表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒魔術師は愛されたい  作者: 真空
黒魔術師は愛されたい
1/14

黒魔術師の秘密

 初めまして。真空と申します。

 少しでも楽しい作品にできればと思います。

 応援のほどよろしくお願いします。

 

 部屋の灯りは暗い。

 かといって何も見えないわけではなく、私の傍にいる彼の顔はよく見える。精悍な顔立ちで、いつものような自信にあふれた表情で私を見ていた。


 彼……セノンはいい人だ。

 私のことを、こんな私のことを愛してくれた。愛される資格なんて……ないかもしれないのに、私の傍にいて、私のことを愛してくれた。


 だからこそ、私たちは今日ここで、愛の契りを交わす。

 でも……その前に、やはり言っておかなければならないことがある。


「あのね……セノン」


 ベッドの上で、私を押し倒したセノンの顔に手を添える。緊張か……あるいはこれからのことを思って不安なのか、私の手は震えていた。それを感じたセノンは、私の震える手をぎゅっと握りしめる。


「安心して、シャリ―。優しくするから。だから、怖がらないで?」

「……ありがとう。でもね、違うの。私、あなたに言わなきゃいけないことがあるの」


 言わなきゃいけないこと? セノンはそう訊き直す。それに対し、私は頷く。

 そう……これからのことを考えれば、私の秘密をセノンに明かす必要がある。だけど……それを彼に告げたら拒絶されるかもしれない。そう考えると……私は、怖くてたまらなくなる。


「……なんのことかわからないけど、俺はシャリーを愛してるよ」

「うん。知ってる。でもね……だから、私はあなたに伝えなきゃいけないの」


 二人のこれからのために。

 秘密は……ない方がいい。


 私は意を決して、集中する。例えるなら、内側にある自分を引っ張り出す感覚。そして、それこそが私の本性であり、私の本質。そして……私の最大の秘密。

 すると、みるみる内に彼の表情が変わっていった。まあ、びっくりするよね。今まで赤髪の私が、毛先から黒へと変わり、闇の中に溶けるような色へと変貌するんだもの。瞳も緑から黄金へと変わり、闇の中に浮かぶ。加えて、体格も少しだけ……ちょっとだけ、身長が伸びて……色々と大きくなったりする。多分、セノンには、私が二、三歳ほど成長したように見えていると思う。


 漆黒の髪。

 黄金の瞳。

 魔性の身体に、妖艶な雰囲気。


 これが私の秘密。

 シャリー・ファム・ルルロンのもうひとつの姿。


「シャリー……君は……一体」


 驚いた顔でセノンは私を見る。目をぱちくりとさせて、今見たものが信じられないといった様子だった。先ほどまでの余裕は見る影もなく、狼狽しているみたい。


 別に、それで彼に幻滅なんてしない。確かに、頼りがいがあるところが好きだけど、目の前の彼女の姿がいきなり変われば誰でも驚く。それに……この反応はもう、慣れている。


「驚くわよね。ごめんね……騙してたみたいで……」


 私がそう言うと、セノンははっとしたような顔を見せて、そしてすぐに首を横に振って私の言葉を否定する。未だに震える私の手を再び握り、私にいつもの彼の笑顔を見せる。


「驚いたけど……俺がシャリーを好きになったのは、見た目じゃない。君の優しいところが好きなんだ。だから、君がどんな姿でも愛してるよ」


 その言葉を聞いて、私は我慢できず涙がこぼれる。

 ああ、この人なら……こんな私を受け入れてくれた人なら……きっと、私を愛してくれる。


「ありがとう、セノン。みんな……私のこの姿を見ると離れて行っちゃうの。だから……受け入れてくれて嬉しいわ」

「そいつらは人の上っ面しか見ない男たちだったんだよ。それに……今の君も、とっても魅力的だよ」


 心臓がドキンと跳ねる。

 やばい……。安心してきたら、すごいドキドキしてきた。今までも緊張してたけど、それは私を受け入れてくれるか不安だったからで……こうして、ここまで来ると……うわあ、本当にしちゃうんだ。私……上手くできるかなあ……。


「それにしても、一体これはどういうことなんだい?」


 セノンは私の黒い髪を撫でながら、訊いてくる。

 それがくすぐったくて、耳に手が触れると、不意に私の口から声が零れる。その反応が良かったのか、彼は意地悪な顔をして私の耳を愛撫する。


「ちょっ、駄目! 耳はっ……んっ!」

「ほらほら、言わないともっとくすぐるぞ?」

「言うから! それ以上、やられると、駄目だからっ!」


 まずい。すごい幸せ。

 いつか、こういう風に結ばれる日が来るって、夢見てたけど……それが、まさか今日だなんて。

 私はくすぐる彼から逃げつつ、言う。多分……自然と笑っていたと思う。それは、彼といる幸せと……これからの彼との生活に希望を抱いていたからで――。


「わ、私……黒魔術師の家系で」


 だから、そんなこと言わなければ、希望が絶望に変わることもなかったのに。


 突如、私に触れていたセノンの手が離れる。

 どうしたの? と、彼の顔を見れば、この薄暗い部屋の中でもわかるくらいに、表情が引きつっていた。顔も青ざめ、ゆっくりと私から距離をとっている。


 待って。そんな、待って。

 私を、私を受け入れて……。


「く、黒魔術師だって?」


 セノンの問いかけに、私は必死になって応える。

 嘘を吐けば良いのかもしれない。でも、ここで嘘を吐いても……きっと、すぐにばれる。だから、私は正直に彼に告げる。そうしないと、彼と本当の意味で愛し合えないと思うから。


「そう……。私は黒魔術師。この姿は……契約の証なの。で、でも安心して? 契約だけして、別に変なこととから、物騒なことはして――」


 私の言葉が終わる前に、彼はベッドから降りていた。

 慌てた様子で自分の衣服を手に取って、まるで私を化物を観るかのような目で見て、言う。


「黒魔術師なんて、聞いてない! そんな奴と付き合えるかっ!」


 セノンはそう言って、衣服も着ずに部屋から出て行った。いや、出て行ったというよりは、逃げ出したという方が、あの慌てた様子を正しく表現できるかも。


 何から逃げた?

 勿論、私から。


「あ、あはは、はは……」


 ベッドの上で裸のまま、私はなぜか笑っていた。

 今までの嬉し涙とは違い、今私の頬を濡らしているのは悲しみの涙。

 魔女の姿から普段の姿へと変わるけど、中身の私は変わっていない。

 だから、絶え間なく涙が流れ出る。


「うっ、ぐ。ひぐっ! えぐっ!」


 捨てられた。逃げられた。拒絶された。

 私は、また、愛されなかった。


「うわあああああああん!」


 一人、部屋のベッドの上で、私は泣き叫ぶ。

 寂しい。とても、寂しい。

 また、私は一人ぼっちだ。


 私の名前はシャリー・ファム・ルルロン。

 私は黒魔術師。

 私は……愛されたい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ