伝説の勇者『あ』
「お父さん伝説の勇者様について教えて」
俺の息子が尋ねてくる。
この世界は度々、魔王の手によって危機に陥っている。
その度に勇者が現れ、魔王軍を蹴散らし世界を救っていくのだ。
現れる勇者は毎回違うのだが、その中でも『伝説の勇者』と呼ばれるている存在がいる。
「そうだな、伝説の勇者様は物凄い速さで魔王軍を蹴散らしていったらしいんだ」
「すごーい、どのくらい速かったの」
「他の勇者様の何倍も速かったらしく、動きにまったく無駄がなかったと聞いてるよ」
俺も噂でしか聞いてないが、その動きはかなり人間離れしていたらしい。
さらに、息子が尋ねてくる。
「ねえ、他にももっと勇者様について教えてよ」
「ああ、伝説の勇者様はかなり変わった名前をしているんだ」
「なんて、名前なの」
「そうだね、彼の名前は『あ』というらしい」
「へー、なんだかとっても変な名前だね」
変な名前だがそれには特別な理由があるのだろう。
なんて言っても『伝説の勇者』だからな、俺たちの想像もつかない特別な理由が。
「なあなあ、この前ゲームのタイムアタックしたんだってな」
「おう、事前にやりこんで時間もかけて下見もばっちりしてな」
「画面起動の時から時間を計ったんだよな」
「ああ、だから名前も一番短く打てる『あ』にしてやったよ」