デリカシーのないメイド①
「お嬢様、起きて下さい」
この声はカノンだろうか…
彼女の声は一般の女性より低めだから分かりやすい
「私… 寝てた?」
昨日エルフの森に行き、帰ってきてすぐに眠ってしまったんだろう。昨晩の記憶が無い…
「はい、ベルンが身体を舐めまわしていたのにも関わら…」
…は!?
「ちょっ、ちょっと! 何でやめさせなかったのよ!」
ベルンが私の身体を…!?
あの狼野郎…!
「嘘でございます。 早くお着替えになって下さいまし、朝食がもうすぐ出来ます」
カノンはそう言うと部屋を出ていってしまった
なっ…
何なのあのメイドは!
「カナデ、どうしてそんなに不機嫌なんだ?」
ベルンはバターが塗ってあるトーストを頬張りながら私を不思議そうに見つめる
…半ばお前も同罪だからな!?
「別に。 カノンがまた変な事を言い出したから」
カノンはトーストの横に乗せられているプチトマトを口にして知らん顔をしている
「昨日は誰もカナデの部屋に入ってないぞ? なぁ、ダンテ?」
いやいや、ダンテとベルンは信用出来ないんですけど…
「はい、ベルンの言う通りでございます。 副業から帰ってきた際も特に異常はございませんでした」
…副業?
暗殺者の副業をしてきたの…?
「私はお嬢様に快適なお目覚めを提供したかっただけでございます」
いや、すごく不快な目覚めでしたけど…
それに寝起きにあんな嘘つかれたの初めてなんですけど…
「で、何て言われたんだ?」
ベルン、聞かないで…
「ベルンが身体を舐めまわしていた。と、申し上げました」
言うなよ!
「俺がそんな事する奴に見えるか?」
ベルンはキョトンとしながら傍に置いてあったオレンジジュースの入ったグラスを手に取った
「屋敷に来た日に人をベッドに押し倒した人はどちら様でした?」
ベルンはギクリとした様子で右手で持っていたグラスをテーブルに置いた
「俺…かなぁ?」
うん。貴方しかいないです
「私はまだセーフですね、お嬢様の了解を得てから押し倒したので」
おいおいダンテ、お前も何を言ってるんだ!
セーフとか無いでしょ!
「あ、お嬢様は覚えていらっしゃらないですよね。 記憶喪失でしたし…」
いや、私じゃないにしても記憶無くて良かった!
…それ以前に食事中になんて話してるのよ!
「ああ… あの時のお話ですか。 翌日に私がお嬢様のお部屋のお掃除中に例のブツを見つけた時でございますね」
何を淡々と思い出してるのカノンは…!
食事中だから!
「2つ3つ落ちていましたよね…ダンテ?」
ああもうっ!
「今食事中でしょ!? 何で朝からこんな話聞かなきゃいけないのよ!」
思わず立ち上がって怒鳴ってしまった…
でも流石に朝からは… ねぇ?
「お嬢様、落ち着いて下さいませ…」
「落ち着けるか! そもそもカノンはデリカシーっていうものが無いのよ!」
ここぞとばかりに言ってしまった…!
「もういい。 ご馳走様でした!」
私はデザートのヨーグルトを食べずに自分の部屋に戻り、マンドラゴラにいつもの濁った水をあげた
「お嬢様、おはようございます。 今日はいつもより早めの水やりですね」
マンドラゴラが顔だけを鉢植えから出した
もう鉢植からマンドラゴラが出てきても驚かなくなった。 慣れって怖い
「ちょっとね」
全然ちょっとどころでは無いけれど…
「何方かと喧嘩なされましたか?」
マンドラゴラはいつの間にか出した手で目を擦っている。 まだ眠いのだろうか
「カノンと少し…」
そう言うとマンドラゴラはやれやれという表情をし、小さくため息をついた
転生する前の私もよく喧嘩をしていたんだろうか…
「またですか。 よくお嬢様はクビを宣告しませんね?」
クビにさせる権利は私にあるの…?
でも彼女はデリカシーは無いけれど仕事は出来るからクビにするのは勿体ないな…
「…こんな事をお嬢様に言うのは何度目でしょうか。 恐らく10回はとうに超えていますね」
そんなに!?
いや、でも確かにあのデリカシーの無さは問題だと思うんだけど…
「お嬢様、少々お話ししたいことが…」
噂をすればカノンが私の部屋の前にやって来たみたいだ
マンドラゴラは無表情で手を小さく振って鉢植えの中に戻ってしまった
…ノックしなさいよアイツ!




