「異世界での生活」21
「まあ、楽にしててくれないかな。そんなに身構えなくても大丈夫だと思うんだけど」
「別に。そういうつもりじゃないけどな……裏があるような顔してるから」
「良く言われるよ」
「だろうな……」
目の前に出されたカップに目を落とす。薄い桃色の液体が注がれている。雰囲気で言えば紅茶であるのだが、手が進まない理由があった。
(作法とか、あるのかな……)
昴が無言で適当に頷いている間にもモルフォの話は続いている。しかし、昴にはそれら全てが一切耳に入っていなかった。ただ目の前のカップの中を見詰め、飲むべきか飲まざるべきかと考える。またもや勉強しなくてはならない部分を見つけてしまったようだ。
(面倒だな……!)
喉が渇いていた事もあり、それに様々な菓子類が置かれている状況で一つも口にしないのはそれこそ失礼なのではないだろうかと判断し、ようやく液体を口に運ぶ。
「あ、美味い……」
「ん? ああそうだろうね。何せこれは領地で栽培されたものの中でも最上級の茶葉だからね。アレク」
昴の好反応を見逃さなかったモルフォ。傍に控えていたアレクを呼び、何やら耳打ち。するとアレクは人形を連れて部屋を出て行ってしまう。
しかし昴は何の気なしに次は菓子へと手を伸ばす。見た目通りのクッキーだ。甘すぎず、適度な塩加減が茶とマッチしており非常に好ましい。
「警戒心も解けたようで何より。だけど、実はちゃんと裏があったんだ」
「何だよそれ……」
せっかく昴の気分が良くなって軽食をしていたところに飛んできた言葉。勿論この一言で食欲も失せてしまう。伸ばし掛けていた手を引っ込め腕を組む。
「あ、生徒会への勧誘ならいらねえぞ。絶対入らないから」
「……どうして分かったんだい?」
ここに来て初めてモルフォの表情が変化。大きな瞳を丸くし、驚きを表現しているではないか。しかし、一体何故昴はこうなる事が予想出来たのだろう。
「こういう手厚い歓迎、まったく知らない生徒会長直々にってのは大体そういう勧誘だって……、漫画じゃ相場が決まってるんだよ。大体さ、会って二日くらい? そのくらいの人間にそんな仕事を任せる方がおかしいんだぜ。俺なんかより優秀な人材なんてゴロゴロ転がってるだろうしな。自分で言ってて悲しいけどしゃあねえよ」
途中で新たにクッキーを口に詰め込みながら話す。適当な事を言っているようではあるのだが、正解だったようだ。モルフォが言葉を続かせないので昴は指に付いた塩のような粉を皿の上で軽く払いながら言う。
「どういうつもりだったかは知らないけど……はっきり言うぜ。生徒会には入らない。ま、これを食わせて貰った事には感謝するよ」
それだけ告げると昴は椅子から立ち上がって立ち去ろうとする。
「ま、待ってくれ。話はまだ始まっても――」
「じゃあな。俺は勉強しないといけないから」
まるでこれでは自分が優等生みたいではないか、と自身を笑いながらモルフォに背を向ける。後ろでは何やらモルフォが引き留めようと言葉を投げ掛けているのだが、昴にはもうここに居る理由はないと言わんばかりの無視。
この態度に業を煮やしたモルフォ。口の中で何かを呟く。
昴は背中に何か冷たいものを感じたが、気のせいだろうと割り切って扉に手を掛けた。その時だった。自分の体の言う事が聞かなくなり、視点が急激に上昇したのは。




