「異世界での生活」11
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時は過ぎ、既に昼食の時間である。どうやらこの食堂は金銭面でのやり取りは無いらしく、生徒証さえあれば飲み食い自由なようだった。ただそれはあくまでも一人前のみで、追加で注文する分には金が必要になるようだ。このシステムはまず通貨の単位を覚えなくてはならない昴にとってはとてもありがたいし――どうやら最低限の資金は支給されたらしい――、他の学生にとっても嬉しい限りだろう。食べ盛りで足りない場合は追加注文すれば良い訳だし、もしこのシステムが自分の世界にもあったらどれだけ平和な事かと昴は思う。
「まあ……そんな事する金が、国にも学校にもねえんだろうけどな」
言いながらパンを齧る。パンの柔らかい甘味と香ばしさが口の中に広がる。周りを見れば千切って食べている者が多いが、昴はそんな面倒な事はしない。そのまま丸齧りである。
パンの他にも目の前に置かれたプレートにはいくつかの品。スープだったりサラダだったりと見た目で言えば洋食のような感じである。ただ中身の食材がきっと違う物なだけで、味は何か違いがあるのか分からない。しかも美味いしそこそこの量もある。さすがと言うべきだろう。
「ところでスバル、今日の検査の結果なんですけど……」
テーブルを挟んでいるレイセスがそのような質問をおずおずと投げ掛ける。昴の適正検査はあの後昼食の鐘が鳴る直前まで続いていたのだ。その間ユーリエルは他に受け持っていた授業を全て自習に変更、アンリは保健室を締め切り状態に。そこに昴もずっと居た訳だが、正直なところ自分は居なくても大丈夫だったのではないかと思っていたらしい。
「あーそれな。話すとそこそこ長くなるんだけどな――」
手に残ったパンくずを払いながら昴は思い出す。
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「これはまた新たな原石の発見かもしれないね!」
「そうですね。もしこれが本当なら実質二人目、という事ですよね?」
「うん。彼と同等の天賦の才があるのか……さすがは推薦で編入した男だよ」
何やら嬉々とした様子で会話を弾ませている教師二人。しかしこうなってしまうと昴は完全に蚊帳の外。話には付いていけず、ただただ外を眺めるだけ。
(今、何時くらいなんだろう……疲れてきたなぁ……)
椅子に座らせられて数時間は経っただろうか。何やら昴の加護についての談義が行われているのだが、本人には意味が理解出来ないのでそこに居るだけ。
時折話を振られて驚いたように頷く。そして話が逸れると置物のように固まる。これの繰り返しだった。
こんな事なら字の勉強でもしたいくらいだ。自身の名前とほんの少し文字が読める程度にはなったが、例えばユーリエルの手にした本に書かれているものは完全には読めない。途切れ途切れ、部分的に文字を紐解く事が出来るかもしれない、というレベル。
暖かな日差しを浴びていると次第に眠くなってくる。眠気も大きくなり、睡魔の仲間になってしまおうとしていたそんな時だった。不意に大きな声で話し掛けられた。
「結論が出たよ!」
不意打ちにびくりと体を震わせる昴。危うく寝てしまうところだったようだ。眠い目を擦り、姿勢を正す。
「君の加護は……結果から言うと見えなかった。つまり加護を受けていないっていう状態で、とても珍しいんだけど……」
「何だかそれはそれで嫌ですね……」
まるで自分だけが見放されてしまったかのような。少しだけ寂しい気持ちになってしまう。
「でも大丈夫。君と同じ状態の生徒がもう一人居るんだ」
「もう一人……? そんな珍しいのに?」
自分のように加護を受けていないレアな人間が居るのか。昴はそう思う事で仲間意識を持とうとする。
「君も知っているだろう、フェノン君だ。彼も同じように、加護が見えなかったんだ」
「あいつが……」
共通点は無さそうだが。この学院で一番のフェノンとここに来たばかりで何も出来ない昴。今度見かけたら話してみるとしようと決めた。
「だから君も、もしかしたら何か内に秘めた凄いものがあるかもしれない!」
「いや、俺は……」
少しだけ、ほんの少しだけそうだったら恰好が良いなと思ってしまう昴。だがきっとそんな事は無いだろう。再びテンションの高くなった教師陣を尻目に、昴は考えていた。加護が無い理由、それは自分が『この世界』の本当の住人ではないからじゃないのか、と――
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