「異世界での生活」12
*****
既に昴の目の前の皿の中は全て空っぽ。話している間に食べ尽くしてしまったようだ。少々足りない気もするが、まだ食べたいという気分ではないので大人しくしていよう。
「と、まあそんな感じだったよ」
一応事細かに話してみたのだが、これで良かったのだろうか。周りには多くの生徒が居る。あのフェノノンと同じく加護が無いと知れ渡るのはどうなのか、と。今更ではあるのだが。
「凄い事、ですよね……?」
「どうなのかねー。何とかと天才は紙一重って言うしな」
どういう反応をすれば良いのか困っている様子のレイセスに昴はそのような言葉を投げる。しかし、もし自分の言った通りだとしたら、レイセスと同じ学科での勉強は不可能なのではないだろうか。何しろこの学園の中でもエリート中のエリートが集まっているのだ。そんな所に投げ込まれてまともにやっていけるのか。他の学科で過ごした方が無難なのでは。
(正直ンなもん無理だーって大声で言いたいけど……)
相変わらず上品に食事を続けているレイセスに視線を送る。きっと昴が総合学に送り込まれたのは実力や素性などを全て何も無い、まさしく“白紙”と見て、ただレイセスのアイギアであるから一緒に居ろ、という事なのだろう。
(そういやここに来てからその単語聞いてないな。帰ったらカルムにでも聞いてみよう)
やれ、と言われているのならやるだけだ。出来る範囲で追いついてやれば良い。名前はどうにかなったのだ。他もどうにか出来る。何も恐れる事は無い。
そんな時、ふと背後に人の気配。
「やあ編入生のモロボシ君。話は聞かせて貰ったよ」
気付いて振り返ると、そこに立っていたのは、この学園の生徒会長であるモルフォだ。変わらず端整な顔立ちに微笑を湛えている。変わっているのは先日のように周りに取り巻きは居ない事。
「モルフォさん……」
「これはこれは“レイセス”様もご一緒で」
「あの、そこでその名前は……」
「おっと失敬。大丈夫、誰も聞いてませんよ」
レイセスにはわざとらしく頭を下げ、整った顔を優しく笑みの形に。しかし昴は今の行動だけで心地が悪くなる。何故彼が本当の事を知っているのかは知らないが、そんな事はどうでも良い。ただ一言、言ってやりたかった。
「俺さ」
席を立ち、向き直る。
「何ですか?」
「お前みたいな性格の奴一番嫌いだわ。本当ならここでぶん殴っても良いんだぜ?」
脅しにも似た文言を叩き付け、威嚇。どうやらレイセスを困らせた事に、いや、相手の嫌がる事を平然とやってのけた事に対して怒っているのか。
「兄さんみたいな事言いますね。でもそういうのも嫌いじゃないです」
「俺は嫌いだって言ってるんだが?」
「あなたとは一度しっかりお話したいなと思いましてね? 今日の授業が終わり次第、僕の部屋に来てくれませんか?」
「話が噛み合ってないんだけど。……行かないなら?」
元から行く気はないが、何故か挑発してしまう昴。咄嗟に殴り掛かろうとでも言うのか既に拳は臨戦態勢。準備万端である。しかし冷静になるとここでまた暴れるのは得策じゃない。それに思い出した。あの巨大な人形の姿を。例え昨日のようにレイセスに力を貰ったとしても、アレへの対策は無い。それに今はもう生徒だ。下手に騒ぎを起こすのは得策ではない。
「僕は一人で寂しく待ちます」
「……覚えてたら行く」
「ありがとうございます。では、また後程」
周りへの迷惑を考えた場合、これがまともな作戦だろう。それに、どうやらレイセスはモルフォの事が苦手なようで、先程から俯いたままである。なんにしろここは丸く収めるのが正解だと判断。モルフォの後姿を見送ると、昴は溜め息を吐きながら椅子へ。
「ごめんなさい、私どうしてもあの人が苦手で……」
「苦手な人くらい居てもおかしくはないさ。まったく飯が不味くなるぜ。俺は食い終わってるけど……あとでで良いけど、何でレイの事知ってるのかも教えてくれ」
周りには聞かれないように細心の注意をしながら呟くと、レイセスは力なく頷く。
(あいつには気を付けないといけないみたいだな……)
この世界に来て初めて敵対意識を持った相手だ。慎重に対峙していこうと心に誓う。
*****




