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黒魔術師は愛されたい  作者: 真空
黒魔術師は愛されたい
5/14

元彼に気を付けろ


 セノンは、いい人だ。

 何ていうか、発言から行動まで、すべてに自信が溢れている男性だった。そこまでイケメンってわけじゃないけど、彼の笑顔は私のような女には眩しかったし、包容力もあってついつい甘えてしまう。だからこそ、こんなのも彼にのめりこんでしまった私がいるわけだけど、どうやらそれは私以外にもいたらしい。


「そうなんです。彼に声を掛けられたっていう女の子たちが大勢いるんです」

「……その話を聞く限り、私と付き合っていた時期にもナンパしてたってことになりますよね?」


 たった一週間しか付き合ってないけど。

 それでも、もう裏切りは確実で……気分は落ち込む。ああ、やっぱり遊ばれていたんだ。私はあんなにも愛していたっていうのに、あっちは遊びで愛するフリをして……私のことを滑稽に見てたんだ。


 泣きそうになるけど、そこはぐっと堪える。

 ちなみに、あの姿から元の姿に戻っている。黒髪の魔女から赤髪のプレイガールに元通りだ。……自分で言ってなんだけど、赤髪のプレイガールはやめよう。別に、遊んでいたわけじゃないし! うん!


「それで……その言い方はあれですけど、捨てられたって泣く女の子もいまして……。それも大体、一夜を明かした後に別れようと言い出すらしいんです」

「……ああ、それで、さっき私に逃げた理由を訊いたんですね?」


 つまり、私はイレギュラーということになる。

 セノンからしても私のあの姿はイレギュラーだったろうけど……あれ? でも、彼ってば逆に燃え上がっていたような? そもそも、彼が逃げたのって黒魔術師と名乗ったからで……。ああ……ミトリさんには間違ったことを言ってしまった気もするけど、黒魔術師ってのは秘密にしておきたいし、訂正しなくていいかな。それに、あながち間違ったこと言ってない気もするし、うん。


「……でも、おかしいんですよね」

「おかしい、というのは?」


 私の問いかけにミトリさんは言う。


「行動が矛盾しているんですよ。彼が女の子たちをナンパしてるのは、ずばりは多くの女の子たちと遊びたいと考えているからですよね? それなのに、一晩過ごしてしまうと、そのまま捨ててしまう。例外はなく、私が知る限りは全員です」

「……うーん……やはり並行して女の子たちを抱え込むのは厳しいからではないですか? 身体はひとつしかないんですし、体力的にも精神的にもいずれは破綻するでしょうし」


 言っていて、気分が悪くなる。

 こうして彼の立場になって考えるのは、すごく苦しい。

 前向きに……考えないと。


 私は感情を抑え込みつつ、ミトリさんを見る。

 先ほどのように顎に手を添えて考え込み、しばらく唸ってから言う。


「そうかもしれません。しかし、そういう男たちというのは最低限、自分の好みは手元に置いておくものなんです。恋人をつくるというのは、結構手間が……いえ、エネルギーを消費しますよね? そういった苦労を省くためにも、お気に入りは確保するんですよ」

「………だとすれば、たしかにおかしいですけど」


 セノンが多くの女性を悲しませていた……というのはショッキングだし、悔い改めさせたいとも思う。そして、店の女性が被害に遭ったというミトリさんが動く理由にもなる思う。でも……それだけなのかな? まだ、何か、ある気がする。

 

 そして、私の直感は当たる。

 ミトリさんの話はそれで終わらず、まだ先があるようで語り始めた。


「……そもそも、声をかける女性の数が異常なんですよ。遊び……以外にも何か目的がある……私はそう考えています」

「遊び以外の……目的?」

「はい。……これも彼と付き合っていた女性の証言なんですけど……なんでも、彼と一夜を供にした前後の記憶が不確からしいんです」


 記憶が……不確か?

 私がそう問い返すと、ミトリさんは頷き答える。


「何か靄がかかったように、思い出せないらしいんです。そして……これが、致命的なんですけど……」


 致命的。

 その言葉に、私はゾッとする。

 まだ何が起きているかもわかっていないというのに、途端に怖くなる。だって、致命的だなんて、もうすでに終わっているような言葉で恐ろしい。そして何よりも、あの思い出の中のセノンがそれに関係しているだなんて……何も知らなかった自分が……怖い。


「一体……何が致命的だったんですか?」


 言いあぐねているミトリさんに対し、私は意を決して訊く。

 それを見て、彼女も覚悟が決まったのか、ゆっくりと頷いた。


「あったんです。彼女たちの腕に……小さいですが、注射の痕が」

「注射の……痕? それってまさか」

「はい。確認しましたが、彼女たちは……目が覚めたら貧血気味だったそうです。間違いなく……血を採られたのかと……そう、例の通り魔『蝙蝠』に襲われた彼女たちと同じように」


 それは。

 それは、間違いなく致命的だった。

 まさか……そんな……あの、セノンが通り魔? あまりにも、予想外過ぎて、不意打ちで……私は戸惑う。これで動じない人なんて……いないと思う。騙されたって話を聞いても、どこかで私は「セノンは悪人じゃない」なんて思ってた。ううん……信じてたっていうのが、一番近いかもしれない。


 でも、これは……私にとって本当に致命的だった。


「もちろん、まだ断定はできません。しかし……少なくとも、通り魔の関係者と私は考えています。それか通り魔を模倣した愉快犯か。どちらにしろ、野放しにはできないでしょう」


 ミトリさんは私の顔をまっすぐ見つつ、言う。

 今……私はどんな顔をしているんだろう。空笑い? それとも、泣いてる? 怒ってる? どうにも、自分がわからない。最初は、黒魔術師の悪評を払拭するんだ……なんて気持ちで動いていたけど、まさかこんなことになるなんて……。


「……これで、お話は以上です。すいません、シャリーさん。やはり、あなたには話さない方が良かったかもしれません。あなたにとっては……辛い話ですから」


 そう言って、ミトリさんは頭を下げる。

 いや……ミトリさんが頭を下げる必要はどこにもない。悪いのは……私だ。ミトリさんに頭を下げさせてしまった私だ。馬鹿で、愚鈍で、弱くて、何も取り柄がない私が……全部悪い。


「ミトリさん……もしかして、中央広場ではセノンを探していたんですか?」

「……そうですね。あわよくば、私自身を囮にして真相を確かめようかとも考えていました。えっと、あわよくば……ですからね? まさか、私みたいな幼児体型に声を掛けてくるとは……思ってませんでしたし」


 さりげなく、私のフォローをするあたり、ミトリさんは善い人だと思う。

 それはつまり、私の出現がミトリさんの計画を狂わせたことになる。本当に……どこまでいっても、私は駄目な女だ。でも、だからこそ、挽回しないといけない。そう……すべきことは変わらない。むしろ、一歩前進したと思った方が良い。前向きに。前向きに……生きて行こう。


「ミトリさん……実はですね、私は通り魔を捕まえようと思ってるんですよ」


 私がそう言うと、ミトリさんは目を丸くして驚いて、彼女の口からは「えっ」と言葉が零れ出ていた。ミトリさんからすれば、私はセノンの元彼女で、ただの情報提供者……だけの存在だったのかもしれない。でも、それだけの存在だった娘が、いきなり通り魔を捕まえるなんて言い出したら……それは驚くよね。


「本気、ですよ? それに、ミトリさんも通り魔をどうにかしようと思ってる。そうですよね? じゃあ、私にもそのお手伝いをさせて下さい」


 ここまで至ってわかる。

 この事件……思ったよりも複雑怪奇で、私一人じゃ解決なんてできっこない。だからこそ……協力を、いや……ミトリさんの手伝いをしたい。私なんて歯車のひとつでいい。今は……ただ、何とかしたいって気持ちで一心だった。


 困惑した表情で、ミトリさんは言う。


「いきなりですね……。当たり前ですが、危険ですよ?」

「危険は承知の上です。それに……一時期ですが、セノンとは恋人だったんです。私が……彼を止めて、そして真実を知らないと……どうにもすっきりしないんです」


 私がそう言うと、ミトリさんは腕を組んで唸っていた。いい人だからこそ、私を巻き込んでいいのか考えているんだと思う。でも、違う。そもそも、私はすでに巻き込まれている。自分から渦中に飛び込んでいる。なのに、そこから弾き出されたのでは、私も納得がいかない。


「いいじゃん、協力してもらえば」


 そう言ったのは、ミトリさんではなく、店の奥から現れた女性だった。

 吊り上がった瞳は眠そうで、今も欠伸をしている。どうやら寝起きのようで、下着の上に薄いネグリジェを着ているだけで、私の感覚的にほとんど裸に近い格好だ。スタイルも私のような子供ではなく(あの姿のときは大人だけどね!)、大人の色気が感じさせるほどに魅力的だった。


「ああもう……キャルン。勝手なことを言わないでください」


 ミトリさんからキャルンと呼ばれた彼女は、ミトリさんの言葉を無視して欠伸をひとつすると、私の隣に座った。そして、私の顔を覗き込むようにして見つめて来る。え? どういうこと? すごい距離が近いんですけど。


「あ、あの? 何か?」

「いや、よくそんな胸元をおっぴろげた恥ずかしい格好をしてやがるなあーって思ってよ。私だったら赤面ものだね」


 いやいや、どういうこと!?

 たしかに、今の私はあの姿になったせいで胸元のボタンが外れて下着のホックがぶっ壊れたから、ちょっと言葉にしづらい服装ではあるけど、あなたの方がよっぽど刺激的な格好だよ! 

 ……という、突っ込みは口には出さず、私は慌てて胸元を隠す。た、たしかに……意識してなかったけど、ちょっとやばい姿だ。申し訳ないけど、帰りはミトリさんに服を貸してもらおうかな…。


 じゃなくて。

 いきなりキャルンさんが現れたことで本題がどこかに行ってしまったけど、真面目な話をしていたはず。私はミトリさんを見ると、いまだに考え込んでいる様子だった。それを見かねてか、キャルンさんが先ほどと同じようなことを言う。


「だからさ、人手足りないんでしょ? じゃあ、協力してもらえばいいじゃん」

「キャルン。話はそう簡単じゃないんです。協力するとなると、シャリーさんをこちら側に引き込むことになってしまいます」

「いいじゃん。だって、こいつってあの赤髪のプレイガールでしょ? どーせ、男を捕まえては遊んでいるような奴なんだし、こっち側に来るのも時間の問題でしょ」


 ……ひどいことを言われた。

 釈明しても、きっと信じてもらえないから言わないけど……。私から男の人を誘ったことは一度もない。今までの恋人は、全部声を掛けられたことが出会いだ。まあ、それでも尻軽女だなんて言う人はいるかもしれない。……それはそれで、言い返せないなあ……。でも、遊んでるつもりは、全くないよ?


 私の話題だったはずなのに、いつの間にかミトリさんとキャルンさんは言い争いを始めてしまった。それが、思ったよりも苛烈で、私が介入する余地が全くない。どちらも声を荒げる様子はないけども、発言内容はやはり怖い。……でも、無視はやめて欲しいな。そして、キャルンさんが私を貶める発言は、結構心に来るなあ。


「何度も言わせないでください。シャリーさんをこちら側に引きずりこみたくないんです」

「本人が手伝わせろっていうんだから、それは本人の責任だろうがよ。こいつも、ガキってわけじゃないんだし、自分の尻くらい自分で世話するさ。だろ? 赤髪ちゃん」


 二人のやり取りを傍観していた私は、いきなり話を振られて「え、あ、はい」と返事をしてしまった。まただ。何となく勢いに圧されてしまった。でも……今回は、これでいいと思う。私には、ミトリさんがどういう心配をしているのかわからない。けど……手伝いたいのは、本心だから。


「お願いします、ミトリさん!」


 私は立ち上がってミトリさんを見つめます。

 そして、カウンターに額をゴンと叩きつけるように頭を下げた。


「私も……何とかしたいんです! 手伝わせてください!」


 頭を下げた状態で目をぎゅっとつぶり、ミトリさんの返事を待つ。これで駄目だと言われたら……諦めるしかない。じっと待って……私の耳に聞こえたのは、拍手の音だった。それは目の前のミトリさんではなくて、横のキャルンさんの方から聞こえる。


「見直した! 見直したよ、赤髪ちゃん。……ほら、見なよママ。こんなにも頼んでるんだぜ? これを断っちゃ、恋の迷宮のママとして名が廃るだろー?」


 多分……私の後押しをしてくれたんだと思う。

 ちょっと、何を言いたいのかわからなかったけど、そういうことだよね?

 そして、ミトリさんをママと呼ぶことにすごい違和感があったけど……この状況で言える言葉じゃない。


 ちらりと顔を上げてミトリさんの方を見れば、私と目が合った。

 そして一息吐くと、今までの考え込んでいた顔から一変して、優し気に笑う。


「キャルンの言うことは気にしないでください。別に、そんな名前は廃れてもいいんです。私は、あなたの熱意に負けたんです。それに……たしかに、無関係ってわけでもないですしね」

「そ、それじゃあ……っ!!」

「ええ。こちらから、お手伝いをお願いします。……ただし、本当に危ないことは頼みませんよ?」


 そう言って、ミトリさんは手を差し出して来る。私はちょっと面食らったけど、慌ててそれを握り返す。握手なんて……本当、何時ぶりだろう……。そして、何だか仲間が出来たようで嬉しかった。横からキャルンさんが痛いほどに私の背中を叩いてくるけど、それでもやっぱり嬉しかった。





「じゃあ、改めて自己紹介。あたしの名前はキャルン。ここで働いてるおねーさん。まあ、ここの女の子たちのまとめ役ってところ。よろしくな、赤髪ちゃん」


 そう言って、キャルンさんも手を差し出して来る。

 私はちょっと考えて……握手をし返した。なんというか、苦手なタイプの人だけど……これから協力してやっていくのだから、いきなり不和の空気をつくっても仕方がないよね。


「えっと、私の名前は」

「知ってる。シャリーだろ? 有名だよ」


 ほ、本当に、有名なんだ。

 私の知らないところで、私の名前ってこんなにも広がってるんだ。しかも、それが悪名だから質が悪い。うーん……この事件が解決したら、女の子たちの間の私の悪評もなんとかしなきゃね。


「しかし、キャルンさん。名前を知ってるなら名前で呼んでいただけると……。その、赤髪のうんちゃらかんちゃらと呼ばれるのは好きじゃないので」


 うんちゃらかんちゃらで誤魔化した。

 自分で自分をプレイガールなんて呼びたくないし。

 しかし、キャルンさんは私のお願いに対し「あぁ!?」と凄んでくる。うう……思った通り、ちょっと怖い人だった。嫌われるのは一番嫌だけど、怒られるのも嫌だ。


「キャルン、怖がってますからやめなさい」

「このぐらいで怖がってちゃ、通り魔なんて捕まえられねえよ。いいか? さっきも言ったけど、私がこの店のリーダーだ」


 さっきと言っていることがちょっと違う気がするし、しかもリーダーってどちらかと言えばオーナーのミトリさんなのでは? と思うけど、キャルンさんの剣幕に圧されて私は頷くことしかできない。


「そして、お前は手伝わせてくださいと言った。つまり! あたしが上で、お前が下だ! わかったら、あたしに文句を言うな! いいな!!」


 横暴すぎる……。けど、怖くてたまらなかった私は、頭を二度、三度大きく振ってそれを承知する。とにかく……機嫌を取ってこの場をやり過ごさないと。私のリアクションが面白かったのか、それとも子分が出来たのが嬉しかったのか、キャルンさんは豪快に笑っている。ああ……調子に乗ると止められない人だ。そして、そんな彼女を止めることができるのは……。


「キャルン、それくらいにしないと……わかりますよね?」


 ミトリさんの表情は温和のままだけど、目は笑っていなかった。

 その冷たい声色に、私もキャルンさんもびくっと肩が震える。そして、小さく縮こまると席に座って、風と息を吐いた。


「それで、ママ。これからどうするんだ」


 切り替えが早いなあ!

 これは、私も見習わないと。


 ミトリさんはカウンターの前で洗い物をしつつ、「そうですね」と答える。そして、蛇口を捻って水を止めると、指を一本立てて言う。


「ひとまず、私たちが握っているカードは、セノンさんが通り魔……もしくはその関係者だという情報です。ならば、セノンさんから話を聞く……というのが定石でしょう」

「なるほど……。おい、赤髪。お前、あいつと付き合ってたんだろ? なら住所とか知らねえのかよ?」


 キャルンさんにそう振られ、私は首を横に振る。

 今考えると、セノンは自分の痕跡を残さないようにしていた。それはつまり、自分の住所だったり勤め先だったり職業だったり……そういう質問を、上手く誤魔化して避けていた。私がセノンについて知ってることなんて……ほとんどない。


「ちっ。使えねえ」

「す……すいません。手伝いたいと言ったのに……」

「こら、キャルン! ……気にしないでください、シャリーさん。他の手があります……。と言っても、やはり危ない橋を渡ることにはなるでしょうけど……」


 シャリーさんはそう言うと、作戦を説明する。


「ズバリ、私が今日やったことをもう一度するんです」

「というのは……つまり、誘われるのを待つんですね?」


 こちらから探せないのであれば、あちらから見つけてもらおうということだ。そうして、彼と接点を持つことが出来れば……あとは話を聞くだけだ。


「危ないというのは、つまり誘われた女性が同じように襲われるかもしれない……ということですね」

「はい。ですが、彼はすぐに手を出すことはないはず。どんな相手に対しても、親密になるまでの段階を踏んでいます。つまり……誘われるまでが勝負」


 となると……まず、今日誘われたミトリさんは厳しそうだ。

 可能性としてゼロじゃないけど、それでもセノンからしたら警戒されていると考えてられていても不思議じゃない。

 そして、私……なんて論外だろう。嫌われてるし、怖がられてるし、会ったら逃げ出されるレベルだし。


 自然と、私とミトリさんの視線がもう一人に集まる。

 目を向けられた本人は「え?」と驚きの言葉を漏らすと、不機嫌な表情を見せる。


「嫌だね。いいか? 勘違いすんじゃねえぞ、赤髪。あたしは怖いわけじゃねえ! あたしは男って生物が大嫌いなんだ。仕事以外であいつらと話すなんて御免だね。例え、ママの頼みであろうともだ」


 よくこの商売してるなあ……と思いつつ、私の視線はミトリさんに移る。

 ミトリさんも困った表情をしており、彼女の性格からして無理強いはできないのだろう。だとすると、店の他の女の子に頼むことになるんだけど……男勝りでがさつそうなキャルンさんはともかく、皆が皆強いとは限らないしね。


 とすると……やはり、私がやるしかない!

 危険は承知だけど……でも、だからこそ黒魔術師の私がやるんだ。


「ミトリさん、私がやります」

「シャリーさん!? いえ……その、あの様子ではあなたは……。それに、顔も知られてますし……」

「私のことは心配しないで下さい。それに……顔については、ちょっとした策があります」


 策? そう首を傾げるのはキャルンさん。

 ふっふっふっ……。

 黒魔術師が、黒魔術しか使えないと思ったら大間違いだ。いや、まあ……私は黒魔術しか使えないけど……。でも、魔術じゃなくても、私には両親から教えられた知識がある。とくに、魔術薬に関しては……お母さんのお墨付きだ。今回は……それを使って――。


「変身……しちゃいます」


 私は、そう言って、悪戯めいた笑みを二人に見せた。

 そして内緒ですよ? と、人差し指を口に添えた。

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