「異世界での生活」17
「はあ~……何だこれ一種の城じゃんか……」
見上げるようにして言う昴。前方には灰色の石壁が聳え立つ。寮よりも少しばかり大きく、豪華な城と言うよりかは強固な要塞のような見た目である。門前には二体の大きな置物。昴の世界で言うならライオンに似ているだろう。それが牙を剥いてこちらに威圧感を与えている。
「ほんとにここなの?」
「そうだよ。生徒会長……正確に言うとあいつの家の力で建てたようなもんだけど」
「そんな権力あるのかよ……」
要するにこの建物は学園の所有する物ではなく、モルフォの、クレイ家の物という事だ。しかしここも学園の土地のはず。そこに干渉出来るという事はかなりの影響力だ。レイセスの事を知っているのも頷ける。
「ま、かなりの名家なのは間違いないね。兄の方はどうしてああなったのか知らないけど」
思い浮かべるのはセルディの姿。確かに名家の出である者として、彼の言動はそぐわないだろう。それこそアイリスや自分に近いような感覚すら覚える。二日目にして自分が不良生徒である、とは言いたくも思われたくもないが。
「それじゃあアタシはここで」
「えー、帰るの?」
「そりゃあそうだよ。だって行っても意味ないし。じゃ頑張りなよ」
長い髪を翻しながらアイリスは去っていく。諦めてここからは一人で戦わなくてはならないようだ。戦うとは言うがただ行きたくない自分を奮い立たせているだけなのかもしれないが。
「さあて……」
門の前に立って考える。一体ここはどうやって入れば良いのだろうかと。両脇に設置されているまるで番犬のような置物に挟まれながら困惑する昴。しかしここで思い出す。そう言えば昨日、置物に不思議な現象が起こった、と。昴はその内の一体の前に付き、その威圧感たっぷりの硬い鼻を突き始めた。
「……」
返って来るのは石の冷たさと硬さ。じっと睨んでみるが何ら変わらない。これはただの置物なのだろうか。だが昴は諦めずに撫でたり叩いたりを繰り返す。素直に門扉をノックでもした方が良さそうだが、何分この世界のルールが把握出来ていない。下手に動いて攻撃されてしまうのは不本意である。だからなるべく慎重に、且つ確かめながら知識を付けていく。
「開かねえ……帰ろうかな……」
「……何やってんだお前?」
「……!」
端から見れば明らかに不審者である昴。いきなり後ろから声を掛けられれば誰しもがこうなってしまうだろう。びくりと肩を震わせ、しかし何事もなかったかのように振り向く。
「な、何だよ驚かすなよ……」
背後に立っていたのは、くすんだ金髪を逆立たせ、制服の至る所を改造して着崩した少年。そう、今し方会いに行こうとしているモルフォの兄であるセルディだ。
「あっお前、昨日の……!」
今にも殴りかかって来そうな剣幕で昴に詰め寄るセルディ。だが別にここでやり合おうと昴は思っていないし、昨日の分はしっかりと片付けたのでこれといった恨み辛みはない。だから無抵抗だという意志を示すために両手を軽く上げる。
「俺は殴り込みに来たんじゃないんだから……その手をやめろよなー」
「誰に命令してんだ!」
「命令じゃねえよ提案だよ。これだから血の気の多い奴は……」
「何だと!?」
言っている割には煽っているようにも見えてしまうのだが、これで良いのだろうか。
「……で、何しに来た?」
「あぁお前のとこの弟に呼ばれてな」
「何やらかしたんだよ」
「どうして皆そう言うんだ……」
「オレの知った事じゃねえけどな。おい、来ねえのか」
腕を組んで考え込んでいた昴を無視してセルディは先に行こうとするではないか。急いで昴もその後を追う。しかし一体どのようにして開けたのだろうか。




