別れ
はじめまして、弘光 宗ニ郎です。
昔から小説を読むのが好きでしたが執筆は初めてで右も左も分からないまま書かせて頂きました。内容はフィクションですが書きながら涙を流してしまいました。温かい目で見て下さい。
都内のマンションの十二階。
彼と五年半を共にした場所。
間取りや家具をこだわり抜いたリビング。
彼のちょっかいと私の芸術的料理を呆れながらも見守っていたキッチン。
色違いの歯ブラシが並んでいた洗面所。
毎日のように愛を重ねたベッドルーム。
いまや全ての部屋の物という物が段ボールと化し高く積まれている。
今日は私たちの五年半が終わる日。
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「汐ちゃんの荷物はこれで全部?」
彼氏の千歳はバンドマンで私の二歳年下。
付き合ってはいけない3Bの一人だが、千歳は良い彼氏だった。
「うん、ありがとう。荷物は明日業者さん取りに来てくれるからまとめて置いといて。」
私達がが別れるのに深い理由はない。
浮気した訳でもされた訳でもないし、大きな喧嘩をした訳でもない。
ただお互いに愛はあるが付き合ってる必要がないと気づいたからだ。
親友には理解ができないと言われたが、誰かに理解してもらうつもりはない。確かに私はもう三十五歳だし回りも結婚してい子供もいる。彼と付き合い始めた頃はそれなりに家庭を持つ未来予想図を立てていた。時が経つにつれそういうものも薄まり時間が過ぎた。ふとこのまま年を重ねるだけで良いのかと思った、かといって結婚したい訳でも子供がほしい訳でもない。その思いを率直に打ち明け話し合った。彼も同じ事を考えていたと知ったときある意味奇跡なんだと思った。今が決断の時なんだと、その時の自分の直感が今の結果なだけだ。
すぐに別れる必要もないから二ヶ月間猶予を持って新しい部屋を探したり荷物をまとめたりしようという話しになった。
そこから今日までは驚くほど早く感じた。
「荷造りも終わったし、残りの時間はゆっくりしよっか。コーヒーでいい?インスタントしかないけど」
きれいに片付いたキッチンでお揃いのブルーとピンクのマグカップを手にした千歳が言った。
「淹れてくれるの?そんなこと始めてじゃない?」
千歳がキッチン用品に触れたとこは見たことがない、本人曰く少しでも触れたら手伝わされるからとのこと。
「最後くらいはご奉仕させて下さいませ、お嬢様。」
そう言いながら千歳は自分の胸に手を当て一礼した。似合わなすぎて二人で声を上げゲラゲラ笑った。
最後と言う千歳の言葉がチクリと胸に刺さる、最後だと思えば思うほど時間は早く過ぎる。
千歳の淹れてくれたコーヒーは少し苦く感じた。
「コーヒー淹れたご褒美に、汐ちゃんにも挿れたい。」
千歳の真剣な眼差しに私は弱い。
「親父ギャグで誘ってるの?(笑)」
クスクス笑い合いながら触れるように優しいキスをした。
「今日は最後の最後まで今ある全ての愛を汐ちゃんに注ぐから。」
寒い台詞を言った千歳のせいなのかフローリングが少しひんやりとしていた。愛を注いでもらったお陰なのかすぐに体は火照ってフローリングが気持ち良い。
目が覚めた時には夕方になり少し体も冷えていた。隣で寝息をたてる千歳を置いて風呂に湯を張り浸かった。じんわりとした温かさがすこし物足りく感じた。
曇りガラスの向こう側から
「汐ちゃん、一緒に入って良い?」
と千歳が声をかけてきた。
「起きたの?いいよ、おいで。」
返事と同時にドアが開いた。
「早すぎ(笑)」
私を後ろから包み込むように千歳が入ってきた。二人で入るには少し狭いがその狭さが心地いい。
「いつも思ってたけど汐ちゃんって温かいよね。温度的なのもあるんだけど何て言うんだろ、なんか包み込まれる感じ。……寂しくなるなー。」
千歳の言葉が胸にスッと落ちてきた。
「…っ。」
今日まで堪えていた涙が目いっぱいに溜まった。私だって同じ気持ちで、五年半ずっと一緒にいた人と離れるのに寂しい訳がない。新しい部屋を探すときも荷造りするときも泣くのをぐっと堪えていた。一度泣いたら止まらなくなるから。
「…ねぇ、千歳。あと数時間で私たちは終わってしまうわ。だから最後の我が儘、あと数時間は今まで以上にないくらい私のことを愛して。体が心が溶けてなくなってしまうんじゃなかってくらいまで、別れた事を後悔しないように私の事を愛して。」
溢れた涙を見せまいと彼に背を向けたまま告げた。
「了解だよ。汐ちゃん、愛してるよ。」
そこからはいつベッドに移動したか分からないくらいまで理性を無くしてお互いに愛し合った。
涙が止まることはなかったが、寂しさや悲しみではない幸せの涙だったんだと思う。
朝になり幸せそうに眠る千歳の頬にキスをして家を出た。
千歳と過ごした五年半は決して無駄なものではなかったし、私達の決断も間違ってはいない。
「バイバイ、五年半。バイバイ、大好きだった千歳。」
新しい門出を眩しいくらいの朝日が祝福していた。
いかがだったでしょうか?
今後とも主人公のこれからを書いていけたらと思っておりますので宜しくお願いします。




