舞踏会~慎平と一緒に~
…やけに女性陣が騒がしい
私が同行者を探そうと廊下を歩いていたら多くの女性達がドレスの裾を持ち上げ、あちこちを行ったり来たりしていた
「何かあったのですか?」
急いでいた一人の女性に聞いてみるも、答えてくれるどころか相手にしてもらえなかった
「男の人が一人とここにいる方々が一緒に廊下に入ってくるや否や、男の人がいなくなってしまったそうで… 皆様で探していらっしゃるそうです」
警備員だろうか、青い帽子を深々と被り警備服に身を包んだ男性が私の後ろから教えてくれた
「あ、ありがとうございます」
お礼を言おうと後ろに振り向くと、帽子の端からくせっ毛っぽい赤い髪が見えた。 それに肌が褐色気味で…
「慎平…?」
間違えていたらかなり失礼だけれど、何となく彼だろうという自信があった
「さっすが嫁。 よく俺様だって分かったな」
慎平は帽子を少し上げ、私に彼の赤いつり目を見せた
あと嫁じゃないです
「…いなくなった男って慎平でしょ? なんでそんな事したの?」
確か慎平は言い寄ってきた女性達に踊りを教えて欲しいと言っていた。 そんな中逃げたのなら軽く詐欺なんじゃ…
「踊りたくねぇ奴とは踊りたくねぇから。 他に理由があるかよ」
どこまでも俺様だな…
「でも可哀想じゃない? ここでオロオロしてる人達はみんな慎平と踊る事を楽しみにしてただろうし…」
さすがに顔が良くてもドタキャンなんて許されないだろ!
「はァ… 分かってねぇな」
慎平にあごを掴まれ、ぐいと顔に寄せられる
…ここまでか!
「俺様は嫁としか踊るつもりはねぇ。 だから全員振り切った、だから俺様を労う代わりに一緒に踊れ」
…勝手に振り切っておいて命令形?
あと嫁じゃないってば!
「えっ、嫌だって!」
なんなのこの男!
二次元の俺様は好きだけどコイツはホントにクソだな!!
「はぁ!? 何でだよ! お前の為に振り切ってやったんだぞ!?」
「別に頼んでないんだけど!」
ここは舞踏会が開かれている屋敷で、しかも廊下だというのに私と慎平は喧嘩を始めた
「あ、あの… 他の方もいらっしゃいますので…」
本物の警備員が私と慎平の喧嘩を止めに来た
いや、今は…
「あっち行ってて下さい!」
「あっち行けよ!」
あぁもう、なんで慎平と同じ事言っちゃうかな私!
「はっ、はい!」
警備員はさそくさと帰って行った
これをきっかけに私達の喧嘩はさらに白熱した
「はぁ… はぁ…」
「はぁ… はぁ…」
どれだけの時間が経ったのだろう、廊下で慎平を探していた人達は諦めて帰っていたようだ
「とにかく、ダンスホール行くぞ…」
慎平に右手首を掴まれ、離したいけれど疲れて力が出なかった
「分かった…」
慎平の物わかりの無さにはもう反発する気力も出ませんよ…
「悪かったな… 俺様はただお前と踊りたかっただけだ、それだけは分かって欲しくてよ」
珍しく謝ったよこの鬼…
出来れば普段からこのくらい正直でいて欲しいよ
「私こそムキになってごめんなさい」
そう呟くと慎平は私の右手首から手を離し、今度は右手を握った
「…リードは俺様に任せろ。 お前と踊る時に恥ずかしくないように、結構練習したんだぜ?」
本当だろうか。 本当なら嬉しい
彼が私の為に時間を割いてくれたなんて、なんだか少しロマンチックだ
「さ、いくぞ…」
ダンスホールで慎平が私の手を握り直すと、彼の手は少し震えているように感じた
「緊張してる?」
慎平の顔を覗き込むと、少し顔色が悪そうに思えた
「当たり前だ、お前に恥かかせらんねぇし… カッコ悪いとこ見せらんねぇし…」
お? 疲れたら本性見せるようになった?
…でもこっちは調子狂うわ、やっぱり俺様でいてくれた方がいいかもしれない
「大丈夫、私も下手だから!」
ニコッと笑って、私が緊張を解してやろう!
「ハハ、知ってる」
ムカっ…!
なんだよ、結局素直でも俺様でも可愛くないな!
「う、うるさいわね! 転ばないでよ!?」
「分かってる、俺様に任せろ」
練習してきたと言うだけあって、慎平のリードはとても踊りやすく感じた
それに彼の顔は緊張で強ばっていて、少し可愛く思えた




