無感情のマンドラゴラ娘①
目が覚めると未だに自分の部屋だった、多分本当にここに転生してしまったんだろう。
くそっ…… 推しの水着が……っ!
「お嬢様、お目覚めですか?」
出たな変態燕尾服!
今は掃除機を持っていないから服を吸われる心配は無いな!
「起きたよ、だから早く出ていって!」
この男は何をするか分からないから一緒にいたくない、もしかしたら……
うん、そういう事をしてくるかもしれないし?!
「1日寝て元気になられましたか、良かったです」
待て待て燕尾服、お前今1日寝たって言ったかい? 私あのまま一日中寝てたの!? 起こしてよ馬鹿!
「待ちなさい!」
自分で部屋から追い出しておいて呼び戻すのはおかしいけれど、何で起こさなかったのか問い詰めてやる!
流石にあの男馬鹿なんじゃないの!?
「はい、やっぱり何か用でしたか?」
燕尾服は私の声に振り返ってニヤニヤしている。 まったくムカつく男だ!
「どうして起こさなかったの?」
どんなに時間がかかったって聞き出してやる!
自分の仕えてる人がいつまで経っても起きてこないなら起こしに来るでしょ普通!
「2度寝するから部屋に入らないでと申されましたので、ご命令通り」
そういえばそんな事言ったわ……
いや言ったけどさ、さすがに起こそうよ……
「今日は先日の約束通り…… あ、覚えておりますか?」
約束……? いや、昨日ここに来たばかりだから分かるわけないでしょ!
そもそもこの男とどこかに行くの嫌なんですけど……!?
「ごめん、分からない」
この男の約束なんて昨日の… いや、やめておこう。
あの朝食中の出来事は忘れるんだ、私…!
「分かりました、では後日一緒に行きましょう」
どこに行く予定だったんだよ! 予定言ってから去れよ!
いやもう呼び止めないけどさ!
まあいいか、今日は食事の時間以外は部屋にいて構造とか家具とか調べておこう…… そうだ、鉢植えに水をあげなきゃ。
「無いな……」
部屋のどこを探してもジョウロやバケツなど鉢植えに水をあげる物が見つからない……
転生前の私は鉢植えに水を与えていたんだろうか、でも水を与えないとここまで綺麗に花は咲かないよね……
「おーいお嬢ちゃん、水だ」
アニキ系庭師がノックもしないで部屋に入ってきた。
ここの人達はデリカシーとかプライバシーっていう言葉を知らないのか!?
「これ、鉢植えにあげるやつよね?」
何か水が緑色に濁っているのが気になる…
異臭がする訳ではないけれど、こんなの植物に与えたら枯れてしまいそうだ…
「記憶喪失ってのはホントみたいだね」
燕尾服かカノンと呼ばれていたメイドから聞いたんだろうか…
いや、急に人のベッドの上に座らないでくれます!?
「お兄さんのことは覚えてるかい?」
庭師が人のベッドに座ったと思えばタバコを取り出して吸おうとしている。
いや、マナーって物があるでしょ!
「分からない、あとタバコやめて」
こういうアニキ系には1度ガツンと言ってやった方がいいとどこかの恋愛ゲームで学んだ。
「何だよお嬢ちゃん、前はタバコ吸ってる俺がカッコイイだの何だの言ってたのによ…」
転生前の私、病院へ行って下さい……!
人の部屋でタバコ吸い始める奴をカッコイイだと……!?
「まあいいや。俺の名前はジャックだ、改めてよろしくな」
ジャックの手はボロボロだ、恐らく庭をいじって怪我をしてしまうんだろう……
私は恐る恐る手を出し、ジャックと握手をした。
「じゃあお嬢ちゃん、その水、鉢植えにな。 絶対飲んじゃ駄目だよ?」
ジャックは部屋のドアを開けた後右手をあげ、小さく振った。 多分「じゃあな」という意味だろう。
飲んだら何が起こるんだよ……
それにこの緑色に濁った水怖いなぁ……
まあいいか、庭師がこれをあげろって言うんだから大丈夫でしょ!
……この水の分量間違えてないかな?
どう考えても全部あげたら水が鉢植えから染み出してしまいそうだ。
「ふぅ… 美味しい」
……っ!
今のは私の声じゃ無いけど!?
だっ、誰か部屋の中にいるの? 怖いじゃん!やめてよ!
「きょうは少し多めですね……」
え、多め……?
まさかこの植物が? いや、ないない。 ハエを食べる草とかは見たことあるけど喋る花なんて……
「お嬢様、離れていて下さい」
えちょっ、ちょっと待って…… ホントにこの花が?
でも今私以外に喋りそうなのはこの花くらいしかいないし……
周りの家具が喋っているとも考えにくい……
「よっと……」
「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!」
はっ、鉢植えから緑色の…手が!
どこぞのテレビから出てくる幽霊ですか!?
「お、お嬢様……?」
鉢植えから出てきた手がオロオロと動く。 やめてくれ…… 怖いじゃん!
「い、今出ます……」
すると今度は腕がもう一本出てきた!
やめて…… 出てこなくて良いから! 帰って!
「よいしょ」
今度は脚が出てきた… まさかこの花、人になれるの……!?
気持ち悪いな!
「もう少しで終わります」
もう一本の脚が出て、四肢が鉢植えから出ている状態になった。
これで完成とかだけは本当にやめて……!
「よっこいしょ」
鉢植えから土が付着している金髪が出てきた、まさか鉢植えから本当に人間が……!?
「ふぅ」
鉢植えから土が着いている、少しつり目の少女(?)が顔を覗かせた。
何やら感情表現が乏しそうな顔をしている……
感情表現が乏しいキャラクターは感情が豊かになると格段に可愛くなるから好きだ……!
「お嬢様、おはようございます。 本日も朝食を与えて下さりありがとうございます……」
彼女は無表情でそう言った。