「異世界での生活」32
投げるように布を取り払うと、そこにあったのは知った顔であった。その者は急に光を浴びたからなのか既に閉じていた瞼を更に強く閉じ、顔を背けるように寝返りを打つ。
「女の子、ですね……」
「な、なんだ生きてるのか……じゃねえよ! 何でこんなとこで寝てるんだよ! 昼寝か? 昼寝なのか!?」
安らかな寝息は昴の声によって途切れ、ゆっくりと上体を起こす。しっかりと地面にも布を敷き、頭の部分には本に布を適当に巻きつけて作ったと思われる枕を置いている辺り用意周到である。そして眠そうに目を擦りながら腕を伸ばす。伸ばしているのは昴の手にしている布……恐らく掛け布団である。
「この期に及んで寝るつもりかアイリスよ……」
まるで死体のように地面に転がっていたのはアイリスだった。寝惚けているのかどうやらもう一度寝ようとしているではないか。普段はやたら男勝りな部分が見て取れるのだが、細かい所作などに女の子らしさを残している彼女。どちらが本当なのだろうか。
「っと……そこまでして寝たいのか? おい起きろって」
「どうしてこんなところで寝ているんでしょう?」
「俺に聞かれてもなぁ……」
まるで猫じゃらしを追いかける猫のように掛け布団へと手を伸ばすアイリスに、溜め息を吐きながら昴は肩に手を掛ける。ここで昴は思い出した。つい先日肩に触れようとして投げ飛ばされたばかりだと。案の定。手首をがっちりと掴まれ、昴は体に降りかかるであろう衝撃に耐える為に全身に力を込める。寝惚けているというのに物凄い力で、昴の体は地面へと吸い寄せられ――
「スバル……?」
しかしそれは端から見ると昴自身がそうしたようにも見えてしまうようで、レイセスはその動きに目を丸くする。
「なんでこうなる……?」
昴を掛け布団と間違えたのか手首を掴んだまま地面へと引き摺り込むような形に。どうにか腕力で直撃する事は耐えたのだが、これではどうも昴がアイリスを押し倒しているようにしか見えないのだ。
「くしゅっ……」
これまた妙に可愛らしいくしゃみをすると同時、ゆっくりとその瞳が開く。今度は寝惚けているのとは違い焦点が定まっているものだ。流れる沈黙。昴の背中には冷や汗。無駄かもしれないが一応言っておこう。
「おはよう。俺は悪くないからまずはその手をゆっくり放せ。なっ?」
「っ……!」
何となく予想はしていたのだがそれ以上にダメージが大きかった。腹部に足を当てられそのまま書籍の山へ落下。埃塗れになりながら立ち上がると真っ赤になったアイリスが立っているではないか。勿論紅くなっているのは顔だけではなくて。
「そんな奴だとは思わなかったよ……! 寝込みを襲うだなんて……何をするつもりだった!?」
「大丈夫だ落ち着け。何もしてないとは言うんだけどこれはもう手遅れかな?」
燃え盛る炎が右腕を飲み込むように発生している。当たったら丸焼けだろう。しかし昴にはどうする術もない。説得出来るのならしたいところだが。




