烏天狗の不思議なお兄さん②
「そうだ、2人の名前を聞いていなかったよね?」
前を歩き、私達に道を案内していたお兄さんが笑みを浮かべながら振り返る
そういえばお兄さんの名前はなんていうんだろう。 烏天狗って本名じゃないよね…?
「私はカナデです。 彼女はエルフの森でリーフと呼ばれていたそうです! お兄さんのお名前は?」
お兄さんはとぼけたような顔をした。 恐らく名乗っていなかった事を忘れていたんだろう
「これは失敬。 ワシの名前は涼佳だ。 よろしく頼むよカナデさん、リーフちゃん」
すると涼佳さんがお辞儀をしたので、私達もそれを返すようにお辞儀をした
「カナデさん、休憩しなくても大丈夫かい?」
涼佳さんとリーフは余裕な顔をしているけれど、私は森の中を長時間歩いた事なんて無いので身体の疲労が溜まっていた
森を歩き慣れてる女子高生ってなかなかいないと思う…
「させてもらえませんか…?」
息が上がり、脚はパンパンだ。 転生する前から運動しておけば良かった…
「いいアイデアを思いついたよ、それっ!」
涼佳さんは私の目の前に来ると、私をお姫様抱っこをし始めた!
…何これ! どこの恋愛ゲームのイベント!?
「おっ、下ろしてください! 恥ずかしいです!」
高校1年にもなってお姫様抱っこをされるなんて…!
全くキュンとなんかしない!
それどころか恥ずかしくて爆発しそうですけど!
「いやぁ、ワシの考えだとこうした方が早く着くと思ったからね。 下ろす訳にはいかないよ」
涼佳さんは何食わぬ顔で歩き始めたので、私は足をじたばたさせて抵抗する
「可愛いねぇ。 じゃあ、これでも暴れられるかな?」
涼佳さんは帯に付けていたお面を手に取り、頭に乗せた
まずい、このままだと…
「それっ!」
涼佳さんは黒い羽根を生やし、大きく広げた
…飛ばれる!
「掴まっていてね!」
本気で飛ぶ気だよこの人…!
「ストップです! もう暴れませんから!」
私は今にも飛ぼうとしている涼佳さんを制止させ、結局お姫様抱っこをされながら進む事になった
「カナデ、顔赤いよ? 大丈夫?」
リーフに顔が赤くなっている事を指摘されてしまった…
「本当だ。 大丈夫かい?」
大丈夫じゃないですよ!
真っ黒の着物を着た、片目を隠しているお兄さんにお姫様抱っこされてるんだよ!?
「大丈夫です! 心配してくれるなら下ろしてください!」
涼佳さんはカッカと笑ったきり、何も話さない
この人よく分からない…!
「もうそろそろかな。 はい、足元に気をつけてねお姫様?」
やっと下ろしてくれた…
あとお姫様じゃなくて、お嬢様です
「ありがとうございました。 でも人前とかでは絶対に辞めてください」
この人と一緒に街中に出る機会があるかは分からないけれど、一応念の為に…
「うん。 分かったよ、人前は駄目なんだね?」
…嫌な予感がする。 もしかしたら帰り道はずっとお姫様抱っこされる危険がある!
「そうです。 お願いします」
いや、帰り道に同じような事をされるのなら…
…お言葉に甘えよう。 流石に今来た道を歩いては帰れない!
「ねえカナデさん。 目の前がエルフの森だけど、リーフちゃんはどうするの? 置いていくの?」
…? この人は今更何を聞いているんだろう
「置いていきます。 リーフには同じ種族の人達と生きて欲しいです」
これはリーフの為だ。 人間と一緒にいたらエルフとして生きられなくなってしまいそうだ…
「そうかい。 リーフちゃんは何て言っているんだい?」
リーフは帰りたい… のかな?
そういえば聞いていない… 帰らせてあげなきゃと私が1人で意気込んでいたのだ…
「…私はカナデとも、エルフを仲間達とも一緒にいたい。 だからカナデ…」
リーフは自分の気持ちを打ち明け、私の後ろを歩いていた彼女は私のすぐ正面まで歩み寄った
「私と一緒にエルフの森で暮らして欲しい。 ダメ?」
リーフは彼女の綺麗な緑色の目と、昨日買ったばかりの貝殻の髪飾りを光らせてそう聞いた
…そんなに可愛らしい仕草で頼まれたら断れない
けれど、屋敷で待っている人達の所にも帰らなければ…
「ごめんねリーフ、私にも帰らなくちゃいけない場所があるの」
リーフは自身の長い耳を下に少しだけ下げた
きっと落胆するとそうなるのだろう
「でも、屋敷の皆と遊びに来るよ。リーフは家族だから!」
彼女にとっての本当の家族はエルフの森に住む同種族の仲間達だ
でも私達は彼女の第2の家族として、彼女を幸せにしてあげたい…
「本当に来てくれる…?」
彼女は今にも泣きそうな顔をしている。 恐らく私が彼女を捨てようとしていると勘違いしたんだろう…
「うん、絶対。何なら指切りしよっか?」
私は小指をリーフに近づけ[指切りげんまん]をしようとするも、彼女は分からないみたいなので詳しく説明した
「小指と小指を引っ掛けて… せーのっ!」
私とリーフは涼佳さんの「せーの」の合図でお決まりの歌を歌い始めた
「指切りげんまん 嘘ついたら針千本飲ーます! 指切った!」
久しぶりにこんな事をした
自分の童心を取り戻した気がした。 女子高生はまだ子供か、成人してないし…
「じゃあねカナデ、元気でね!」
リーフは私に手を振りながらエルフの森へと入き、姿が見えなくなった
…これで良かったんだよ
「さぁカナデさん、お屋敷まで送るよ。 よっと!」
涼佳さんはやっぱり私をお姫様抱っこした
最初は嫌だったけれど、慣れって怖いなぁ…
「カナデさん、大丈夫。 君は本当に良い事をした。 だから泣かなくて良いんだよ?」
涼佳さんは自分の腕の中で泣いている私を優しく慰めてくれた
…エルフの少女1人と別れただけなのに、こんなに涙が出るなんて思わなかった
「涼佳さん、来た時よりもゆっくり歩いて貰っていいですか…?」
涼佳さんは歩くペースが早いので、来た時と同じスピードで歩かれると屋敷に着くまでに泣き止めなかった時に困ってしまう
「うん。 いいよ、好きなだけ泣きなさい?」




