怖がりなミイラ男①
「カナデ! アッシュさんは見つかった!?」
リーフと涼佳さんは何故か違う広場に移動していたので焦った…
今度は私が迷子になったかと思ったじゃない!
「見つけた。 でもアッシュは自分の行きたい道を見つけたから、そっちに進むって言ってた」
彼女が自らやりたいと言っていたのだから、私には止める権利は無い。 いや、止められない
「そう… でも、良い事だよね?」
リーフは微笑んでているような、悲しんでいるような、どちらとも取れる表情をしている
「そうだよリーフちゃん。 でも大丈夫、また会えるよ」
涼佳さんは優しくリーフを撫で始めた
リーフの涙が両目から数滴落ちた。 今日会ったばかりの人の為に涙を流せるのは優しい証拠だと思う
「うん…」
リーフが涼佳さんに抱き着き、涼佳さんはゆっくり背中を撫で始めた
…母親とその子どもみたいだ
「さ、買い物がまだなんだろう? ワシも同行しよう」
リーフは泣き止んだけれど、まだ目が赤い
涼佳さんも一緒に行ってくれるなら大丈夫だと思うけれど…
「涼佳さんは時間とか大丈夫なんですか? リーフも休まなくて平気?」
これでまたバラバラになったら買い物も終わらなくなる…
「ワシは今日中に帰れば問題ないよ。 リーフちゃん、歩けるかい?」
リーフは今日一日で馬車に酔い、泣き、心身ともに疲れているはずだ。 無理はさせられない
「大丈夫。 行ける!」
笑顔でそう言い切ったリーフの両手を私と涼佳さんが片方ずつ握った
だいぶ人も減って、歩きやすくなっていた
「家族みたいだね!」
リーフは上機嫌だ …家族?
私が妻で涼佳さんが旦那さん… うわ、恥ずかしい! 旦那さんイケメン過ぎる!
「そうだね、3人兄妹だね」
…あ、兄妹ですか。 うん、旦那さんとか言ってた私が恥ずかしいわ!
「ワシは別にカナデさんにお母さん役をやってもらっても良いんだよ? いや、役じゃなくて、現実でね…」
またプロポーズですか!?
しれっとプロポーズするの辞めてもらっていいですかね!?
「カナデ、どういう意味?」
リーフにはまだ速い気がする…!
プロポーズなんてどうやって誤魔化せば良いんだ!
「罰ゲームに夫婦を演じるっていう物があってね、それの話だよ」
無理ありますねそれ!
それに罰ゲームの内容がしょぼい!
「へぇ、そんな物があるんですね!」
リーフが純粋で良かった…!
いや、むしろ知らない人にも易々とついていく気がする!
「ほら、早く行かないとお店が閉まってしまうよ?」
…こんな話になったの誰のせいだと思ってるんですかね涼佳さん!
いや、変な想像した私のせいかもしれないけど!
「カナデ、右の路地裏から人の気配がする…」
街を歩いていたら突然リーフの足が止まり、薄暗い右側の道から人の気配がすると言われた
…幽霊!?
「こ、怖いからやめようよ! ほら、早く行こうよ!」
別に幽霊とかオバケがいるとは思ってないけど… 怖いじゃん?!
「本当だ、苦しそうな呼吸音が聞こえるな… リーフの聴力は凄いな!」
褒めてる場合!? 苦しそうな呼吸音なんて絶対幽霊だって!
「えへへ… じゃあ行ってみよう?」
リーフに無理やり手を引かれ、路地裏へ進みたくないけれど進んでしまう
せめて私だけでも置いていってよ!
「カナデさん、もしかして怖いのかい? 怖かったらワシに抱き着いても良いからね」
やだよ! 撮影とかされそうじゃない!
[ワシの嫁の怖がり方がこんなに可愛い訳がない]っていう題名で動画サイトとかに載せそう!
「だ、大丈夫ですから…」
正直な所、全然大丈夫ではない
でもリーフの前ではカッコ悪い所は見せられない… という謎のプライドが私の意思と反する行動を取らせている!
「顔色悪いよ? やっぱりやめる?」
うん、やめたい。 今すぐやめたい!
でもリーフの前では…!
「ホントに大丈夫だよ。 ちょっと虫とかが苦手なだけ!」
そう。 何故かこの道には虫が多い…
路地裏という事もあり、あまり人が入らないんだろうか…
「あ、あの人じゃない!?」
どうやら1番前を歩いていたリーフが呼吸音の主を発見したみたいだ
…発見したからもう良いじゃん! 帰ろう!?
「あんな所でうずくまってどうしたんだろうね… 声をかけてみようか」
良いってば!
なんでそんなに冷静なの!? ホラーゲームで1番最初に殺られるやつじゃないの!?
「大丈夫ですか?」
行動力!
見ず知らずのうずくまってる人に声かけるって勇者ですか!?
「っ…! ご、ゴメンなさい!」
…え?
うずくまっている姿からして中々の身長で、細めの体型だという事が分かる
「あ、あの…」
いきなり謝られて涼佳さんも戸惑っている!
このまま帰ろうよ…!
「脱走したのは謝ります! でももうあんな事しないで下さい…!」
えぇ…
ほら、なんか色々とヤバイ人だって…
「あの、こんな所でうずくまっていたら風邪引きますよ? 一緒にここから出ましょう?」
いいよ涼佳さん! 訳アリだってその人!
「み、見世物小屋には… か、帰りません…!」
見世物小屋…?
そういえば街の奥の方に来てるってすれ違った人が言っていた気が…
「見世物小屋から逃げてきたんですね? 大丈夫です、私達はそこに行きませんよ」
そう言うとうずくまっていた人は顔を上げた
すると包帯が顔中に巻かれていて、黄土色の目と黒い髪が数本見えているだけだった
声や体型からして、多分男性だろう
「ほ、本当ですか…?」
そのまま男性は立ち上がったが、黒い半袖パーカーと黒い半ズボンを身にまとっているものの、肌が露出している部分には滞りなく包帯が巻かれている
「はい。 もしかして見世物… だったんですか?」
失礼な質問かもしれないけれど、聞かない事には始まらない
「は、はい… で、でもあそこは… あっ、悪魔達がす、住んでるんです…!」
悪魔達が住んでる? 見世物同士が喧嘩でもするのだろうか
「見世物を調教し、それを人に見せてお金を巻き上げる。 そういう場所なんだね?」
涼佳さんがそう尋ねると男の人は小さく頷いた
流石だ…!
「そういう噂は聞いた事あるけど、まさか本当だったとはね…」
調教された挙句、まともな食事も貰えていないんだろう。 目に生気が無い…
「あ、あの…」
男の人は死んだ魚のような目で私を見つめた
「烏天狗とエルフを… て、手懐けたんですか?」
…!
リーフがエルフだとは耳から判断出来るが、完全に人間の姿の涼佳さんを烏天狗だと言い当てた!
「手懐けた訳じゃ無いです。 2人が私と一緒にいたいと言ってくれたので、私が一緒にいさせて貰っているんです」
確かに、手懐けたように見えてしまうかもしれない…
でも私は2人を、今まで出会った異種族の人達を下に見た事はない
「そ、そうなんですか…」
男の人は少しホッとした表情をした
…彼にとって見世物小屋での出来事はトラウマなのだろう
「じゃ、じゃあお願いがあるんです…」
男の人は私に歩み寄り、手を握った
…食べられる?
「僕を… 連れて行ってもらえませんか?」




