「異世界での生活」07
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大きな欠伸を一つ。それを見ていたユーリエルは何が可笑しいのか肩を揺らしているではないか。
「おや寝不足かい?」
「え? ……まあぼちぼちと、ですね」
欠伸をしながらも昴は学習を止めない。教室名を文字として片っ端から覚えていこうとしているのだ。まだまだ理解の範疇ではないが、良く見ていくと同じ形をしていたりするものが多い。
まるで話が上の空状態である昴に対してユーリエルはどこか楽しそうである。元から笑っているような顔をしていたような気もするが。
「今日は早速叩いて起こされたんだってね」
「話が早いっすねぇ……頭蓋骨が陥没するのかと思いましたよ」
「ケンだって昔は相当な警備隊員だったって聞くし……そりゃ痛いだろうな」
「めっちゃ痛かったんですよ……? 永眠しかねないレベルですわあれ」
言いながら自身の額を擦る昴。彼の言う通り、昴は叩き起こされた。カルムが部屋を出たのを見計らっての強烈な一撃だったという。深い夢の中に居た昴が一瞬で現実世界へと還って来たのだから。
「まさか初日からやらかすとは……」
「それでも間に合ってるじゃないか。何か魔法でも使った?」
「ただ走っただけっすよ。……だって俺にはそんな――」
尻すぼみになっていく昴の声を掻き消したのは扉の開く音だった。その場所には見覚えがあった。白を基調とした壁面、光を柔らかく取り込むために細工された窓、そして真っ白な仕切り。視線を上方へ。相変わらず読む事は出来ないが、それでも感覚的に掴んだ。
(やっぱりアレが室、って字だと思っても良さそうだな……って事は保健室で合ってそうだな……あ、でも医務室とかありそう……)
そう、昨日運び込まれた保健室である。そこには昴の気になる――耳を持つ――彼女が居た。
「アンリ君、準備は出来てる?」
「はいばっちりですよお師匠様。試験薬にモンクルに、それから系統表と、抑制剤……と。これで良いんですよね?」
「さすがに何度もやってるからこの質問は要らなかったかな。それじゃあまずはあそこに座って」
横に尖った耳を持つアンリ。所謂保健室の先生と言う奴だろう。机の上に広げられた物を誇らしげに見せびらかしている。
ユーリエルに示されたのは良く病院などにありそうな丸椅子。昴は少々不安に思いながらもその椅子に。
「何をするんですか?」
「お師匠様から聞かなかった?」
「と言うか師匠なんですか……」
「うん。私は魔法を教えて貰ってるの」
勝手な偏見だが、それは逆なのではないだろうかとも思ってしまうが、アンリ本人が言うのだからそうなのだろうと思い込む。魔法に関してはもうどうにでもなれ、と。理解はしないで、体で感じる。そうするしかないのだ。
「そういう事。別に君が思ってるような怪しい関係はないから安心して」
「別にどうとも考えていないんですが?」
「あらそうかい。そういう年頃だと思ったけど……それじゃこれから適正検査をやっていくね」
「俺をなんだと思ってるんです……?」
まずは机の上にある大きめの瓶を手に取ったユーリエル。瓶は黒く、中身は見えない。蓋が開けられ、取り出されたのは固形物。
「薬……?」
「そう、試験薬だよ。はいどうぞ」
昴の手に一粒の丸薬。昴の世界にも似たような錠剤は多々あるが、あれは使用用途がはっきりしていたから安心して口に運べる。しかしこれには何故だか警戒してしまう。




