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KotoSeka  作者: 吹雪龍
第1話
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「パラレルワールド!?」06

*****



 牢屋の中は快適、とまでは到底言えないながらも、ベッドは用意されているし食事もなかなかに美味い。着替えも毎日貰える。想像していた以上だ。


「これからどうなるんだろうな……のどかさんも心配してるだろうなぁ……」


 昴の体内時計では、この牢屋に入れられてからおおよそ二日は経過している、という事になっている。

しかし、どうもこのおかしな状況になってから、時間という物をあまり感じなかった。もしかすると、この牢屋の内部が真昼のような明るさを常に保っているからなのかもしれない。

そして、それらに順応しようとしている自分が居る。頭が追い着いていないが故に、無理矢理全てを受け入れる事で慣れていこうという魂胆なのか。


(ってかここどこなんだよホントにさ……)


 考えるくらいしかやる事がない。壁は当たり前に硬いし鉄格子だって硬い。脱獄だなんて出来たら面白そうではあるのだが、現在の昴にはそのような余裕も知識もない。

抜けられたとしても交代で見張っている看守の目を掻い潜り、更にはまた城内を駆け回る自信など皆無だ。そしてなによりも現実的ではない。


(そもそも現実なのかも怪しい……)


 腕を組みひたすら思考するも謎しか生まれない。やる事も無く思考は緩やかに停止へと向かう。これ以上労力を使うべきではないという判断を下した所に運良く声が掛けられる。


「ああ元気そうで何よりだ。だが、少し痩せたんじゃないか?」


「……あ、ヴァルゼさん。どうもー。痩せてはないと思うけど……すげえ疲れるな牢屋の中ってのは……やる事は無いしやれる事が無い」


「それが牢屋の役割だからな……いきなりだがスバル。嬉しい報せと悲しい報せ、どちらから聞きたい?」


 昴の様子を見に来たらしいヴァルゼだが、顔色がよろしくない。そこから察するに、ヴァルゼの『報せ』とやらがとても酷い内容らしい。


「……嫌な予感しかしてないけど一応良い方から聞きますよ」


「わかった。では……嬉しい報せからだが、次に日が昇る時には牢屋から出られるぞ」


「えっマジで? 出られるの?」


 昴は顔を輝かせてガッツポーズ。当然だ、牢屋に入れられていて気分が良い人間なんていないだろう。しかし、気分は晴れない。ヴァルゼの顔が曇りに曇っているのだから。


「……出られるには出られるんだが……」


「あんたみたいな人がそんな風になるなんて……ヴァルゼさんの何かを知ってる訳じゃないけど。とにかく相当ヤバいんだな……聞きたくはないけど聞かなきゃいけないんだろ?」


 肩を落とした昴にヴァルゼも困ったように息を吐く。


「やった事がやった事だからな。仕方ないと言えば仕方ないのかも知れないが」


「うぅ……もったいぶらないでくれよ。余計に怖くなってきたじゃねえか……なんだ花瓶割ったのそんなにマズいのか……?」


「心して聞くのだぞ。……陛下が、女王陛下ご自身がお主の罪を裁く事になったのだ……」


 額を押さえて語るヴァルゼの巨体は、小刻みに震えている。

 だが、昴は何でそんなにヴァルゼが怖れているのか全く理解出来ない。確かに言葉からして偉い人、という知識はある。そもそもこの時代に女王とは。一体何を言っているのだろうか。


「それは……そんなに怖がる事なのか?」


 首を傾げる昴。言葉の重さが上手く飲み込めない。女王というのが位だというのはさすがに分かる。だが何故そこまで震えるのだろうか。


「なっ!? 女王陛下が罪を裁くなど、死罪以外に有り得んのだぞ!」


 数秒の沈黙。

 目をしばたかせ、言葉の意味を徐々に理解して行く。


「死……って!! お、俺そんなに悪い事したの?死ぬの? なんで? 意味がわからんのですけど?」


 死罪。死刑。命を以って罪人を裁く法。それを、自分に。


「自覚が無い、だと……? 女王陛下のお嬢様の部屋に忍び込んだ、それだけで大罪だぞ……」


「ちょっ、どうにかなんねえのかよ! 無実だぜ? あんた、結構偉い人なんだろ? 説得とかしてくれよッ!!」


 鉄格子を激しく揺らす。事の重大さが今頃になって染みて来たらしい。たとえ誰であろうと死は怖いはずだ。いきなり自分がその場に投げ込まれて気が動転せずいられようか。


「すまない。主従の関係は崩せぬのだ……せいぜい、今だけは休んでくれ……何かしてやれれば良かったが」


「あ、おい……!」


 謝罪の言葉を述べ、ヴァルゼは牢屋を出て行ってしまった。

残されたのは、焦りを通り越した虚脱感だけ。頭の中も真っ白になり、何も考えられない。ベッドに倒れ込み、岩で造られたと思われる何もない天井を仰ぐ。


「クソッ……マジかよ……わけわかんねえ……!!」


 その一言を口にするのが、精一杯だった。

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