「異世界での生活」25
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学院には大きく分けていくつかのエリアがあるようだ。
まずは昴が今居る学生寮の密集しているエリア。地図で見て気付いたが、男女の寮の間はそれなりに距離が開いており、更には門のような遮蔽物まで存在している模様。侵入に魔法やらを駆使する輩が居る事を考慮しての警備なのかもしれない。
次に授業が行われる主となってくるエリアとそれに隣接する教員棟、事件のあった資料棟。地図上で見る限りでは教員棟から資料棟への監視の目は相当厳しく出来そうに感じるのだが、人気の無さや妙な古臭さのせいで死角が多い可能性がある。重点的に回るとするのならやはりここではないだろうか。
(ただそう毎日同じ場所に現れるかって言うと……微妙なところだよな。犯人は犯行現場にって良く聞くけど実際そうなのかはな)
頬杖を突き、右手にはペンを。羽ペンではなく鉛筆のような木製だ。それの先で地図を叩きつつ考える。昴の世界のようにどこに何があってどの程度の距離があるという詳細な地図ではなく、あくまでも位置関係の表示が主となっているので、回るとなれば実際の時間感覚とは違ってくるだろう。何時に出て、何時に戻る、というのも考えなくては。
(とりあえず完全に寝静まった辺りを狙って……あと少しかな。正面から行くのは事情が分からな過ぎるから。うん、窓から出られるな。確かロープみたいなの入ってたし)
最初に支給されていた物品の中には衣服や食料などだけではなく、少量の武器と思しき物も入っていたのを昴は確認している。使わなさそうな物は全てベッドの下の隙間に隠してあるので、それを引っ張り出しながら予定を組む。幸いロープは太い。昴の体重程度なら耐えてくれるだろう。映画や何かのように布団やシーツを結んでというのも案としては持っていたが耐え切れるかどうか不安だったのだ。窓の外に垂らし、長さを見る。
「長さは十分、かな……意外に高いなこれ」
「ホントに行くの……?」
そんな忙しなく歩き回る昴の様子を見ていたカルムが心配そうに声を投げてきた。
「別にこんな夜から行かなくても……」
「夜の学校ってさ、すげえ楽しいんだぜ? バレるかバレないかのスリルが」
「うーん……」
「冗談だよ。俺だってそこまでリスクの高い行動はしたくないし。だからこそこうやって練りに練っての決行なんだ」
今日回ろうと思っているのはこの近辺の学生寮エリア。もし警備や何かが回っているのだとしたらそれの動きも把握しておきたい。その為の地図とペン。隠れる為の黒い布。腰にロープを巻きつけつつ改めて頭の中でルートを描き再確認。
「よーし。あとはこれをベッドの足に括り付けてっと」
「凄い行動力だよね……」
「何事も動かないと変わらないからなぁ。やってみねえと分からないならやらないとな。それじゃ、行って来る。寒かったら窓閉めてくれよ。鍵は無しで」
「うん、気をつけてね」
窓枠に足を掛ける。身長の高さが加わって余計に高く感じるが、風は無く行くなら今だ。
(テレビで見たレスキュー隊みたいにはいかないだろうけど……)
ゆっくりと壁伝いに降りていく。下は見ないようにと心掛け、ただ壁の継ぎ目に爪先を当てながら。初めての経験に緊張しているのが自分でも分かる。草木も寝静まった夜、自分の心音だけが響いているような感覚。下の部屋まで到達。窓を避けるように進路を変え、再び足を動かす。たったこれだけの移動だというのに額には汗が滲む。
「まだちょっとしか進んでないぜ俺……」
だが進むに連れて少しだけ慣れてきたのか動きが早くなり、地面までもう少しだ。周囲に人の気配なし。この距離ならば、と軽く跳ぶ。柔らかい草の地面に着地。無事に外に出る事は出来た。腰から外し、垂れたロープを窓に当たらない程度に優しくずらす。持ってきていた木の置物にそれを巻きつけ、更に動かないようにと地面に突き刺す。外からは丸見えだが、これで良いだろう。真っ先に目を着けたのは大きな植木だ。まずはそこに隠れて様子を伺うとしよう。
「作戦開始だ」
そう呟いた昴がどことなく楽しそうなのは気のせいだろうか。




