「異世界での生活」10
朧気ではあるが加護とやらについては把握する事が出来た。しかし、ここで疑問が生まれる。本来は入学前などに行うと聞いたが、昴は既に総合学への編入が決まっていた。この結果次第では編入先が変わってしまうという事なのだろうか。確かに、自分にこの学院の全ての授業を網羅しろと言うのはかなり酷であるので助かると言えば助かるのだが。それではレイセスの面目も潰してしまいかねない。
「よし、そろそろ良い頃合かな……」
「そうですね。きっと大丈夫ですよ」
「ではでは……」
そう言ってユーリエルは再び試験用の眼鏡に取り替える。これでようやく自分への加護が判明するのだ。昴は生唾を飲み込み、少しばかりの緊張と期待が入り混じったような不思議な感覚に心を躍らせていた。もし自分ならどれが良いだろうか。色なら赤が好きだからエリュイが良いな、ととても楽観的である。
「うーん……これは……」
「ど、どうかしたんすか? そんな難しい顔を……」
眉間に皺を寄せ、何やら唸っているユーリエル。自分の体に一体何が起きているのかと不安になって手元などを見てみるが変化はない。勿論痛みも感じない。
「いやね? 加護が掛かってるのが左手と額だけっていう不思議な事になってるんだよ」
「左手と……額……普通の人はどう見えるんですか?」
「大体の人が全身を覆うようになってるの。だから、その……部分的なのは凄く珍しい、ですよねお師匠様?」
「その通り。しかも掛かってるのがほぼ純色のゲイルと……金に近いゲイルで別の色なんだよねぇ……と言うかそもそも純色自体が相当珍しいんだよ。うちの生徒の中でも数人だし」
「そうですね……ゲイルの生徒を調べてみますか?」
自身の左手を見る。ついでに額も擦ってみた。昴はここで何かを思い出しそうになる。記憶のどこかに何か、引っ掛かりがあるのだ。教師二人が昴の加護について話し合っている間、昴は記憶を辿る。左手と、額。ここに何らかの共通点があるのではないだろうか。
(……可能性としては、あるんだろうなぁ)
思い当たる節があった。それは昨日の事だ。
「他人の影響受けるんだったら、そういう事なんじゃないかって思うんですけどね……」
昴が小さく呟く。更に口に出してみて思い出せる言葉があった。自分の体は魔法への親和性が高い、と。これはもう昴でも分かってしまう。
「あのーレイの……レイセ――シアさんとアンリ先生の加護はもしかしなくてもゲイル? なんですよね? 俺は昨日、左手を握られる事でめっちゃ強くなったし、額に触れられた事で体も元気になりました。これじゃないですかね? ってかこれですよね?」
「なるほど……その可能性はあるけど、日を跨いで魔法の力が体内に残るなんて……」
昴の言葉は完全に正解ではなかったのか、腕を組んで考え込むユーリエル。
「親和性が高いから、でしょうか?」
「ん?」
「彼、凄く魔法との親和性が高いみたいなんです。昨日も完全な状態まで回復したみたいで」
「そう、なのか……あの状態から……今はその線で考えてみよう。だとすると、君にはもう一つ問題が出てくるんだよ」
眼鏡のレンズの奥で目を鋭くして昴の体を隈なく見ていく。未だに見えているのは左手と額のもののみだ。それの何が問題なのかと言うと、答えは一つ。
「君には、月の加護が無いという事になってしまうんだ」
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