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KotoSeka  作者: 吹雪龍
第1話
58/209

「パラレルワールド!?」58

 荷物の中身は替えの制服や下着のような物が数十着、それから教科書や勉強道具と思しき冊子や文房具類。更には何に使うのか分からないが小さなナイフなど。一人分の生活としては十分過ぎると思われる量だ。そして大量の荷物よりも何よりもカルムが驚いていた事がある。


「ここ、元々もう少し暗い感じだったのに……」


 いつの間にか内装まで取り替えられていたとの事。話によれば以前は外観にそぐわない少し汚れたような風貌だったらしいが、現在二人の前にあるのはこれまた豪華な部屋だ。白い絨毯が敷き詰められ、ベッドも見る限り相当柔らかそうだ。他にも一見古そうな窓にも磨きが掛けられており、色褪せた机もアンティークの渋さが滲み出ている。部屋の広さはきっと変わらないのだろうが、配置や色遣いによって広く見せる演出が施されている。


「スバルさん、一体何者……?」


「……俺にも良く分からない」


 こんな事が出来る人間は限られている。そもそも自分の事を知っている人間だなんて数えられる程しかいないのだから。勿論助かるのは事実ではあるのだが。少々やり過ぎ感があるのは否めない。


「悪い、手伝ってもらえる?」


 さすがに一人ではこの状態を打破するのは難しいと判断し、カルムへと助けを求める昴だった。



*****



 部屋の片付けや夕食――ホテルのルームサービスのように配給してくれるようだ――を終え、気付けば夜も深い。昴は一人、机に向かっていた。カルムは新しいベッドに入るとすぐに寝息を立てて眠ってしまったため、明かりは極々最小限に。火を用いたランプである。マッチは無いが、癇癪玉のような火薬の塊を軽く擦って火を熾し、蝋燭に似た白い縦長の棒に明かりを灯すという手法。これくらいなら昴でも扱う事が出来る。消し方も至って簡単。息を吹きかければ消せるらしい。しかしまだ昴にはやる事があった。


「……」


 ただ黙々と手を動かす。いつにも増して真剣な表情だ。静かな部屋にはサラサラという音とカルムの寝息だけが響いていた。座り疲れたのか伸びをしながら立ち上がると、ゆっくりと窓の方へ。空には三つの月が輝いている。


「おいおい……何て顔してんだよ……」


 窓に映った自身の顔を見て嫌そうに呟く。特に変わった点は見られないが、本人にしか気付けないポイントがあるのだろう。その顔を睨み付け、諦めたように溜め息。


「進むしかないんだ。逃げるなよ俺……」


 誰彼構わず気丈に振舞う事は容易い。だが、心はまだ異世界という環境に付いて来れないでいる。その不安が顔に表れていたのだろう。だからこそ、睨むようになってしまった。やる気を出すように顔を両手で挟むように叩く。これからまだ、やらなければならない事が沢山あるのだ。ゼロからのスタートではあるが、その気になれば何だって出来る。それが昴の持論だ。


「受験の時も……あれは元からベースがあったからか」


 重ね合わせたのは過去の記憶。色々あったが、どうにかここまでやってきた。だから今回も上手く出来るはずだと。今自分に出来る事はただ前を向いて進んでいく事だけだ。後ろめたい事は多々あるが、それでも後ろ向きには考えない。現状を突破するだけの力はまだ無いが、道はある。ならば信じて進むのが最善だろう、と考える昴。


「っしゃ……もうちょいやるか」


 夜はまだ長い。正確な時間が計れないのがネックではあるが、自分が納得するまでこれを続けよう。何より完全に一人という訳ではないのだから。気合いを入れなおすと再び机の前へ。蝋燭――昴はもうこの棒を蝋燭だと認識――の灯りも大分小さくなってきた。これが消えるまで、頑張ってやろうと。

 こうして長い夜が更けていく。そして、翌日からは昴の新しい生活が始まるのだ。


「異世界、か……」


 幻想に過ぎない事だと思っていた。そんな物は絶対に存在しないと。まさかそんな自分が、ただの高校生が異世界に迷い込む事になろうとは。だがもう既に起こってしまった。少しずつ受け入れ、順応していこう。

 日常は唐突に終わりを告げた。新たに始まるのは昴にとっての非日常。逃げる事の出来ない新しい日常にどう立ち向かおうと言うのか――



*****




KotoSeka

第1話「パラレルワールド!?」終

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