「異世界での生活」35
火の無いところに、とは良く言ったものである。煙が見えているという事は必然的にそこに火元が存在している――この世界では通用しない場合もあるようだったが――。
「燃えてるな」
「だな……だけどどうやって消すんだ? 水なんて持って来てないし布で叩くって言っても乾いた布じゃ効果ないぜ?」
「そんなのこうすりゃ良い」
まだまだ小さな火種。わざわざ掻き集めたのか小枝や葉が積み上げてあり、それらに引火して細い煙が伸びている。しかし消火の手段がなくどうしたものかと昴が頭を悩ませていると隣から目を眩ませる程強い輝き。それから吹く強烈な風。
「っと……それが“武器召喚”ってやつか……?」
火種ごと吹き飛ばしたのはセルディの握る両刃の剣だ。月明かりを浴びて更に輝くそれを振るようにしてから腰へ。いつの間にか現れている鞘へと収める。
昴もここ数日でどうにか基本と呼ばれるタイプの魔法の名前については学習出来た。あくまでも名前のみ。だからこそ確認の意味も込めての質問である。
「便利だな」
「そうでもねえよ。自分で持ってる物しか召喚出来ないんだからな」
「へえー……どっかに隠してあるの?」
「そんなの言える訳ないだろ。そんな事よりも……やる事がある」
与太話をしている場合ではない。あの程度の小ささだったという事は、犯人はまだ近くに潜んでいる可能性が高い。迅速に見付け出し、確保しなくては。
「この見通しの悪いとも言えない微妙な場所で隠れようとするなんて高が知れてるけどなあ!」
そう言って再び抜剣。ここには植樹も少なくセルディの言う様に身を隠す場所は予想しやすい。適当に剣を振ってもすぐに行き着くであろう。予想は的中。力の限り振るわれた剣、まるで紙を裂くように一本の樹を簡単に真っ二つに。
「なんつーパワーだよ……」
その恐ろしい威力に昴は若干引きつつも携えていた縄を準備。先を輪にしていつでも掛けられるように用意してきた。しかし今更ながらこれは無意味なのではないだろうかと首を傾げてしまう。魔法があるような世界で単純な物理拘束が有効なのかと。
巻き上がる土煙の中、動く影。犯人か。
「よし、行くぜ……!」
そう呟いてセルディは真っ先にその影を追う。遅れて昴もその後ろを。これだけ大きな音を出せば誰かしら気付きそうなものではあるが、一向にその気配はない。何故か。
(考えても仕方ないか……今は、あっちだ!)
同じ方向に追い駆けても確実に捕らえられるとは限らない。だったら自分は周り込もうと決め、植えられた草花を飛び越える。相手の動きを予想しながら走るのは難しいが、セルディが所構わず攻撃を仕掛けているお陰で大よその位置は掴めるのだ。学院の備品であろうが、そんな事は厭わずひたすら剣を振るっている模様。しかし、そもそもこの状態では近付けないではないか。巻き添えを受けてしまうのはごめんである。




