
「マンドラゴラは沐浴して何か利点はあるの?」
この湖の水を吸収していたりするんだろうか……
でも今のマンドラゴラには根が無いから吸収は出来ないのかな?
「今は人間の姿をしているので、ただ単に沐浴をしているだけです。 花の状態なら水を吸収出来るのですが……」
ですが…… 何だろう?
置いてきぼりにされそうとか心配しているんだろうか……
「お嬢様と一緒に、こうやって話しながら水に浸かりたかったので」
もう貴方はマンドラゴラじゃない、天使です。
平然と人を喜ばせる事を…… もう、好き……!
「そう言ってもらえてすごく嬉しい!」
私がマンドラゴラに抱きつくと彼女の顔は段々と赤く染ってきた、照れているんだ!
「もしかして照れてる?」
少し意地悪な事を聞いたけれど、恋愛ゲームとかなら絶対にこんな選択肢が出てくる! はず!
「は、はい…」
マンドラゴラは私の腕から離れると赤く染った顔を自身の手で隠した。
はい、私は彼女との恋に落ちました。
「いてて……」
すっかり空気になっていた男が目を覚ました。
せっかくマンドラゴラと良い感じだったのに……
「おい飼い主、俺を2回も殴ったな?」
根に持ってたか……
まあ狼ってプライド高そうだよね、偏見だけど。
「だって一応女だし……」
そう。女の人が浸かっている湖に裸で入ってこようとしたり、人の体を見て良い体つきとか言いだすこの男が悪い!
「ふむ、女ね……」
男は私を品定めするような目で見つめる。
しかも湖はとても澄んでいるから身体が見られてしまう--!
「気に入ったぞ飼い主、俺をお前の家に連れて行け」
何言ってるんだこのオオカミ男は……!
連れて行ける訳無いじゃない、馬鹿なの!?
「むっ、無理よ!」
狼を家で飼ったら遠吠えとかされそうだし、私が寝てる時に部屋に忍び込まれて食べられそう!
「屋敷に犬小屋がありましたので、そこで暮らせますよ?」
マンドラゴラめ、余計な事を……!
さっきの恋に落ちたとかの発言は取り消す!
「よし、じゃあ俺は今日からその犬小屋で暮らすぞ!」
来る気満々じゃないですか……
ここまで来たらもう断れる気もしない--
「分かった、じゃあ一緒に帰りましょう……」
ダンテ…… あの燕尾服男に何て言われるだろう
返して来なさいとか、今日の晩御飯とか言われそうな気もするけど……
「よし。俺はベルンだ、よろしくな飼い主」
ベルンか、いい名前だけど大丈夫かな……
--そう言えばどうして人間になれるんだろう?
「私はカナデ。 ねぇ、どうして人間になれるの?」
そう聞いてベルンはフフンと得意げにしている。
「俺がオオカミ男だからさ。 それも自分の意思で変身出来る、優秀なオオカミ男さ」
オオカミ男って満月の夜にしか変身しないって聞いていたけど、特殊な奴もいるんだ……
「じゃあ、屋敷の中は基本人間でいるって約束してくれる? 特殊なオオカミ男さん?」
「特殊なんじゃない、優秀なんだ。 まぁ安心しろ、約束は守るさ」
ベルンはそう言うと狼の姿に戻った。
銀色の毛が太陽の光を受けて輝いて見える。 とても綺麗な毛並みに思わず息を飲んでしまう。
「良かった、じゃあそろそろ行こうか」
そう言ったけれど、ベルンが私をまじまじと見ていて出るに出られない--
「マンドラゴラ、帰ろう? ……マンドラゴラ?」
私は湖を見回したが、マンドラゴラがどこにもいない! どうして!?
「カナデ、下に沈んでる……」
ベルンの助言を聞いて水をの中を見るとマンドラゴラが沈んでいる! 死んじゃったの!?
とりあえず私はマンドラゴラを引き上げた!
「浸かり過ぎました……」
どうやらのぼせたようだ、植物も人間になったらのぼせるんだ--
私はベルンにマンドラゴラをひきあげてもらい、その間に着替えを済ませた。
「あ、着替えてるところ見逃した……」
このオオカミ男、今すぐ湖に沈めてやりたい……!
「オオカミ男ですか?」
屋敷に戻り、ダンテにベルンを犬小屋で飼っても良いかを聞いた。
「別に構いませんよ? ただしお嬢様に何か手を出したら、その日の夕食にしますからね」
一瞬、彼の殺人鬼…… 本業をしている所が垣間見えた気がした。
しかも、そもそも飼うことに悩みもしないんですね……
「よし、じゃあ今日はカナデの部屋で寝かせてもらおうかな!」
ベルン--
コイツはダンテ以上の変態かもしれない。
「……寝かせる訳ないでしょ?」