舞踏会~アッシュと一緒に~
「向こうでパフォーマンスをやっているらしいぞ?」
「ああ、第二ホールだろ?」
「行ってみるか?」
廊下に出ると、客人達があちこちでパフォーマーが来ているという話をしていた。
……アッシュ?
「どうやら火を自由自在に吹くらしいぞ?」
「そりゃ面白そうだな。 行ってみようぜ?」
……アッシュだな。
私は立ち話をしていた男性達のあとを追い、本当にアッシュか確かめる事にした。
「おおっ!」
……やらかした。
火を自由自在に吹く、こんな話をされて見ようと思わない人なんていないはずだよね。
男性達の壁で火なんてどこにも見えませんよ!
人の背中しか見えません!
「おお、こんなに人がいるのか!」
私の後から来た人達によって帰り道が塞がれてしまった。
……脱出不可能! ここで野垂れ死ぬしか!
「さて、ここまで観客がいらしてくれると思っていませんでしたので、天井に炎を吹いて全員が見られるように致しましょう」
背後は男性達の声でうるさいが、間違えなく前方からアッシュの声が聞こえた。
口調を治したんだろう、男っぽく無かった。
「おおおおおっ!」
アッシュの吹いた火によって天井が炎に包まれる。
これは興奮するわ。
「まだまだ、ここからですよ!」
アッシュがそう言うと炎が止み、辺りは静寂に包まれた。
「それっ!」
……!?
何してるのアッシュ!
「おおっ、炎を操るパフォーマーってのはあんなに美人だったのか!」
「空も自由自在なのか……」
アッシュは自身のドラゴンの翼を広げ、空中を自由自在に飛び回り始めた。
……ドラゴンって『危険種』って言ってたよね!?
「あ」
アッシュと目が合うと彼女はハッとした顔をして、私に手を振り始めた。
……ファンサ?
「おおっ! 俺に手を振ってくれたぞ!」
「何言ってんだ、俺だ!」
……ファンサあるある。
「ありがとうございました!」
どうやら翼で飛ぶ事が最後の演目だったようで、アッシュが着地すると彼女はお礼をし始めた。
しかし、観客は誰も帰ろうとしない。
だから私も帰れない!
「カナデ、カナデってば……」
突然足元から声がしたので下を見ると--
「よっ! 見に来てくれたんだな!」
……!?
え、えぇっ!?
「アッ、アッシュ!?」
周りにバレないように小さい声で返事をし、しゃがんで彼女と同じ視線にする。
「おう。 なんでこんな所にいるんだ?」
いや、こっちのセリフだわ!
「アッシュこそどうして? やって欲しいって頼まれたの?」
いや、そうじゃなきゃこんな事しないか。
「おう。 それよりさ、ここから出ねぇか?」
確かに。 このままだと帰ろうとした人達に踏まれてしまいそうだ。
「そうだね。 じゃあ、あっちに避難しようか」
「久しぶりだな、元気だったか?」
男口調が直ったと言ったな、嘘だったみたいだ。
私達はダンスホールの隅に移動し、ジュースを飲んで談笑を始めた。
「うん、アッシュこそ大丈夫? パフォーマンスの練習って大変じゃない?」
彼女はドラゴン族だから元々の身体能力は高いだろうけれど、その分学ぶ事も多いはずだ。
「大変……ってより、楽しいからな。 疲れたとか、そういう事は全然ねぇよ」
アッシュっぽいわ……
でも変わってないみたいで良かった。
「そうなんだ。 でもそれはアッシュがやりたいって言ったことだから、凄くいい事だと思うよ!」
私はそう伝え、手に持っていたりんごジュースをグイと飲み干した。
……ハータムが仕入れたジュースの方が美味しい気がする。
「おう。 今日はパフォーマーになって一回目の公演だったから緊張してたけど、成功して良かった……」
緊張してたか……?
まぁアッシュが言うんだから、そうなんだろうけど……
「なぁカナデ、お前踊れたりするか?」
おう突然だな!
踊れるかだと? 苦手だよこの野郎!
「いやぁ…… 下手ですよ?」
素直に言った。
だって上手いなんて嘘ついてもバレそうだし。
「アッハッハッ! だろうな!」
ムカッ!
だろうな。 だと!?
「じゃあアッシュは!?」
どうせパフォーマンスばっかりでダンスなんて……
「男の方なら人並みには。 リードしてやろうか?」
ニヤリと笑われた……
ふん。 この売られた喧嘩、買ってやろうじゃない!
「ええ、お願いしようかしら?」
そう答えるとアッシュは私と彼女のグラスを近くにいたウェイターに返し、私の手を握った。
「安心しろ、カナデが倒れそうになっても助けてやれるくらいの力は残ってる」
え、アッシュって女じゃなくてイケメン……?
「お、お願いします……」
アッシュのリードは実に男らしく、彼女は実は男なのではと疑い始めた。
「意外と上手いじゃねえか。 もっと下手だと思ってたぜ」
……何故だろう、同性のアッシュに惚れかけている私がいる。




