せいけんこわい
「魔王様、勇者が我々の軍団を蹴散らしこちらの城に迫っております」
側近から報告が入る、忌々しいことに勇者は単独で我々の軍団を倒しているようだ。
それ程に人間たちから勇者と呼ばれる者は、強い力を持っている。
我の力をもってすれば、倒せるだろうが危ない橋をわざわざ渡る必要もない。
何か勇者の弱点などが分かれば良いのだが。
「勇者には何か苦手とするものはないのか」
報告をしてきた側近に聞いていみる。
側近は少し考えた後に何か思いついたようだ。
「それならば、私が人間に姿を変えてやつに近づき弱点を探ってまいりましょう」
なるほど、それは良い考えのように思える。
「まあ物は試しか、やってみるとよい」
「ハハッ、魔王様の期待に応えてみせましょう」
魔王様から命令をいただいた私は、人間の商人になりすます。
野営をしている勇者の近くで部下に私を襲わせ、助けられたところで恩を返すふりをして近づくという計画を立てた。
勇者はお人好しと聞く、この計画なら成功するだろう。
「勇者様、危ないところを助けていただきありがとうございます」
「いえ、人々を救う勇者として当然のことをしたまでです」
予想通り勇者は、魔物に襲われているふりをした私を助けに来た。
今は、野営をしながら勇者と雑談をしているところである。
「いやー、やはり勇者様はお強いですね、もう怖いものなしといった感じですね」
「魔王を倒そうとしていますから、そんなものがあっては…いやしかし」
勇者は何か言い淀んでいる。
「おや、そのご様子ですと何か苦手なものがあるのですか」
「そうですね、恥ずかしながら私は聖剣が怖いのです」
「聖剣というのは、魔王が城に封印しているという」
「そうです、今は封印しているあるので良いのですが、もしあれを一目見てしまったら恐怖のあまり死んでしまうでしょう」
ううむ、なんとも変わった奴だ、しかし勇者の顔は青ざめているではないか。
これはいいことを聞いた、さっそく魔王様に報告しなければ。
勇者と別れた私は、意気揚々と城に帰還した。
「魔王様、勇者の奴は聖剣が怖く一目見たら死んでしまうと話しておりました」
「それは本当か、ならばさっそく聖剣の封印を解き城の宝箱に移すのだ」
どうも、勇者とやらは宝箱を開けなければ気が済まない生き物らしい。
これなら、勇者が勝手に宝箱を開け聖剣を目の当たりにしてそのまま死んでしまうだろう。
側近に聖剣の入った宝箱を城の中で目のつく場所に設置させる。
あとは、勇者死亡の報告を待つだけだな。
「魔王様大変です。勇者が間もなくここまでやってきます」
「なに、勇者は聖剣を見て恐怖のあまり死んだのではないか」
もしや、聖剣の入った宝箱に気付かなかったのではないか。
そんなことを考えていると、扉が破られ勇者が飛び込んでくる。
しかも、その手には聖剣がしっかりと握られているではないか。
その瞬間に勇者が側近の正体を見破り、うそを話して聖剣をまんまと手にしたことを理解する。
「勇者のくせにうそをつくとはなんてヤツだ」
側近が勇者に向かって叫んでいる。
怒り狂った側近はさらに勇者に叫ぶ。
「この卑怯者め、お前が本当に怖いものは何か言ってみやがれ」
すると勇者は側近に目もくれずに、鋭い目つきで我を睨みつけ聖剣を構えて言い放った。
「そうだな、ここらでそろそろ『魔王』が怖い」